ジーザスくんが立派な攻めに成長するまでの道のり 1.5自室のベッドの上で目を覚ましたユダは、しばしぼんやりと天井を見つめた。
カーテンの隙間から漏れる光は明るくて、陽が登って大分経ったのだと分かる。
身体も頭も、なんとなく怠い。
だが何故か、不思議と充足感も感じていた。
昨日何したんだっけ、とユダは記憶を探る。
そして昨晩のことが頭を過るやいなや、ユダは勢いよくベッドの上で起き上がった。
酒が残り少しくらくらする頭で、ユダは顔を顰めながら必死に思い起こした。
ジーザスと、ソファでワインを飲んでいたこと。
気が付けば、キスをしていたこと。
初めてだというジーザスに、俄然色めきたってしまったこと。
首筋を唇でなぞると、ジーザスがころころと笑い、可愛かったこと。
ジーザスに「いきたい」と言わせたくて、寸止めをしたこと。
最後の記憶を思い浮かべたところで、ユダは軽く呻いた。
「…きっしょ………」
そう呟きながら、頭を抱えて項垂れる。
酔っていたとは言え、ありきたりなアダルトビデオのような台詞を言った自分が信じられなかった。
しかも、ジーザスと両思いになってから半日も経っていないうちに、だ。
そしてそんなユダの行動に純粋な反応を見せていたジーザスを思い出すと、思わず呻き声を上げるのだった。
ユダは慚死しそうな気持ちでしばらくその体勢でいたが、扉越しに玄関の方から物音が聞こえて顔を上げた。
枕元のスマホを慌てて手に取って見ると、もう昼近い。
昨夜は、ジーザスとユダはそれぞれの部屋で眠りについていた。
ソファーの上でしばらく2人で眠ったが、ふと目を覚ましたユダはジーザスを優しく揺さぶって起こした。
むずがる子供のようなジーザスに何とか歯磨きだけをさせてから、部屋へと送り届けてベッドに寝かせた。
そしてユダも簡単に寝支度を済ませると、部屋で一発抜いて、そのまま気絶するようにベッドで眠ったのだった。
ユダはベッドから飛び起きると、部屋の扉を開けて、すぐ傍の玄関を見る。
そこには、外出の準備をするジーザスの姿があった。
ちょうど黒いコートを羽織っているところだったジーザスは、ユダに気が付いて顔を上げた。
「あ。おはよう、ユダ」
「…はよ」
ジーザスはすっかり身支度を済ませていて、髪や顔の髭もすっきりと整えられている。
かっちりとしたコートを身に纏っていることもあり、精悍な雰囲気を漂わせるその姿にユダは思わずどきりとした。
そこに、ユダの腕の中で身を捩らせていた昨晩の姿はどこにも無い。
「僕も寝坊しちゃったんだ。急いで支度した」
ジーザスははにかんでそう言いながらコートの襟を整え、壁にかけてある鍵に手を伸ばす。
「予定があるんだ。今日はもう出なきゃ」
そう言われて、ユダは頷いた。
ジーザスが人前に出る用事が何かと多いのは、当然のことである。
「分かった。俺は今日は家で仕事」
ジーザスもその言葉に軽く頷いたかと思うと、ふとユダを見つめた。
何かを探るように少し上目遣いで凝視され、丸い目が何度か瞬きをする。
その表情に、ユダの心臓はどきりとした。
自然と、互いに一歩歩み寄る。
顔を、ぎこちなく近づける。
そして鼻が一瞬ぶつかりそうになりながらも、2人はごく軽くキスをしたのだった。
夢では無かった、とユダは思った。
唇を離すと、ジーザスは少し赤い顔で微笑んだ。
離れ難いかのように、互いにゆっくりと後退りをする。
ジーザスが扉を開けて、最後にユダを振り返る。
「…行ってきます」
「…おう」
ユダは、心臓が喉から飛び出そうになりながら玄関からジーザスを見送った。
階段を降りていくジーザスが見えなくなると、扉を閉めてすぐに廊下の端にある窓辺の方へ行く。
しばらく下を眺めていると、ジーザスが視界に入った。
彼が歩道の上で立ち止まったかと思うと、ユダのいる方を突然見上げる。
ユダの姿を見つけて、嬉しそうに手を振られる。
少し動揺しながらもユダも小さく手を振りかえすと、ジーザスが満面の笑みになるのが遠くからでも分かった。
角を曲がって見えなくなるまで、何度も振り返るジーザスを爆発しそうな心臓で見送ったあと、ユダはやっと窓辺から離れた。
雲の上を歩いているみたいに、足元が少しふわふわとする。
昨夜のことよりも、たった今交わしたキスの方が何倍も気分が浮ついてしょうがない。
もはや疑いようの無い現実を、思わず噛み締める。
ジーザスは、ユダの恋人になったらしい。
そして思わずほんの少しだけ笑顔になったユダは、ジーザスが淹れてくれたらしい珈琲の匂いがするキッチンに向かったのだった。
だが何故か2人は、その日の夕方には早速喧嘩をすることになるのだったが。