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    3/5『Cake, Tea or ME ? 2』展示作品
    四年生になったトレイと三年生のジェイドが久しぶりに二人きりで過ごす一夜のお話(健全ver.)

    Cake, Tea or ME   ナイトレイブンカレッジの四年生は学生最後の一年をほぼ学外で過ごす。魔法士養成の名門校ゆえ、実習先はひくて数多。ほとんどの四年生は自分の希望した通りの実習先に赴き、インターンという中途半端かつ自由な身分で実践を学ぶ。
     トレイが実習先に選んだのは薔薇の王国にあるとある研究機関。薔薇の王国と言っても、地元である王都から遥か北の端にある海辺の研究所。冬になれば雪と氷に閉ざされてしまう港と小さな飛行場に離着陸する週に一度の定期便でしか辿り着けない陸の孤島ともいえる場所だった。
     実習先が決まった時には周囲の様々な友人たちと一悶着あったのだが、その全をトレイは正論で黙らせた。たった一人、親友の「あのトレイくんが恋心でこんなことするなんてねえ」という謎の感心には苦笑して返すしか出来なかったが。
     北の果てにある海辺の研究所。そこは彼の恋人の故郷に程近い場所だった。

     元々トレイは華やかな生活に焦がれるタチではない。都会育ちの割には辺鄙な田舎町にもすんなりと馴染み、本職の研究員に混じっての研究や実習、初めての一人暮らしと、忙しくも充実した日々を送っていた。
     研究所の人々も町の人々もトレイを歓迎してくれた。研究所としても町としても久しぶりの新顔に皆わきたち、あれこれと世話を焼いてくれた。
     恵まれているとトレイは思う。たまに連絡を取り合うクラスメイトの中にはいきなり激務に巻き込まれてひぃひぃ言っている者も少なくないのに、トレイは自分のペースで着実に経験を積ませてもらっている。
     私情を混入させすぎている進路選択だったが、海洋資源の調査と保護という研究所の仕事内容は薔薇の王国にとっても重要で将来性のある分野だし、将来は珊瑚の海の研究機関とも提携予定となれば気合も入るというもの。
     トレイは今の生活を大変気に入っていた。
     たった一つ、恋人に逢えないというどうしようもない一点を除いて。

    「俺は今ほどお前との歳の差を呪ったことはないよ」
    「おやおや、まだ三ヶ月と経っていないのにもうカレッジシックですか? 困ったトレイさん」
     くすくすと笑うジェイドの声には労りが込められている。耳に心地よい低音が紡ぐ自分の名前が疲れた心と身体に沁みる。
     夜、わずかな自由時間を使って恋人と通話するのが日々で一番楽しみにしているトレイの日課となっていた。とはいえ、ジェイドは去年に引き続き副寮長を務めているし、来年に向けて後輩の育成にもも力を入れているらしく、トレイに負けず劣らず多忙な日々を過ごしている。せっかく通話を繋いでも一言二言話してお終い、ということも少なくなかった。
     今日は久しぶりにゆっくりと時間が取れる夜だった。
    「同じ学年だからといって頻繁に逢えるものでもないでしょう。基本的に同じ実習先に二人以上で赴くことはありませんから……フロイドと丸一年も離れて過ごすなんて生まれて初めてです」
    「そりゃそうだが……でも、同い年だったら離れて過ごすのは一年だけで済んだだろ? 実習先をなるべく近い場所にすることだって出来る。お前たちはやっぱり珊瑚の海に行くのか?」
    「今のところ陸の実習先と海の実習先それぞれ検討中です。春休みに一度帰省するので、そこで両親とも相談して決めようかと」
    「そうか」
     とにかく珊瑚の海とのパイプを作ることに執心しているトレイだが、ジェイド自身は卒業後の進路を決めかねているようだ。トレイが学園にいた頃からなんとなくは話し合っていたのだが、早計に、それも自分一人だけで決めて良い事ではないと、はっきりとした結論は出ていなかった。
     それはそうだ。自分の人生は、最終的には自分で決断すべきと考えるトレイだが、陸の人間が陸の上の違う大陸に行くのとは違う。海から陸に上がるのは並々ならぬ苦労があると聞いている。変身薬さえあれば気楽に来れるというものでもないらしい。家族とよく話し合うのは当然だと、頭ではちゃんと分かっている。
    「ふふ、そんな拗ねた声をしなくても。帰省の前にあなたのいる町にも寄りますよ。どうせ通り道ですし」
    「……俺、そんなに拗ねてたか?」
    「ええ、とってもわかりやすく」
     分かってはいても、恋人が無条件に自分と生きる道を選択してはくれない現状を受け入れるにはトレイはまだまだ未熟だ。
    「まいったな……すまない、ジェイド」
    「謝らないでください。あなたが僕を愛して下さっている証拠ですから。嬉しいですよ」
    「はは、あんまり優しすぎるのもおっかないが……そうだな、今年は誕生日も直接祝えなかったからな。少し参ってるのかもしれない」
    「……僕も、お逢いしたいです。お話ししたいことがたくさんあるんです」
    「俺もだよ、ジェイド」
     通話なんかじゃ足りない。顔を見て、触れて、伝えたいことがたくさんある。
     一年の歳の差、そしてナイトレイブンカレッジのシステム上避けて通れない一年を覚悟はしていたが。実際は三ヶ月足らずでこのありさまだ。
     もっと長く遠い別離がこの先あるのかもしれないけれど、そんな不確かな未来よりも確実にあと三ヶ月は逢えないという現実が、若い恋人たちには辛かった。

