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    桜餅ごめ子

    @yaminabegai

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    桜餅ごめ子

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    カビマホ小説
    カービィへの独占欲はあるけどやっぱり自由でいてほしいマホロアの話。
    前にエアスケブでヤンデレネタを頂いたときにぽしゃったネタをサルベージしました。
    一部のべりすと使用。

    ##全年齢

    旅人のハーバリウム 凝り性の自覚はあった。
     作業に集中しすぎて寝食を忘れてしまうのはしょっちゅうだし、目的の為ならとことん下調べする。ミニゲーム作りも、よろず屋経営も、全宇宙の支配ですら。やるならば徹底的に、隅から隅まで趣向を凝らさなければ気が済まない。そんな性分と一時の異常なテンションがコラボレーションして誕生したのが――この、カービィ専用監禁部屋である。
    「……イヤ、チガウヨ、チガウンダヨ、ローア」
     心はあれど物は言わぬ我が船ローアに生ぬるい視線を向けられたような気がして、ボクは咄嗟に弁解する。
    「カービィをココに閉じ込めようトカ企んでナイヨ、ホントダヨ!」
     我ながら悲しくなるほど信憑性に欠ける。しかし、今回ばかりは真実だ。ボクがこの部屋を作るに至ったのには、それなりの経緯があった。

     娯楽研究の一環として、ボクはとあるゲームソフトを入手した。特徴は、豊富な種類のインテリアやアイテムで、主人公や友人キャラクターの部屋、果ては住んでいる島に至るまで、丸ごとコーディネートできること。凝り性を沼に引きずり込むようなゲーム性で、ボクも御多分に漏れずのめり込んでしまった。コツコツとプレイしていたある日、アップデートで他のプレイヤーのインテリアコーディネートを閲覧できる機能が搭載された。それにより、自分では思いつかなかったような部屋を見ることができた。
     中でも印象に残ったのが、「ヤンデレ監禁部屋」というテーマだった。ヤンデレとは、意中の相手への愛情が高まりすぎて病的な精神状態になること、ヤンデレ監禁部屋はその意中の相手を監禁するというシチュエーションを想定したインテリアコーディネートのことらしい。ゲームソフト自体はあくまで一貫して可愛らしく牧歌的な作風なのだが、やりようによってはホラーテイストを付与することもできるようだ。ゲームシステムの自由度の高さがプレイヤーの創作意欲をかき立てる好例と言えるだろう。
     もし、ボクが誰かを監禁したいと思うとしたら、カービィしかいないだろう。ならば自分もひとつ作ってみようかな――そんな軽はずみともいえる考えが、ことの始まりだった。ハマったときの熱量とは実に恐ろしいもので、いつしかボクはゲーム内だけでは満足できなくなり、最終的にローアの一室を大改造してしまったのだった。

     こしらえた部屋は、たくさんのぬいぐるみやクッションで溢れていた。しかし子供っぽくなりすぎないよう、全体的なカラーリングはシックに抑えて、気品も備えている。手錠はパステルカラーでキュートだし、ふわふわのタオル地素材なので痛くならない。ベッドには紺碧色の天蓋カーテンが備え付けられていて、まるで外界との繋がりを遮るかのように揺らめいている。可愛らしくもどこか閉塞感のある、ミステリアスな部屋に仕上がった。
    「ナカナカいい出来栄えナンジャナイ?」
     スマートフォンで部屋の写真を撮影し、その見栄えの良さに自画自賛した。元より美的センスには自信がある。カービィを監禁するならこんな部屋、というコンセプトを上手く表現できているのではないだろうか?
    「……コンナ部屋作ってオイテ何を言うンダって話ではアルケドサ」
     何かに言いたげに視線を寄越し続けるローアに向かって、ボクはコホンと咳払いした。
    「ボクはカービィを閉じ込めたりシナイシ、閉じ込めタッテ意味ナインダヨ」
     星のカービィ。春風のように軽やかで、一等星のように皆を照らす彼。そのぬくもりを、――その明るさを、ボクだけに向けてほしい。そんな夢想をすることは確かにある。しかし、実行に移すことなどありえない。
     ボクがポップスターに帰還するためにどれほど死に物狂いだったかなんて、カービィ達には関係のないことだ。彼らにとってのボクは所詮、優しさを利用して裏切ったくせに、何食わぬ顔で戻ってきた虚言の魔術師にすぎない。そんなボクを友達と認め、信頼してくれるカービィ。もう、絶対にあの子を裏切りはしない。王亡き樹冠を断ち切った大剣に、ボクはそう誓ったのだ。それに、風は捕まえられないからこその風であり、星は掴み取れないからこその星だ。無粋にも摘み取って、しおらせたくはない。
     とはいえ、ボクの魂をかけた誓いも、他者から見れば嘘つきの戯れ言にしか聞こえないだろう。そんなボクが、このような部屋を作っていることが知られたら、カービィにも、カービィの周囲の人々にも、どのような扱いを受けるか分からない。
    「ダカラ、この部屋のコトは誰にもナイショダヨ。ローア」
     内緒、という言葉の響きは、まるで子供の些細ないたずらのようだ。やっていることはひどく性格の悪い所業なのに。ボクは密やかにクスクス笑うと、部屋の扉に何重ものロックをかけた。

