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    sabasavasabasav

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    sabasavasabasav

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    主坊。と言いつつ主→坊であり、しかも坊ちゃんは出ない。
    にすと酒を飲み交わすシーナの話。

    #腐向け
    Rot
    #主坊
    mainPlace

        ▽        ▽


     酒が飲みたいから酒場に行こうとリアンが言い出したとき、シーナは思わず言葉に詰まった。
     都市同盟やハイランドでは成人は十五歳、旧赤月帝国、現トラン共和国を基準にすると十六歳。幼い印章を与える顔立ちとは裏腹にリアンはああ見えて大手を振って飲酒が出来る年齢だ。
     既に半年近くこの城で過ごしているが、シーナは今までリアンが祝辞以外で酒を飲んでいるところを見たことがなかった。それはナナミが頑なに許していないのも理由の一つではあるが、リアンが誰よりも諦めが悪く頑固であるのを知っているのもまたナナミでもある。飲酒を強く望めば最終的に彼女は折れる。そういった姿を見ていないのは、元々リアンは酒を求めてはいないからだった。
     飲みたいと言い出したことが珍しかった。少なくとも、シーナはそんなリアンの台詞を聞いたことがない。
     リアン曰く、同盟軍へと入る前に酒を飲んだことはあるらしい。今は離ればなれとなってしまっている幼馴染みと、ユニコーン隊に入る前に二人で杯を交わしたのだという。それは酒を嗜むというよりも禊ぎとしての意味合いが強いのではないか、とは言わないでおいた。
     リアンが酒を飲んだのは、今まさに、リアンの背後で笑いながら行儀悪くワインをラッパ飲みしているビクトールらとは違う。祝事や行事の一環であり、酒の力を借りてその場の空気を楽しむためでは決して無い。
     一見、無茶な行動をしているように見えるものの、暴走しがちなリアンを上手に制御しているのはナナミだった。しかしその頼みの綱は現在、同世代の女性陣で入浴中だ。既に酒場に辿り着いてしまっている以上、飲むなと己が喚いたところで、周囲の人間がリアンの飲酒を助長するだろう。
     ならばせめて弱い酒でも、とシーナが酒場のカウンターに注文しに行こうとしたのを、リアンは腕を引いて止めてきた。それどころか、「ここのテーブルにとっておきの葡萄酒を二本!グラスも二つ!」と腕を上げて言い放ったのだった。
     この強引さには覚えがある。脳裏にとある少年の姿が過った。
     数年前、シーナ自身も参加していた戦争。リーダーを務めていたのは年下の少年だった。普段は主張は激しくなかったが、当人が譲れないと思ったときの頑なさはリアンと瓜ふたつだった。とりわけ、口では泣く目で語るのだからたちが悪かった。軍主というものは多少なりとも強引に事を運ぶ才能が求められるものなのだろうかとすら思う。
     とはいえ、リアンとは仲間ではあるが友人とは呼べないし、お目付役を任されているわけでもない。シーナは奢りだと言われれば喜んで乗っかるつもりだった。
     カナカン産のワインと共に摘みがテーブルに並べられる。「飲みながらリーダーに食べさせなさいな」とレオナに耳打ちされた。こうなればリアンを止められる人はいないのだと言われた気分だった。
     会話もそこそこに、リアンは酒を呷った。その、異様な光景はさすがに周囲の仲間達も気付いたようだったが、気付きながらも見て見ぬ振りをしている。その表情がまるで敵前にいるのかと錯覚を起こしそうなほど、顰められていたからだった。こんな状況でなければ、シーナですらすぐにその場を離れてしまいたいくらいの居心地の悪さだった。
     こうして互いに葡萄酒に口にしてから──半数以上はリアンの胃の中へと入っていったが──幾ばくか経過した。
