「初心者向け!簡単に作れる定番料理!」
何を真剣に見ているかと思えば、どうやらレシピらしい。これとこれとこれがあれば簡単に作れる、などが見える。
真剣にその本を見ているのは、諸星大───私の姉の恋人。
組織が壊滅してから、私達は自由になった。
壊滅させたのはこの諸星大だ。
本当の名前は赤井秀一だと私達に教えてくれたが、変わらず私達は大くんや諸星さんと呼んでいる。
諸星大は少し複雑な顔を最初はしていたが、今は気にすることなく反応を返してくれるようになった。
そんな彼の恋人である姉は、今仕事に出かけている。私は家で研究する仕事についているため、基本その会社が決めた休憩時間と勤務時間に基づいて行動している。
今は仕事も終わってそろそろ晩御飯かなと言う時間帯。
読み込み終わったのか、彼が動き始めた。
どうやら何か作るらしい。使う食材は買ってきていたようで。私はなんとなくそれをソファからボーッと見てみる。
するとでっかい音が突然響き始めた。
ガンッガンッという音。
びっくりして慌てて駆けつけて見れば、包丁を上から振り上げてそのまま真っすぐ具材に向かって切り落としている。
思わず肩を掴む。
「ちょ、ちょっと。落ち着いて」
「?俺は至って落ち着いているが」
「え?」
「ん?」
とりあえず包丁をまな板の上に置かせて話を聞いてみれば、まともに包丁すら握ったことがないらしい。初心者も初心者だった。お姉ちゃんが幻滅する前に私がなんとかしないと。
「私も手が空いたし、手伝うわ。というか教えるわ。だから包丁をまっすぐに振り落とすのは勘弁して頂戴」
「分かった、じゃあ頼もうか。生姜焼きを作ろうと思っててね」
「生姜焼きね。さっき見てた本のレシピでやるわね」
「見られてたのか……」
少し気恥ずかしいな。なんて言いながら、私の伝えたやり方で包丁を使って具材を切っていく彼がいた。彼には生姜をみじん切りにしてもらっているので、私は別のまな板と包丁(お姉ちゃんと料理することがあるので2つある)玉ねぎを切ることにした。切り終わったのか、彼はこちらを振り向くなりギョッとしている。
「どうかしたか?どこが痛かったりとかは?」
玉ねぎを切るとどうなるのかしらないようで、ワタワタとしている。あまり見ない姿に思わず吹き出してしまった。
「大丈夫よ。玉ねぎを切ると人は涙が出やすくなるのよ」
「なんだ、そうなのか。良かった、君がなんともなくて」
「なにそれ。ふふ、あははっ!」
最初はそんなに笑わなくても。と少し拗ねていたが、ちょっとすると彼も釣られて笑っていた。
そんなこんなで炒めて、飾り付けをして無事できあがり。
ずっとコンロの前に二人して立っていたので少し休憩しているとお姉ちゃんが帰ってきた
「ただいまー」
「「お帰り(なさい)」」
「御飯作ってくれたの?ありがとう」
「諸星さんが主に作ってくれたの」
「志保がだいぶ手伝ってくれたから、あんまり俺は出来てないが……まぁ、頑張ったつもりだよ」
「あら。ふふふ、仲が良くていいわね。嬉しいわ。二人共ありがとう」
「ほら、あんまり立ち話するのもあれだし早く食べましょ」
2人にくすっと笑われたのを感じながら、先にリビングの卓につく。後から二人共やってきて一緒に座った。
「それじゃ」
「「「いただきます」」」