    「サテ、そろそろ準備しなキャ」
     キッチンに向かい、冷蔵庫を確認する。チョコレートのコーティングはしっかり固まっていた。今日はカービィが遊びに来る予定だから、おもてなしの品としてボクはラズベリーチョコレートケーキを用意した。バターとココアをたっぷり使ったスポンジには、生のラズベリーから手作りしたソースがたっぷり塗られている。じっくり作り上げたガナッシュからは、隠し味のラズベリーリキュールが香り立つ。紅色の果実と濃厚なチョコレートは、まさに蕩けるような甘い愛情――ヤンデレ、を体現しているだろう。
     もっとも、カービィはそんなこと知るよしもない。手先の器用な友達に美味しいケーキを焼いてもらった。彼にとっては、ただそれだけのことだ。それでいい。ボクの自己満足、一人遊びで構わないのだ。クククッと喉の奥で小さく自嘲する。
     どうやらボクは、どうあがいたってキミのまともな友達にはなれないようだ。それでもどうか、傍にいさせてほしかった。キミの心の、はしっこでいいから。

     テーブルをセッティングし、キッチンでティーポットとカップを温めておく。最高の状態でカービィを迎えられるように全ての準備を終えた頃、ローアがカービィの到着を知らせてくれた。
    「ヤア、カービィ! 待ッテタヨォ」
     カービィを迎え入れると、彼は待ちきれないといった様子でボクにしがみついてきた。
    「マホロア~! はやくケーキ食べたい! ぼく、ず~っと楽しみにしてたの!」
    「分かってる分かっテル。イマ紅茶淹れるカラ、チョット待ってテネェ」
     カービィをテーブルに着かせると、ボクはキッチンでケーキを切り分け、紅茶と一緒にテーブルに運んだ。その様子を、カービィはきらきらとして瞳でじっと見つめていた。
    「ハイ、メシアガレ」
    「いただきま~す!」
     ボクがそう言うと、カービィは待ってましたとばかりに勢いよくフォークを手に取ると、もったいぶるようにケーキを小さく切り出して、ひとくち頬張った。
    「んん~っ、お~いし~い! マホロア、これす~っごくおいしいよ!!」
     頬を押さえながら、カービィはうっとりと目を細めた。ボクは得意げにフフンと鼻を鳴らして笑う。
    「まだまだアルカラ、好きなだけ食べるとイイヨォ」
    「えっ、マホロアは?」
    「ボクは一切れで十分ダヨ。食いしん坊のキミじゃあるまいし……」
    「そーいうもの? まあ食べていいなら遠慮なく!」
     カービィはそう言いつつ、噛みしめるようにケーキを食べ進めた。気に入ってもらえたようで何よりだ。お菓子作りなんて、昔は興味すらなかったが、これだけ幸せそうに食べてくれる相手がいるなら、手間をかけて作った甲斐もある。ボクは紅茶を飲みながら、カービィの食事風景を眺めていた。
     自分の作ったものを喜んでくれる。楽しんでくれる。それが嬉しいだなんて、とうの昔に捨てたはずの感情だった。今だって、心が喜びの声を上げるたびに、柄じゃない、と押し込めてしまいそうになる。それでもボクは、このぽかぽかと温かい胸の熱から、もう目をそらさないと決めたのだ。

