ぐっすり眠っている兄さんの寝息を聞きながら、残っているウイスキーを飲み干した。
「ごめん、兄さん…」
溢れ出る欲情への罪悪感と、一瞬でも自分のものだと思えるこの時間への恍惚感で小さく貧乏ゆすりする。カチャリと小さくドアの開く音がして、少し目線を上げればニューセレナのママが、裏での作業で乱れた髪に軽く手櫛を入れて整えながら戻ってきている。桐生はハッとしたように足の揺すりを止めて、姿勢を正す。
「思ったより時間かかっちゃったわ。留守にしちゃってごめんなさいね。今お水出すから。」
そそくさとグラスに水を注ぎ、桐生の前に差し出す。
「あぁ、ありがとうな。ママ。」
ううん、と小さく首を横に振り、もう一杯水を用意し、突っ伏している真島の顔を覗き込んだ。
「…ねぇ桐生さん、真島さん一杯でずいぶん酔っちゃったみたいだけど、大丈夫かしら…。」
「…。最近だと割とあるだろう。また俺が介抱すればいい話だ。」
「そうかもしれないけど…急に酔いやすくなっちゃったのかしら。出すお酒、変えてあげたほうが良いかもしれないわね。これ、結構強いし。」
一応真島の肩を叩いて声をかけてみるママ。起きないと改めて確信して、小さくため息をつくと同意を求めるような視線を桐生に送って、グラスの水を一口飲んだ。桐生はそれからじんわりと視線をなんでもない方にそらし、焦るように一気に水を飲み干す。
「ごちそうさま。また来る。」
「あら、お水もういい?夜も遅いから気をつけて。真島さんにもよろしくね。」
「あぁ、わかった。」
桐生はのそのそと真島を背負うと店を後にした。
ほとんど飲まれた真島のウイスキーのグラス。溶けた氷をカラカラと回す。
「…きっとこのままだと苦しいわ。桐生さん。」
少し溶けきれなかったソレを、シンクにガランと流した。