轟先生 小ネタ もう何時間待ったかわからない。
熱があるせいか頭がぼんやりしていて時間の感覚も狂っていて本当はそんなに経っていないのかもしれないが、とにかく、長時間待ち続けている気がしてならない。怠い。
今回の体調不良は咳がよくでるタイプのようでそっちにも体力を持っていかれて全身筋肉痛の重症バージョンというか……うまく伝えることもできなくなったようだ、本当につらいということは分かってほしい。
何人呼ばれたかはわからないが、診察室に出て入って出て入ってする人々を何人見送っただろうか。それでも俺の番はまだ来ない。
自分の後ろ、壁面頭上に張り付けられている病院備品の時計を首を捻ってやっと見上げると、二十時過ぎ、どうやらここに来てから二時間は経っているようだった。
まだ二時間。
正直体感はその倍はいっていたので、よかった、と思った。よくはないか。
年を重ねる毎に風邪がつらい。本当につらい。以前は体温の上昇と共にテンションも上がってるんではないかとすら思っていたのにそんなわけないだろと過去の自分に言ってやりたい。なんて考えていたら突然身体が揺れた。
「えっ」
「何度も呼んでる」
「と」
轟先生じゃないですか。
ぼんやりしているが目の前の人を間違えるほどではない。轟先生が俺の肩を掴んだようだった。
「えっと、どうしました」
「呼んでいる。お前を」
「誰が」
「俺は医者だ、早く診察室に入れ」
轟先生が医者だなんて知っていますが、と突っ込みたかったがここでようやく理解する。先生が、医者として患者の俺を呼んでいたが考え事をしていた俺が聞こえていなかったと。
「なるほど」
「はやくしろ、これ以上俺を待たせるなら抱いていくぞ」
「えっそれはどうやって」
熱があるせいかよくわからないことを口走った気がする。
先生は振り返らず診察室に入って、俺を待たず音を立てて扉を閉めた。