海と日差しとキミの水着と照りつける日差しに肌に撫でつける熱風。
眼前にはエメラルドグリーンが広がっており、辺りには楽しそうな笑い声が散らばっていた。
紛うことなき真夏の海である。
観光地特有の和気あいあいとした雰囲気の中、日光を照り返して熱くなった砂の上で、一人パラソルに隠れる影があった。
「……どうしようかしら〜」
亜麻色の髪を靡かせ、敷き布の上に座っているのは、メルセデスだった。先程まではアネットやイングリットの姿が見えていたものの、今はその影もない。
遠くから何人かの笑い声が聞こえてきて、メルセデスはもう一度肩を落とした。折角の海を前にしているのに、一人では楽しめることも少ない。
(……それに)
先程から、妙な視線を感じる。
女性客が一人で退屈そうにしている姿は、観光地の真ん中では目立つのだろう。背後から、横から、肩をすくめても逃れられない威圧感があった。
居心地の悪さに、諦めて一足先に施設へ戻ろうかと、腰を上げようとした、その時。
「お姉さん、もしかして一人かい?」
頭上からそんな声が降ってきた。目の前には海用の靴を履いた男の足が見える。何処にでもあるようなその誘い文句に、メルセデスは肩を強張らせるでもなく、顔を上げた。
「もし良かったら、俺と一緒にデートでも」
「シルヴァン……」
メルセデスがその男の名前を呼ぶと、呼ばれた本人はにこやかに微笑む。太陽の光を反射して、自前の赤毛が一等輝いていた。
見知った人物の姿に、メルセデスはホッと胸を撫で下ろした。差し出された手を握ると、優しく砂の床から引き離される。
「おいで。見せたいところがあるんだ」
「……あらあら、何かしら〜」
自分の腕を引いてくれるシルヴァンの手が、今のメルセデスにとってはとても心強かった。早すぎず遅すぎず前を歩く彼は、何も言わずに海岸を横に進んでいく。だんだんと遠くなっていく観光客の声を後ろに、二人は人気のない崖下まで移動してきた。
突然に足を止めたシルヴァンに倣い、メルセデスも足を止める。ちょいちょいと合図する彼の指先をたどり、メルセデスは上を向くと、そこから見える絶景に思わず声を漏らした。
「まあ、綺麗……!」
崖に挟まれた小道は、日の光が細く差し込み崖の断面を淡く照らしている。両脇の崖に見える地層には鉱石が眠っているようで、色とりどりの光が二人を包み込んでいた。
それはまるで極寒のファーガスの冬空で見上げたような、虹色の膜のようで、新鮮な感動の中に懐かしさを覚えた。
「凄いわ〜……シルヴァンはここを知っていたの?」
「いやぁ、実は俺もさっき見つけたところだ。君に見せたくて、呼びに行ったのさ」
キラキラと目を輝かせ振り返ったメルセデスに、シルヴァンは得意げにするわけでもなくそう告げた。むしろ、明るい彼女の笑顔を見れて安心しているようにも見えた。
「……良かった、少しは元気になったみたいで」
「ええ、とっても。心配してくれてありがとう、シルヴァン」