【零英】月終わり、一歩先。 秋風が、優しく髪を揺らす。
「月が綺麗じゃな、天祥院くん」
街頭が等間隔にぽつぽつと並ぶ川辺。静まり返った夜空にひっそりと浮かぶ月を見て、柵に頬杖をつきながら零がぽそっと呟く。英智は小さく眉をしかめると、溜息をついた。
「よくそんな恥ずかしい台詞が平気な顔で言えたものだよね。自分に自信があるようで何よりだけれど、そういうのはライブのMCで言ったらどうかな」
喜ばれるよ、と同じ月を見ながら言葉を続ける英智に、零はニヤリと笑った。
「何のことじゃ?我輩はただ月を見た感想を言っただけじゃよ」
「……白々しいね」
首を傾げる零を横目で見ると、英智は手に持った薄茶色のアイスを一口食べた。
「まるで勝者のような態度だけれど、敗者は敗者らしくしおらしくしておいてもらえないかな」
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