Soundless Words 最初は小さな違和感だった。
首の下あたり、胸の真ん中部分がちくりとした。
それは痛みと言う程でもなく、強いて言えば鍋を洗うタワシの毛先がちょんと触れたような、そんなただの違和感。
思わず反射的に、トレーを持っていない方の手で首元を撫でた。服の中に虫でも入ったのか。首元から胸まで、ざわりと手のひらで撫でてみる。
「サンジどうした?痛むのか?」
足元から船医が見上げてくる。それに「あー」と一瞬だけ目線をうろつかせて、「なんでもねェ」と手を左右に振った。
「調子悪いなら言えよ」
「いや、ほんとになんでもねェよ。ちょっと痒かっただけだ」
そう言ってトレーの上に並んだグラスをひとつ差し出してやれば、船医は「それならいいけど」と顔を綻ばせた。
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