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    しきみそ落書き

    #しきみそ

    夜の攻防 それはリビングでいつものように雑誌の色校正を確認していた時のこと。
     ソファで鼻歌混じりに原稿をめくっていると、隣のクッションがぽす、と揺れた。見れば、四季がマグカップを二つもって隣に腰掛けたようだった。
    「ん」
    「お、入れてくれたの? ありがと」
     湯気のたちこもるそれを受け取って、一つ口付ける。いつも通りの、コーヒーブラック。三宙がこればかり飲むので、四季も三宙の好みの味を覚えてしまったようだった。
     それが、一緒に暮らしていると言うことを実感して、嬉しい。
    「それ、いつの」
    「これ? 先週撮ったでしょ」
    「上がってくるの早いな」
    「相手方がデキるとこでさ」
     四季が仕事中に声をかけてくるのは珍しい。仕事中とはいえ、半分息抜きでやっているような作業だから、きっと四季もそれを見越しているのだろう。
     そんな少しの珍しさにも、浮かれてしまうのは仕方ないと思いたい。会話の壁を、どんどん感じなくなるようだった。
    「で、出来栄えは?」
    「上出来!」
     満面の笑みで振り返れば、四季の口角が僅かに上がるのが分かった。彼は自分の仕事を褒められて易々と喜ぶようなタイプじゃない。これはきっと、三宙の反応を見て思わず溢れた笑みだ。
     分かりにくいが、これは結構機嫌がいい。
    「お前のデザインが良いんだよ」
    「それはそうなんだけど! 自信作だし。でもやっぱ四季もモデルの腕上がってるよね」
    「そりゃドーモ」
    「ちょっと、本気で言ってんだから」
    「分かってるよ」
     ああ、くすぐったい。
     こんな何気ないやり取りの応酬がとても心地良い。相手の出方を伺わずとも反応が手に取るように分かる。気を遣わなくて良い、呼吸と同じ感覚で会話が出来る。頭が働かずとも反射で言葉を口にして、また反射で言葉を受け取る。テンポも、声音も、語彙も。全てが鼓動と連動していた。
    「三宙せんせーのご指導のおかげだよ」
    「オレ何も言ってないでしょ」
    「言ってるよ。……まさか気付いてない?」
     へ、と。間抜けな声が口から漏れた。突然に視界に広がる影に止まった思考が追いつかなかった。
     息を呑む暇もなく訪れたキスに、瞬きを一つ落とした。
    「お前は口より目で良く語るよな」
    「……あ」
    「僕を見る目がこうして、って訴えかけてくるんだよ」
     そう言ってツンと鼻先をつつかれるまで、身動き一つ出来なかった。ぶわ、と顔に熱がたまるのが分かる。
     してやられた。羞恥よりも先に、そんな言葉が口をついて出た。
    「ハァ……またやられた」
    「隙だらけだよ」
    「仕事中は狡いって」
    「じゃ、仕事の続きどうぞ?」
    「もー……なんでそういう、クソッ」
     分かっているのだ。色校正が早く上がってきたから、急ぎの仕事ではないことも。会話に夢中になるうちに、そういう気分になってきたのも。三宙の心境など、まるきりこの人にはバレている。
     悔しいが今日は勝ちを譲るしかない。
     諦めのため息をついて、せめてもの抵抗に自分から雑誌を机においた。
    「今日のは気づけたなあ……」
    「また次な」
    「悔しい」
    「正直かよ」
     三宙の方から今度はキスを仕掛ける。触れ合うだけなんて生やさしいものではなく、粘度を含んだ深いものを。仕返しと言わんばかりに自ら舌を差し入れる。
    「んー……」
     クスリと笑う声が聞こえた気がした。そっと頬に手を添えられて、舌が入りやすいように薄く口を開いてくれる。こんなところまでまだ優位に立たれているようで、たまらなく悔しく、たまらなく心地いいのがまた悔しい。
     四季は三宙から仕掛けた時は甘んじて受け止めてくれることがほとんどだ。どんだけ安易な誘いも乗ってくれる。だからこうして、軽いキスでオサソイしているわけなのだ。
    「んむ……ん」
    「ん、ふ、今日随分やる気あるな」
    「四季から、ん、仕掛けたくせに」
    「そうだよ」
     ぐいと首の後ろを引き寄せられて、瞬く間に主導権をすり替えられる。今日の勝者は四季なので、三宙も仕方ないと譲り渡した。キスが深くなる。
     歯列の裏をなぞられて、背筋に電気が走る。奥から手前まで余すことなく舐められ、最後にジュッと舌に吸いつかれた。
     何故四季はこうもキスが上手いのだろう。
    「ん、ん……」
    「……ふ、お前キス上手くなったよな」
    「何それ、嫌味……んっ」
     舌が絡んで、おもわず引けそうになる腰を掴まれる。息つく暇もなく二撃目が落とされた。軽口の応酬は、瞬く間に飲み込まれる。
