染まる 夜目が覚めて布団から跳ね起きバイト先に謝罪LINE送ろうとしたらブロックされていた、そういやおれ今日から無職だ。
ため息と一緒に首に冷たくぶら下がるネックレスがちゃりっと鳴る。
起きたばかりでまだじんわり熱が冷めない、布団に寝っ転がりネックレスの赤い玉のひとつひとつをつまんで眺める。
ルフィはいない、結局あいつ今日はバイトなのか?バイトじゃねえならまたあの屋敷か?なんでだ?友達ができたなんて今まで一言だって。
右に寝返りを打ち、ジーンズのジッパーを下げルフィがするように手を動かした。
もらったばかりのネックレスを口の中でしゃぶりながら熱を発散して、そこらへんに投げっぱなしのタオルに出して拭って死にたくなった。
はじめてひとりでしちまった、やっぱりするもんじゃねえな。
汗で頭の後ろが涼しくなるともっとさみしい、ふたりで使ってる枕を抱きしめてみても別にあったかくなかったしそろそろ洗わねえととしか思えねえ、臭い、彼の残り香♡だの柔軟剤♡だの言ってるやつは鼻から恋してんだきっと。
からだを起こして部屋を見渡すと狭いのに無駄に広く感じて辛くなった、ほんとは毎日辛い、ルフィが帰ってこなくなる日が来るかもしれないと思うと気が気じゃない、バイト中ずっとルフィのことばっか考えちまってなんにも手につかなかった、帰ってきて布団にまるまって寝息を立ててるルフィを見てようやく安心できるのに。
今日も夜が明けたら帰ってきてすきって言ってくれるだろうか。
枕カバーを剥いでタオルとルフィの脱ぎ散らかした服と一緒に洗濯機へ、自分の服も全部いれて、水を少なめに設定してまわす。
3日に一回洗濯できるのもルフィのおかげ。
リビングに戻って干してあるスエットの下だけ着て、カーテンを閉めて、歯を磨いて顔を洗って、むくんで痛い顔から首、肩を指でぐにぐに押してコンパだか寒波だかを流した気になって、あくびしながらリビングに戻って床に寝っ転がればもうやることがない。
何したらいいかわかんねえ。
テレビもねえし物作ろうとも思わねえし…外に遊びに行くか?ゲーセン、カラオケ、ドンキ、釣り…行ったことねえやずっと働いてたから。
趣味もなけりゃ金もない、こんなつまんねえやつのそばにいてくれるルフィはやさしい、今まであんまりいいことなかったけど、ルフィに会えたなら辛いことも意味があったような気がする。
布団に這って戻って丸まる。
またもらったネックレスを手にして眺めて、時々なめたりしゃぶったりした。
大丈夫ルフィはちゃんと帰ってくる。
寝る前に愛してるっていっぱい言ってくれるし、2日にいっぺんは穴貸してくれよって言ってしてくれるし、絶対ゴムつけてくれるし。
終わった後気怠そうにそっぽ向くのもさみしいけど後ろから抱きつくと振り払わない。
それにネックレスなんて恋人に贈るようなものまでくれたんだ、だから今どこぞのサボだとかいう金持ちの家に遊びに行ってたって別に…いやもとはそいつんちのものだけど…。
布団を抱きしめてLINEを開きルフィとのやりとりを見るとおればかり喋っててルフィは既読だけ、たまにスタンプを返してくれる。
今送ったってバイト中なら見ねえよな…遊んでても多分見ねえ。
スマホを頭の横に置き目を閉じる。
明日ハロワ行って失業手当をもらおう、履歴書書いて、できればもっと給料いいとこ。
最近スリの噂を聞かなくなったからきっとほんとにルフィは盗みをしてないはずなんだ、してるとしたらおれがルフィを満足させられるだけの稼ぎがないから。
ルフィが好きって言ってくれるなら頑張れる、でもどう頑張ったらいい、こんなおれを雇ってくれる店が果たしてあるのか。
ぐるぐる考えてるうちに二度寝してそのまま朝を迎えた。
