暴力賛成 好きだと言ったら「だったら殴って」とにこやかに返された。
「殴りたい」の聞き間違いかと思って、え、何、と動揺の声を漏らすと間髪入れずに「殴って」と語尾にハートやらキラキラマークやらがしっかりくっついていそうな勢いで答えられる。
すごく嬉しそうに言うので耳と目からの情報がちぐはぐでおかしくて飲み込めない。混乱しながらも足立さんを殴る想像をして罪悪感すら感じ得てしまった俺だったがどうやらこの笑顔を見るとその心遣いはいらなさそうだった。
「殴ってよ」
俺のこと、好きなんでしょう?
ええ。好きです。可愛いと思っています。
夜な夜な君をネタにして抜いていましたし、あなたの着替えを見るたびに元気になる俺の下半身、っていうか勃起を抑えるのに必死になりましたし、神様にあなたをもしくは俺を女にしてくれとかも願ってみました。本気で。今まで散々不思議なことがおきたんだからそういうことが起きてもいいですよね神様。
俺も君も男だから、かなわないってわかっていたけどホラ、今の時代「男女平等」「差別反対」「偏見カッコワルイ」な感じの流れじゃないですか。
それが浸透しつつある今の時代ならもしかしてのなんちゃってなゲイな俺でも望みがあるんじゃないのかとか軽いノリで思ったわけですよ。ああ馬鹿ばかしい。
思ったら決行しないと先に進まないじゃない、そんなのじれったくて待っていられないので俺は頑張ってみたわけですが。
ちなみに俺は準備の良い男と自負している。知識ランク生き字引。
どんな返事がきても良いようにいくつか答えのパターンも考えて来ていた。その用意してきた数なんと手と足の指じゃあ足りないというのに。
足立さんの答えはどれにも一致しないのだった。
「ねえ、好きなら何で殴れないの? 普通好きなやつの言うことなら聞くよね」
「……」
生き字引でも対応できない、こういうときってどうすればいいのだろうか。既にパンクしている。
否定されなかったってことは俺にはまだ希望が残ってるのだろうか。
でも殴ったら普通怒るだろう。足立さんが反撃してくるところまで想像が容易にできる。舌打ちもしながら振りかぶって全力で殴り返してくるだろう。
俺はためされてるのか?そうなのか?っていうか近づいてこないでそんなににやにやしながらこっちこないで、
「殴ってくれたら付き合ってあげるよ」
「止まってください」
「ねえ、どうする?」
「じゃあ、もっと、痛いことしてあげますから、今は止まってください」
ふうん。
俺はまだ殴ってないのに、さっき俺が想像したように足立さんが振りかぶっていて、ぎゅっと目を閉じた。