触れたいひと「ディミトリ」
先生の声色が少し優しげなものに変わったことを察知して、心臓の鼓動が跳ねた。二度も手を引いてもらったその日から、先生との接触がより近しくなっている。まるで親猫が子猫を毛づくろいするように、俺に触れることが多くなった。
多くなったと言っても、時折戦後処理のための書類やら報告書の類に忙殺されている時、折を見て「少し休め」とでも言っているかのように手を重ねるのだ。
そして先生は、何も言わない。ただ、うっすらと微笑んで、数秒俺の手の甲に手のひらを重ねてじわりと熱を伝えるだけなのだ。なぜこのようなことをする? と聞いたら、やめてしまいそうで尋ねられずにいた。
「少しお茶にしないか。だいぶ根を詰めていただろう」
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