インプロージョン「おれら兄弟だよな」
返事がないままぷつっと切れた電話は何回かけても繋がらなかったしにいちゃんがふたりとも帰ってこなかった。
テレビはつけれない、仲間からのLINEがとまらない、腹がぐぅっと痛くなってきた。
ここにいたらいけない気がして、エースのおっきなリュックに小さめの酒瓶たくさんと真新しいマグカップをいれて家を出ると日が沈んで雨が降っている。
すぐにスーツを着た人が警察手帳を見せながら心配そうな顔をして寄ってきたから走って逃げた。
前にもこんなことがあったんだ、あのときも雨で腹が痛くて、エースを必死に追いかけて、うしろからサボがついてきてた、今は1人だ。
とりあえずコンビニのトイレに駆け込んで鍵をかける、あっ監視カメラにうつっちまったか?
スマホを開いてサボにもう一度LINEすると5回目のコールで出てくれた。
「ルフィすまねえ」
「サボ!おまえ何してんだよはやく帰ってこい!」
「今行く!縛られて閉鎖病棟入れられちまってたんだ、やっと拘束解けて部屋の鍵壊したとこ…うえぇ気持ち悪い、酒用意しといてくんね」
「何言ってんだおまえ」
「ルフィは?家と大学のカメラに映ってねえけどどこにいんの」
「近所のファミマのトイレ」
「ごめんなあ、にいちゃんがちゅーしてやるからなあ」
スマホの向こうからぐえ、とゲップの音が聞こえた、足音があやしい、ドタバタいろんなとこにぶつかって歩いてる…朝から飲んでねえからか?でも酩酊してるような…
「サボおれそっち行こうか」
「いやいいルフィはあれ隠してくれ」
「まさか覚えてんのか?」
「忘れねえよ酒飲んだくらいで!」
「覚えてんならやっぱ出てきちゃだめだ」
「大丈夫だルフィ誰にも喋らねえしおれの札束ビンタと諭吉シャワーやばいの知ってるだろ、警視庁のおっさんぶっ叩いておれの親」
ごとっ!と重たい音が聞こえて、くちゅんくちゅんと小さな水っぽい音ともっと遠くから女の人たちの悲鳴がややしばらく聞こえた。
「サボ?」
「弟かくるっふぅ〜」
「ハト?」
「おまえのもう1人の兄から書面で拘束、薬物投与、身体改造の許可をもらっているのだがこの自称革命家の入院期間は本当に3ヶ月か?こちらとしてはもう少し伸びてもものすごくかまわないのだがうるっふぅ〜」
「なに?書面でなんだって?エース3行以上の文字は疲れちゃって読めねえんだけど…」
「契約期間中はこいつを絶対に部屋から出さないという契約だふふぅ〜」
「おお!ほんとかよ絶対か?!警察が来てもか?!」
「それは聞いてないがその通りにしよううぅるっふううう〜っ!」
「おめえうさんくせえけどいいやつだな!!じゃあエースが出てくるまでサボのこと匿ってやってくれ!サボの金で!」
「まかせとけふうふうふ〜ぅぅ!当院は患者最最最優先だくるっふうぅぅううっ!!」
なんかテン上げだけどよかった、サボはひとまず安心だ。
通話を切りトイレを出ておれとエースが住んでいた家に走った。
あの日サボの家から運んだものをどうにかしないと。
家が近くなるに連れて腹がぐっと痛くなる、昨日久々の生肉だったからか?
家のまわりには誰もいなかった、裏手にまわってリュックからガソリン入りの酒瓶を出し、火をつけ家の割れた窓に向かって3本投げ込み全力で走って逃げた。