    「シーナはずるい」
     グラスに残ったワインをゆらゆらと揺らしながら、唐突にリアンは言った。
     ムササビが即刻逃げてしまいそうな形相で、舌足らずな言い方に拍子が抜けてしまいそうになる。
    「……なんだよ、ずるいって」
    「マクドールさんのこと、名前で呼ぶじゃないか。しかも呼び捨てで」
    「はあ?」
     これまた唐突に出された名前に、シーナは呆けた声を上げた。ワインで適度に酒が回っている酔っ払い同士の会話とはいえ、幾らなんでも直近の会話との繋がりがあまりにもなさすぎた。
     少し前まで、トランと都市同盟の間の蟠りを解消するためにはどうしたらいいのだろうかと、酒場でしたくもない話題をくどくどと呟いていたはずだったのに。
     じっとこちらを見詰めるリアンの瞳に力が篭もっている。
    「……前から知り合ってて、年が近かったらこんなもんじゃねえの?」
    「そんなことない。ビッキーはさん付けで呼んでる」
    「そもそもビッキーは誰も呼び捨てにしないだろ。そんなこと言ったら、俺だけじゃなくてそこで飲んだくれてるフリックとかビクトールにも文句言わなくちゃならなくなるぞ?」
    「フリック達は年上だからいいの」
     行ってこいとシーナは親指を突き立てて背後へ指差したが、リアンは即座に言い切った。
     なんだその基準は、とツッコミを入れたくなるところを寸でのところで抑え込む。
     年齢を挙げるなら、そもそもシーナはティアよりも年上である。リアンの中では年上という事実よりも年齢の近い友人としての立ち位置のほうが重要視されているらしい。
    「……じゃあ、ルックは?あいつ、ティアよりも年下で年齢も近い」
    「シーナと一緒に呼び出そうと思ったけど、外せない用事があるって門前払いされた」
     手元の酒をちびりちびりと飲みながら、リアンは口を尖らせた。子供のように言いくるめられそうな印象を抱きがちだが、リアンはやると決めた意志をなかなか曲げることがない。おそらく今日もルックが眉間に深い皺を寄せるほどに纏わり付いていたことだろう。
     思い返してみれば、石板の前にもおらず、食事処にもおらず、今日一日姿を見かけていない。渋々といった様子でもなんだかんだと軍主の指示には従うだろうルックがここに来ていないのは、本当に外せない用事とやらがあるのだろう。決して、リアンに管を巻かれる未来が見えていたわけではないはずだ。
    「別に名前くらいどう呼んだって良いだろ?」
    「だって、シーナとかルックとか、何も考えずにマクドールさんの名前呼んでるのが羨ましいんだもん」
    「羨ましいって言われてもな。別に俺だってルックだって、名を呼ぶことに特別意味があるとは思ってねーわけよ。そんな俺らに妬くなんてしょうもないんじゃねーの。リアン、本当にあいつのこと好きだよなー」
    「えっ」
    「なんだよ」
    「……どうして分かったの?」
    「そんなの、傍から見てりゃすぐ分かる」
     と言っても、先程まではあくまでも推測の域を出なかったものが、リアンの返答でそれが確信へと変化したのだが。
     心底驚いたような顔でこちらを見るリアンをそのままに、シーナは手酌でワインをグラスに注ぎ入れた。
     少なくとも、軍主に近しい立場の人間は皆、リアンがティアに対して向けている感情がただの憧れだけではないことを察している。だからこそ、軍師はこれ以上ティアに入れ込まないよう躍起になっているくらいだ。
     ティアの存在は当人が思っている以上に価値がある。いくら利権に全く興味が無く、己は国を捨てたのだと言ったところで、過去も肩書きも変わりようがない。それを知っているが故にティアは〝同盟軍〟の手助けをすることは断じてない。
     その真意を察していないのは、無自覚の執着を向けている目の前の少年だけだ。
    「懐いた犬みたいに四六時中引っ付いてるしな」
    「犬って!」
    「マクドールさん!褒めて!マクドールさん!一緒に戦ってください!って言ってるような顔してるし」