ルフィはいない、温もりが全く感じられない室内におれはひとり。
目が痛い、ネックレスばかり眩しくておれが消えてなくなっちまうくらい自信満々に輝くそれは外したいけど外したくない。
バイトで遅くなってるのかもしれない、だって、まだ朝5時半だし。
洗濯物を干してまた寝っ転がる。
日が傾いて8時になった、遅い、今頃だったらおれとえっちしてるはずなのに。
曇りがかって12時になった、LINEは既読にならない、豆腐を齧ってネックレスを眺めた。
雨が降って夕方4時。
上を着て玄関の外で座り込んだ、ナメクジとミミズが優雅に歩きまわってる中電話した、繋がらなかったからもう一回電話したけどルフィはでなかった。
霧雨の夜8時。
ルフィのトナカイの帽子を持って近所を徘徊してたら警察に声をかけられた、あたたかくなってきて不審者がうんたらかんたら気をつけてくださいあーだこーだ。
左目の下に傷がある男の子みませんでしたかって聞きそうになってやめた、過去のことがバレて捕まっちまうかもしれないし。
雨が止んだけどまだ空がぐずつく0時。
警備員が誰もいない。
サボだとかいうやつの屋敷の門の前に立ち、またLINEして電話したけど出なかった。
門は開いてる。
庭に入り左手には薄い青色のバラ園があり、右手には首からごろっと落ちたドスの効いた椿の花が地面を埋めていた。
ネックレスをいじりながら10分くらいその場に留まったけど誰かが歩いてくる気配はない。
首が痛くなるくらいデカい玄関の前まで歩きドアを叩いてみたけど反応はない、鍵もかかってる、警備員はどこだ?インターホンがどこにあるかもわからねえ。
警備員を探しに丸裸の椿の木の間を通り抜ける。
夥しい椿の死骸を蹴飛ばしながら裏手まで歩いたけど誰にも会うことはなかった。
もう一度玄関まで戻ると足元が血塗れ…いや椿で赤く濡れている。
大きい声ですみませーんと叫ぶと玄関がゆっくり開き、おれより赤く染まったパジャマ姿のやつが出てきた。
振り返って走り出そうとすると抱きしめられ押し倒されて舌を突っ込まれたから張り手して引き剥がそうとするも腰にひっついて離れない。
「てめえ何しやがる!」
「エース!」
「ああ?!」
「エースだよな!こんな目ぇ細くてそばかすならエースだろ!ああずっと会いたかったどうしたんだよこんなにむちむちに育ちやがっておれのためかおれを抱きしめるためだな大好き愛してるエースもう絶対おれらは離れないんだ愛してるエースぅぅ」
一気に捲し立ててまたディープキスしてくる、首を振ったら頭を押さえ込まれて唇を噛まれた。
顔の半分が皮向けみたいな感じになってて赤黒く鉄臭い男は明らかに発情しててちんこ勃ってて気持ち悪い。
身体中もみくちゃにまさぐられながら息つく間もなくキスというか捕食みたいな口付けを繰り返されてなにがなんだかわからない。
「エース♡もしかしてキスはじめてか?鼻で息するんだぞ」
「っせーなどけろよ!おい誰か!」
「誰もいねえよおれとルフィしか」
大きな手に力強くおっぱいを持ち上げられてじゅぱじゅぱ舌を吸われると内腿がびくびく震えてきた。
ルフィはやっぱりこの屋敷にいる。
睨みつけると金髪の隙間からデカい目を細めて微笑まれてほっぺにキスをされて胸がぎゅっと詰まった、うううかわいい…?!
かわいいけど髪も顔も、パジャマも指先まで全部茶色く汚れている。
こんなやつが出てきた屋敷の中にルフィが?
「ネックレスつけてくれてるんだね、うれしい♡とっといてよかった」
「あっ?う、んんもう離れてくれ、ルフィは」
「無理離れたら死ぬ」
「ちんこ揉むな!ルフィはって」
「会う?」
頷くとこいつはにこっと笑って立ち上がりおれを無理やりおぶって屋敷の中に入った。