飴と罠(自然に、自然に…にやけないように…)
そう心の中で唱えて自分の顔を両手で挟む。ふーっと息を吐いてから目の前のインターフォンを押した。軽快な音がして一瞬間が開き、直ぐに返答が来る。
『今開けるから待って』
何度も聞いた優しい声だ。「はーい」と短く返事をしてからはたと自分がにやけてしまっている事に気付く。駄目だ、上手く嬉しさを隠しきれない。
鍵の回る金属音がしてドアノブが下がる。
「いらっしゃい、どうぞ、上がって」
白のTシャツに黒のクロップドパンツというラフな出で立ちの彼は優しく目を細めて笑うと中に招き入れる。
「お邪魔します」
相変わらずの美しい容姿に気圧されそうになりながらなんとかそう絞り出すと後に続いて中に入る。ふわりと彼の甘い香りが鼻腔をつく。
4768