    「そ、そんなに分かりやすい?」
    「分かるも何も、顔に書いてあるぞ」
    「えっ、ええぇ……」
     咄嗟にリアンは両手で頬を包み込むが、赤面した顔は隠しきれない。
    「リアン。俺らのことを羨ましいって言うくらいなら、お前もティアって呼んじまえば良いだろ。別にあいつは突然名前で呼ばれたって気にしないと思うぞ」
    「…………そうなんだけど」
    「なんだよ、煮え切らないな」
    「最初、マクドールさんに「名前で呼んでくれ」って言われたんだけど……」
    「けど?」
    「尊敬している人の名前を呼ぶなんて恐れ多くて出来ませんって言っちゃった」
    「お前なあ」
    「だって!だって……まさか、好き、になるなんて思わなくて……」
     シーナの呆れ返る返答に、リアンは荒げた声を徐々に窄ませていった。恥じらいからそっと呟かれた「好き」の二文字が、リアンにとって大切にしてきた言葉であることくらい、すぐに理解できた。
     シーナは水のように喉を鳴らして、グラスの中身を飲み干してみせる。次いで吐き出した大きな息は、胸の内の蟠りが含まれていた。
     昨年仕込まれたというワインは年数通り早熟な味わいで、美味いことには変わりが無いが、人間の感情とやらを綺麗さっぱり飲み込むにはどうにも軽すぎる。
     しかし、短くもない間この城に留まっているのだ、少なからずリアンに情が湧いているのも事実だった。恋路の行く末には興味は無いが、憂いを取る位のことはしてやりたい。
    「ティアがいろいろな理由で人を避けてるのは知ってるだろ?なら、お前から近付くしかない。近付いて近付いて、あいつが離れようとしても何とか追いかけていれば、いつかは受け入れられるんじゃねーの?」
    「そんな、もんなのかなあ」
    「あいつはああ見えて人は好きだし押しには弱い。いつかは折れるさ。あとはまあ、お前の忍耐力次第だな」
    「押していけば、いいのかなあ……」
    「そしたら名前くらい簡単に……って、大丈夫か?随分酒回ってんぞ?」
     ぼやきながら徐々に上半身を伏せていくリアンの目の前に、シーナはいつの間にやら置かれていた氷水の入ったグラスを置いた。酔った自覚はあるのか、リアンはだらしなく頬杖をつきながらも水をちびちびと口に含んでいるが、突如として襲い掛かってきた睡魔には抗えないようだった。
    「こんな、戦争中なのに……好きになってもいいのかなあ…………」
     シーナの姿など既にその目に映さず、空になったワイングラスを見つめながら、遂にリアンは完全にテーブルへと突っ伏してしまった。手の内に握られたままだった水が溢れるより先に、シーナの腕がグラスを掻っ攫った。
     誰に言われるわけでもなく、シーナは同盟軍リーダーの印象を書き換えた。
     人一倍行動力がありながらも頑固で、周囲を振り回すこともあるが、根本的にリアンは優しい。だからこそ、普段の矢面に立つ姿とは裏腹に恋路に足踏みしてしまう人の良さが、周囲の人々を惹き付けている。
     そこもまた、過去のリーダーの姿を彷彿とさせるもので。
    「馬鹿だな。戦争中だから、好きになってもいいんだろ」
     強引に距離を詰めないと、姿すら見失う。あいつはそういう奴だ。らしくもなく背中を押したつもりだが、果たして恋が実るかどうかはリアンの頑張り次第だろう。
     すっかり夢の国の住民になったらしいリアンについ笑みを浮かべつつワインボトルを傾けたが、既に中身は空になってしまっていた。
    「あーっ!こんなところで寝て!」
     湯浴みをしたその足で弟を探していたらしいナナミの声が不相応な酒場に響く。
     叩き起こしそうなナナミの勢いを「飲ませすぎちまった」という言葉で相殺しながら、シーナはリアンをベッドまで運ぶべく、酔いが回り重くなった腰を上げた。

        
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