空をのみほして「空を飛ぶエイだって?」
そんな馬鹿な。柑橘色を頭に乗せた青年、タルタリヤは笑い飛ばした。
幼い顔立ちには不釣り合いな紺碧の瞳がぱちくりと閉じては開いてを繰り返す。
「旅人、いくら冗談でもそれはないんじゃないか? エイが飛ぶならクジラだって空を飛ぶ日が来るかもしれない」
君が見た夢かなにかじゃないのか。
下手くそな箸使いでタルタリヤは対面に座る旅人、蛍のことをからかった。
璃月らしい円卓の上。交差し合う二人の間に張り巡らされた鉄線をものともしない男がいた。「料理は熱いうちに食したほうが美味いぞ」言いすがら、お手本のような箸使いによって青菜を摘まみ上げる。つるりと白い小皿に運ばれた。濃い目の味付けがされた青菜は白磁とのコントラストで、旨味に拍車がかかったようにさえ錯覚させる魅力を放っていた。
男は青菜を口元に運び、シャキシャキと咀嚼し、最後に茶を飲んだ。
所作の美しさに視線を奪われた旅人とタルタリヤだったが、溢れたよだれに従って大皿へと箸を伸ばした。
「ふむ。空を飛ぶエイか……。元素生物である可能性が高いだろうな」
「いいや、どうせよくあるおとぎ話か何かだろ? 実在していたとしても遥か昔に絶滅してしまってるさ」
万に一の話だけどね。青年は水晶餃子のひだに箸先をひっかけた。器用からほど遠い手つきのせいでもちろん逃げてしまったが。
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