叡智の扉、開けてしまった――それは、学者としての単純な興味であった。
思い浮かんだ言葉に対し、アルハイゼンは心の中で首を横に振る。「学者として」という括りは正確さを欠いている。正しくは、知能を持つ存在であれば誰しも抱く欲求であろう。
例えば、子供が森の中で見たこともない花を見つけた時のような。あるいは、猫が新しいおもちゃを見つけた時のような。何が言いたいかというと、彼の背中にある謎の露出部位は、アルハイゼンが興味を抱くに値したということだ。
「……はぁ、コスト削減とはいえこれではあまりにも……いや、別の工法であればあるいは」
彼、というのはアルハイゼンの家に転がり込んできた借金まみれの建築家、カーヴェのことであった。 言い争いの絶えない仲でありながら、本日は珍しく独り言を言いながらも真面目に仕事をしている。新しい建築物のデザイン画と設計に必要な数字を計算しては眺めるの繰り返し。
1997