七夕ねぇチョロ松くん、お願いごと何書いたの?
彼女は僕を見つめてそう言ってきた。
僕達は近くの大きな商店街にいる。
今日は七夕。一年に一度の織姫と彦星の逢瀬。
そんな日にお願いごとをして祈りを捧げようなんてバカいるのかと斜に構えていた僕だったが、やはり恋人がいると価値観も変わってしまうもので、普通に願い事を書いてしまっている。それもまぁまぁ恥ずかしいものを。
椿には見せられないかなぁ……
僕がそう言うと、彼女は途端に僕をじろーっと見つめてくる。
まぁその顔から察するに何かいかがわしいことを書いたんじゃないかって思われてるんだろうな。……あながち間違いでは無いけど。
そんな椿は何を書いたの?
ん?私は……私も言えないや。
なんだ。結局椿もいえずじまいか。
きっと僕のこの小っ恥ずかしい願いよりも、もっと大きな夢を書いているんだろうな……と、勝手に納得してしまった。
彼女はニートの僕と違って、働いている。それもモデルとして、東京に広告が出たりしているぐらいの超一流の。
言ってしまえば僕達は織姫と彦星なのだ。
神のように尊くて愛おしい機織りの織姫と、その辺で牛を育てるしか能のない彦星……いや、働いているだけマシかもしれないけど。そんな身分違いの関係。
もし、椿と一年に一度しか会えないと言われたら僕は咽び泣くと思うけど、きっと椿はそれを受け止めてしまうんだろうな……。強くて、かっこよくて、僕の自慢の彼女。
そんな人に、僕のこんな願い事なんて見せてしまったら、笑われてしまうに違いない。……僕はそう思って見せないことにしているだけだ。
じゃ、笹に結ぼっか!
うん、そうだね。
2人して赤いリボンで願い事を書いた短冊を結んでいく。その途中で他の人の願い事も見えてしまって、やれ恋人が欲しいだの、やれ合格祈願だの……ここは神社じゃなくて商店街の笹なんだぞ、とツッコミたくなったが、そんなことをしてしまったら、せっかくの椿との七夕デートがつまんなくなってしまう。
こういうのは兄弟の前で言うことにしよう。
ん、結べたー!チョロちゃんは?結べた??
僕もできたよ。
彼女はいつだって僕を気にしてくれる。そういうところが健気で可愛い。良かった!ってにっこりと笑ってくれる彼女の笑顔はこの世の全ての可愛いものを集めても叶わない……と、勝手に思ってる。
……こんなの、本人に直接言ったら絶対顔真っ赤にすると思うけど。
私見たかったなー、チョロちゃんの願い事ー
そりゃ僕だって見たかったよ、椿の願い事。
2人して同じことを言いながら商店街を出て次の場所へと向かう。
ほんとは僕の願い事、叶ってるんだけどね、椿。
『彼女が僕の隣にいてくれますように。』
『チョロ松くんとずーっといっしょにいれますよーに!』