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    cocottezz

    @cocottezz

    うるせ〜
    しらね〜
    パラノマサイトFILE23本所七不
    思議

    SSとか落書きとか
    ジャンルやCP混在

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    cocottezz

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    ♪〜ED4のあやめが片葉の芦してる時に流れるBGM
    あやめルート本で書こうとしているものです りひえり要素ない
    最近ぶつぶつ呟いていた情報の整理として落書きした 書き切れるといいですね

    #パラノマ

     アルミ建材。印刷。占い。運送──。
     薄く甘い桜貝の乗った人差し指が紙の上を滑る。職業別に分かれた電話帳を捲ること数ページ。灯野あやめの右手は目当てのページを探り当てて止まった。
     1枚のページを陣地取りの如く小枠で区切られた中に灰色と黒色がまだらに踊る。顔写真と共に掲載された企業広告である。そこには宣伝活動にふんだんに費用を注ぎ込む余裕のある企業がこぞって名を連ねていた。
     地位ある壮年男性が自らの能力を誇示せんとする時の特有の表情を灯野あやめは平生毛嫌いしていた。けれど今となっては宿願を果たす為の情報の羅列に過ぎない。
     浮気調査。人探し。あなたの安心を支えます。
     これは己を肩書きでしか見ていない者に対する意趣返しだ。灯野あやめの双眸はありふれた宣伝文句には目もくれず顔写真の下に添えられた名前と年齢だけを追いかける。
     会川。相嶋。相葉。青木──。
     時計の針が一定のリズムを刻むように、彼らの顔を順に人差し指でなぞる。
     顔。住所。氏名。年齢。職業。所在地。
     ざらりとした古紙の感触があった。裏を返せばそれだけしかなかったともいえる。あまりの呆気なさにため息さえ出ようとした時、空虚な瞳が一つの固有名詞を捉えた。
     ──アオサギ探偵堂。
     刹那、バチンとブレーカーが落ちるような音が脳裏で弾け、増え続ける赤黒い打撲痕と甲高い悲鳴が蘇った。思わず耳を塞いだ。辺り一面が黒に染まり、耳鳴りが責めるように頭の中を反響する。
     彼の顔写真は電話帳に載っていなかった。けれど誰もが一度見たら忘れないであろうあの男の顔を、聞いてもいないのに名乗った名前を、灯野あやめはあの日の出来事と共に早く忘れようと努めた。
     一種の防衛反応だったのだろうか。強く目を瞑っていたらしい。力を抜くと、耳鳴りは波が引くように静まっていった。
     再び読み上げようと指を持ち上げ、住所の一部が滲んで読めなくなっていることに気が付いた。染み込んだばかりの水滴は薄い古紙に印刷されたインクを瞬く間に滲ませて、取り返しのつかない血痕の如く広がっていく。
     何故? 天井を見上げると同時に、疑問に答えるかのように水滴が頬を伝い落ちた。それが自らの眼からこぼれ落ちている意味が理解できず、邪魔な汚れを拭き取るように頬を拭う。
     駐車場。釣具。電気工事。動物病院──。
     時計の針は止まらない。写生のように、あるいは瞑想のように暫くそうしていると、夜のしじまが戻ってくる。
     もう耳鳴りは聞こえなかった。
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