     結局カービィは、ケーキをすべて平らげてしまった。結構大きめに作ったので、余るようならお土産として包もうと思っていたのだけど。さすがは星のカービィ、といったところか。
    「はあ~、ごちそうさま! ありがとう、マホロア。すーっごくおいしかったぁ!」
     満足そうにお腹をさするカービィに、ボクはにこやかな笑顔を返した。
    「ククッ、お粗末サマデシタ。ソウダ、ゲームでもやるカィ? ボク、いろいろ持ってるンダ」
     娯楽研究の一環としてプレイしたゲームソフトは、件のインテリアコーディネートのゲームだけではない。アクションゲームやロールプレイングゲーム、体感型ゲームなどなど、幅広く収集していた。カービィをゲーム用の部屋に案内すると、彼は感嘆の声を上げた。そして興味津々にきょろきょろとゲームソフトの棚を見回し、ひとつのゲームソフトを手に取った。
    「あっ、これやってみたかったやつ!」
     それは、ポップなグラフィックで構成された2D横スクロールアクションゲームだ。主人公と相棒の二人で協力してステージの道中に現れるザコ敵を蹴散らしていくという、シンプルでオーソドックスなものだ。
    「イイネ。さっそくはじめヨウカ」
     ボクはそのゲームソフト用の携帯ゲーム機を棚から二台取り出し、片方をカービィに渡した。カービィが主人公キャラ、ボクが相棒キャラを操作することにした。ボクはこのゲームソフトを過去にクリアしたことがあるため、今回は初めてプレイするカービィのサポート役に回ることにした。
     二人でしばらくプレイしていると、カービィが横からボクの顔を覗きこんできた。
    「ねえマホロア。これ、どのドアに入ればいいの?」
     カービィがゲーム画面を指し示した。そこは迷路状になっているステージで、正しい手順でドアに入らなければスタート地点に戻されてしまうようになっている。
    「ア~、ここは……エート、どうするんダッタカナ……?」
     ボクがこのゲームをクリアしたのは結構前のことだから、記憶がおぼろげだ。細かい攻略法までは覚えていない。確か当時プレイした時、スマートフォンに攻略メモを保存していた気がする。それを見れば道順が分かるだろう。そう思ってスマートフォンを探したが、見当たらない。別室に置いてきてしまったのだろう。
    「チョット待ってテ。スマホとってくるヨォ」
    「は~い」
     カービィの暢気な声を背に、ボクはスマートフォンを探しに行った。記憶を頼りに探索したが、ロビーにもキッチンにも、そのほかの部屋にも無かった。ほかの心当たりといえば――あの、カービィ専用監禁部屋だ。きっと部屋の写真を撮った時に忘れてしまったのだろう。カービィがローアに居る今、あの部屋のロックを開けるのは不安だ。しかし、もはや心当たりはあの部屋くらいしかない。スマートフォンを回収するだけだし、と観念し、ボクはあの部屋に向かうことにした。