     耳をなぞってくる悪戯な手首を掴む。制止でも許容でもない、無意識の動きだった。ただ、少しでも触れたいと思ったから。
     それに気分を良くしたのか、密やかに四季が口角を上げたことに気付かなかった。
    「明日、朝早いんだけど」
    「僕もそうだよ」
    「……タチ悪りぃの、ホント」
    「じゃあ、振り解けば?」
    「そーゆーとこ!」
     出来ないことを分かっていながら、そんなことを言ってくる四季は狡い、と三宙はつくづく思う。どう足掻いても勝てる気がしない。それでも一泡吹かせてやりたい。
     そう思っていることだって、きっと。
    「ぜーんぶ、お見通しなんだもんな……」
    「ん?」
    「……何でもない。続きは」
    「明日な」
    「っ……はあ!?」
     思わず大声が出てしまい口をつぐんだ。そっちから仕掛けておいて、こんな空気にまでさせて、ここまでだなんて。
     三宙の呆れ顔と裏腹に、四季は涼しげに髪をかきあげる。
    「明日早いんだろ?」
    「だからっ……」
    「だから?」
    「あーもー! 早くベッド行こってば!」
    「……っふ、くくっ」
     堪えきれない素直な三宙の欲求に、耐えきれなくなったのか四季が吹き出した。肩で息をしながら押し殺したような笑い声が漏れる。笑っている方は楽しいだろうが、全部ぶちまけてしまったこちらは非常に恥ずかしく居た堪れない。口を押さえる腕を無理やり引き上げて、三宙は四季を無理やり立たせた。
    「もー……余裕そうでムカつく」
    「ふ、ふふっ、お前にはそう見えるんだな」
    「見えますけど」
     四季は掴まれた腕をそっと引き剥がすと、自身の胸に持ってきて手を当てがう。手のひらから伝わる脈動は、確かに平時より早い。
    「……これ、さっき爆笑してたからでしょ」
    「それもあるけどな」
    「……ちゃんと意識してる?」
    「そりゃもちろん」
     言い合ううちに寝室の前に着き、雪崩れ込むように二人して部屋に入る。ベッドはダブルが一つだけ。二人で暮らすにはそれで十分だった。
    「こういうの、何で手慣れてるの」
    「さあ? 自分では慣れてると思わないけど」
    「じゃあ天性じゃん……そっちの方がムカつくな」
    「どうしろって言うんだよ」
     ベッドに転がって、お互いの腰に手を回して、至近距離で軽口を投げ合う。四季の翡翠色の髪が柔らかいクッションに広がった。それを指で弄びながら、三宙は顔を寄せる。
    「オレばっか必死みたい……」
    「そんなことないだろ」
     四季は三宙の手を捕まえて、見せつけるように目の前で指を絡めて見せた。最後に握った手に一つ口付けを落とす。腰を引き寄せられて、身動きが取れず目が離せない。
    「僕は狡いらしいから」
    「え、あ」
    「お前が逃げられないように囲ってるんだよ」
     少し目を伏せて、上目で見つめられれば至極当然のように自然が縫い付けられた。四季はそのまま指先から手首、腕に順々にキスをしていく。頬に熱がたまるのが分かった。明日も早いのに。これ以上はいけないと、思えば思うほど、背徳感と優越感で興奮が高まってきてしまう。
     腕を引き上げられて、肘にまで唇を寄せられて。気付けばそのまま頭の上で手が拘束されていた。
    「あ、アレ……?」
    「隙だらけだよなぁ、お前は」
    「しないんじゃなかった……?」
    「ん?」
    「楽しそーな顔……」
     頭上から見下ろしてくる四季は心底楽しそうな表情を浮かべている。何度形成逆転を試みても、翻弄されるばかりで、足掻けば足掻くほどドツボにハマっていく感覚。一体いつになったら、この人から攻勢を奪えるのだろう。
    「ま、今日は勘弁しといてやるよ」
    「う……」
    「物足りなそうな顔。どっちだよ」
    「……イチャイチャはしたいけど仕事に穴は開けたくない」
    「じゃあ我慢だな」
     ぱ、と掴まれた手首はすぐに解放されて、四季もまた隣に寝転んだ。宥めるように頭を撫でられては、我儘も言えなくなる。こういうところで、歳の差を感じてしまうのが嫌だった。自分が心底子供じみていると思う。
    「おやすみ」
    「はぁ……おやすみなさい」
    「電気消すぞ」
    「ん」
     間接照明が落とされて、視界が暗闇に包まれた。観念したように三宙が瞼を下ろせば、見計らったかのように唇に何かが触れた。そういえばこの人は夜目が効く人だった。クソ、またしてやられてしまった。
     暗闇から、微かに漏れる笑い声が聞こえる。きっと、自分の不満げな顔が見えているのだろう。こちらからは相手の顔を伺えないのが、余計に悔しい。
     夜は相手の独壇場だ。挑むなら、相手の弱る朝が狙い目。明日こそはと心の中で唱えて、三宙は夢の中へと落ちていった。
     
     
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