それは或る晴れた秋の日の、(マサ音)夕餉でのことだ。目の前にはぷくっと頬を膨らませて不機嫌そうに見つめてくる彼の姿。湯上りの所為か、いつもならば動きに合わせてふわふわと揺れている赤髪はしっとりとそのボリュームを落とし、拗ねている姿と相まって……不謹慎だと分かってはいるものの、愛らしく目に映る。
こうなってしまったのは、先程まで放映されていたテレビの内容が原因である。
それは清々しく、高い空に青が広がるとても晴れた日のこと。けたたましい蝉の声と共に続いていた茹だるような暑さは鳴りを潜め、穏やかな鈴虫の音に澄んだ空気と風が心地良い季節へといつの間にか移り変わっていた。
そんな最中で俺と一ノ瀬は例の旅番組への出演が以前から決まっており、この爽涼とした気候の中で、某日、目的地の温泉街へと旅立った。
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