     厳重なロックを外し、部屋に足を踏み入れる。奥へと進み、家具を順番に調べていくと、ソファの上にスマートフォンがあった。ホッと胸を撫で下ろしたのも束の間、ぽてぽて、という音が背後から聞こえた。
     ハッとして振り返る。そこにはピンク色でまん丸な、よく見慣れた姿があった。
    「カービィ!?」
     ボクの戸惑いをよそに、カービィはいつものぽけっとした顔で部屋を見回していた。この部屋は一見かわいらしいが、醸し出される異常性は隠せない。いくらカービィでも、いずれこの空間の違和感に気づくだろう。
    「ここ、なんのお部屋?」
    「そ、ソレハ……」
     キミを閉じ込める想像で作った部屋――なんて、言えるわけがない。ボクがまごまごしている間にも、カービィは天蓋カーテン付きベッドに歩み寄っていた。
    「わっ、すごーい! このベッド、カーテンが付いてるよ!」
     カービィは歓声を上げると、ぴょんとベッドに飛び乗った。
    「見てマホロア、これふかふか! 気持ちいいよ~」
     きゃらきゃらと笑いながら、ころころと転がってその感触を楽しんでいる。しばしそうしたあと、彼はボクの方に顔を向けた。
    「ここで何してたの?」
     カービィに問い返され、ボクは平静を装う。
    「スマートフォンをこの部屋に置き忘れチャッテネ。取りに来ただけダヨォ」
    「そっかぁ」
     カービィは納得した様子だった。ボクは内心胸を撫で下ろしつつ、スマートフォンをポケットにしまう。早くカービィをこの部屋から引き離そうと思い、ベッドに近づく。
     しかし、ボクは見入ってしまった。ベッドの上で横たわる無邪気なキミに。まるで美しい宝物のようだった。誰にも取られないようにしまいこまれた、宝物。
     ああ。その全てを、この夜空色のカーテンで隠してしまえたらどんなにいいだろう。みずみずしい桃色の頬も、宇宙を流し込んだ瞳も、その魂の輝きも、全て。
    「マホロア?」
     カービィに声をかけられて、揺らいだ思考が現実に引き戻された。ボクは慌てて愛想笑いを浮かべる。
    「い、イヤ……カービィ、この部屋気に入ったのカナァッテ」
    「うん!」
     彼の元気な声に思わず気が抜けてしまう。しかし、次のカービィの言葉によってボクの心臓は凍りついた。
    「これでぼくと、ふたりっきりで遊べるね?」
     カービィはそう言うと、気まぐれな猫のように、ニヤリと笑った。
    「ナ……ッ」
     思いもよらぬ展開だ。頭が回らず、声も出てこない。カービィはこの部屋の意図に気づいていたのか? いくらボクが本当に実行する気はないとはいえ、「キミを監禁する部屋を想像して作った」なんて、気味悪がられるに決まってる。
    「ナニ、言ってるんダイ?」
     声が上擦りそうになるのをなんとか抑え、自然な口調で問いかける。一方、カービィは平然とした顔で言葉を続けた。
    「ここでぼくと遊びたかったんでしょ?」
    「ちがウ! そういうわけジャ……!」
    「なんでそんなに焦ってるの?」
     カービィはくすくすと笑いながらボクに近づいてきた。ボクは後退りしつつ必死に頭を回す。どうすればいい? どうすればこの場を切り抜けられる? どうすれば彼に、嫌われないですむ? どうすれば彼の「トモダチ」でいられる? 何か言わなければならないのに、彼に嫌悪の目を向けられたら、拒絶されたら。そう思うと恐ろしくて、言葉が全く浮かばない。ボクがまごまごしているうちに、カービィはじりじりと距離を詰めてきた。
     ――とさり。
     カービィに手を引かれ、ベッドに押し倒された。彼の顔が間近に迫る。思わず身体がビクッと震えた。冷たい汗が背筋を伝っていく。
    「……ぼくのこと、ひとりじめしたかったの?」
     カービィがボクの耳元でそっとささやいた。胸の奥をくすぐるような、小さな声。
     だめだ。そんな声を聞かされたら、我慢できなくなる。あふれ出してしまう。ボクの醜い独占欲が、キミのまばゆい在り方をゆがめてしまう。頭の中で警報が鳴り響いているのに、彼の瞳から目を逸らせない。
    「ち……チガウヨ……ちがう……」