     憐れな恋人たちに祝福を授ける神様、なんて都合の良い存在はトレイもジェイドも信じていないが、救いの神は意外と身近にいるものだと思い知らされることになる。

    「ジェイド、来週の週末って空いてるか? レポートの提出ついでに植物園へのお使いを頼まれてな。来週の末に学園に行くことになったんだ。植物園での採取は半日も掛からないし、金曜の夜から日曜の朝まで。もしジェイドがよければ一緒に過ごさないか?」
     学園の植物園にあるとある貴重な植物。繊細なものなので通常の配送便などもっての他。魔法での転送も影響があるので魔力の干渉を最小限にとどめる防壁を張った上で人の手で持ち帰る必要がある難儀な植物が急遽必要になったのだという。管理者たるクルーウェルとのやりとりは現代らしくメールと通話だけで済んだのだが、誰がその植物を運ぶかという話になった時、たまたま同席していたトレイに白羽の矢が立った。
     インターン中とはいえ現役の生徒なので闇の鏡を使う許可も簡単に降りる。向こうにいる後輩に持って来させるよりもトレイが取りに行ったほうが早いだろうと、上司と恩師の双方から言われてしまった。
     そこにはもちろん「学園に戻って息抜きしてこい」という温情も含まれている。
     本当に良い人達の元で学ばせて貰っている。トレイは改めて感謝し、喜んで引き受けた。
     それが今朝の話。花が熟すまでもう少しかかるとのことで、闇の鏡を開くのは来週となった。
     ジェイドの予定は聞いていない。急に決まった話だし、もしかしたらモスロトラウンジのシフトや山に行く予定が入ってしまっているかもしれない。そんな不安を押し殺して聞いてみたのだが、トレイの心配は杞憂に終わった。
    「金曜はラストまでシフトが入っていますが、到着は何時になりますか? 土曜のシフトは日曜と変えてもらいますからご心配なく。あなたと久しぶりに逢えるんですから、それくらいはしますとも。ええ、ええ! 金曜の夜から日曜の朝まで、あなたと過ごさせて下さい」
    「ジェイド……ありがとう」
    「ふふ、楽しみにしていますね」

     あと三ヶ月は逢えないと覚悟していたのに、降って沸いた来週の逢瀬。
     どうすごそうか、何をして過ごそうか。
     学園に戻るまでの一週間恋人たちの通話は短くも幸せに満ちたひとときとなっていた。



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