     独り占めなんてしたくない。それは確かに本心で、でも独り占めしたいという思いもまた真実で。淀んだ感情を押さえ込んでいる間にも、しったりとした肌に、あたたかな体温に、思わずうっとりしてしまう。このままではまずいと分かっているのに、酒にでも酔わされるように思考がどんどん鈍っていく。どうしようどうしようと考えているうちにも、カービィはどんどん距離を詰めてくる。
    「マホロア」
     吐息混じりの声が、ボクの名を呼んだ。くりくりとした丸い瞳がボクを見つめている。全身が心臓になってしまったみたいに強く胸が高鳴る。ひゅーひゅーと細く息を切らすボクを、カービィはぎゅう、と優しく抱きしめた。
    「ぼく……だれにもひとりじめされたくないんだ」
     彼の言葉に、唇を噛みしめる。そんなこと分かっている。分かっているのに。――分かっているのだから、わざわざそんな、はっきり突きつけてこなくたって、いいのに。苛立ち紛れに彼の身体を押しのけようとするが、どんな強敵も退けてきた彼の力にはかなわず、びくともしない。
    「離してヨ……」
     ボクは震えた声で言った。感情の濁流が心の中で荒れ狂う。自分が自分でなくなるような感覚が恐ろしい。
    「やだ」
     カービィはそう言うと、さらに強くボクを抱き寄せた。鼓動の音まで分かってしまうくらいに密着しあっているのに、彼はボクの胸の内など全く知らない。そう思うと、腹立たしくすらあった。いっそのこと、ボクの気持ちをぶちまけてやろうか? 汚濁に塗れた、醜いボクのすべてを。そうしたらキミは、一体どんな反応をするのだろう。軽蔑するのか、拒絶するのか、はたまたその両方か。怖い。怖い。怖い。ボクはとにかく必死に言葉を紡ごうとした。しかし声が出てこなくて、ぱくぱくと口を動かすことしかできなくて、どうしたらいいのか分からなくなって、次第に息すらできなくなって――その時だった。
    「……だれにもひとりじめされたくない、けど」
     カービィはそう言うと、少し身体を離した。彼の顔がよく見えるようになって、視線が交わる。
    「きみに、ぼくをひとりじめしたいって思われるのは……ちょっと嬉しいかも」
    「……へ?」
     予想だにしなかった言葉に、ボクはぽかんと口を開けた。
     どういう意味? そんなのまるで、ボクは特別だ、と言っているようなものじゃないか。いや、そんなはずない。何かの間違いだ、期待するな。落胆も肩透かしもぬか喜びも、今まで何度だって味わってきたじゃないか。でも、もしかしたら、でも……。脳内がぐるぐるとかき回される。
    「ふしぎだなぁって、自分でも思う。ぼく、縛られるのきらいなのに。自由なのが好きなのに。今はね、きみの……ぼくだけへの気持ちがほしいって思うんだ」
     カービィはそう言うと、ボクにふわふわの何かを差し出した。それは、ボクがこの部屋に配置した、パステルカラーの手錠だった。
    「ねえ、マホロア。……これ、使う?」
     カービィはそう言うと、その手錠を自らの手に嵌めようとした。ボクは反射的に、彼の手から手錠をはたき落とした。
    「わっ」
     驚きの声が短く上がる。そして、きょとんとしたあの顔で、カービィはボクを見つめた。
    「ダメ。使っちゃダメ。……使いたく、ナイ」
     ボクは震える声で、絞り出すように答えた。カービィは困ったように笑って、ボクの言葉を反芻した。
    「使いたくないかぁ」
     カービィはボクの手を取ると、ぎゅっと握りしめてきた。彼の手の温度が、手袋越しに伝わってくる。
    「なんで使いたくないの?」
     彼の問いに、ボクはようやく彼の瞳をまっすぐ見つめ返した。
    「自由なキミが……、ボクは、スキ……だから」
     ボクの言葉に、カービィは目を丸くした。そのまましばらくじっとボクを見つめていたが、やがてにっこりと微笑みを浮かべた。
    「そっかあ」
     カービィは満足げにうなずくと、再びボクに抱きついた。そしてボクが抵抗する間もなく彼は口元のローブをずらし、唇を塞いだ。
     柔らかな舌とともに与えられたのは、先ほど彼に振る舞った、蕩けるように甘い愛の味だった。
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