レオ監︎︎ ♀|🦁監♀SS③「果実を食む」ハロウィーンのイベントも無事に終わり、まだ熱気の残る学内を回りきったユウは最後に恋人の部屋を訪ねた。
「レオナさーん!ハッピーハロウィーン!お菓子くださ…うわっなんですかすごい!」
定番のセリフを口にしながら扉を開けると、ローテーブルには大皿に果物が瑞々しく山と盛られている。
ベッドから眠そうで不機嫌なテノールが聞こえてきた。
「遅い。どこで油を売ってたんだお前は」
「可愛い一年としては先輩方にサプライズをお届けしないわけにはいかないじゃないですか?」
「はっ、可愛い一年ね。いいからソファに座れよ」
「はい、失礼します」
やたら柔らかくて高価であろうソファにユウが、もふ、と慎重に腰を沈めると、右隣にレオナが無造作に座る。
「この果物を全部お前にやる」
「へっ!?こんなに!?」
「食うのが好きなお前なら食えるだろ」
「で、でももうこんなに夜も遅いのに」
「良いからほら、口開けろ」
レオナがシャインマスカットを一粒もいでユウの唇に押し付ける。
よく冷やされたハリのある感触に観念して口の中に迎え入れ、咀嚼する。
「美味しい…!果物は高くてなかなか手が届かないんですけど、シャインマスカットは特にそうで…久々に食べられました…夜中に背徳の味…!」
「そうかそうか。お前は素直に食ってそういう顔していればいいんだよ」
「え?そういう顔、とは?」
「なんだ、自覚ねえのか?ほら、口開けろ」
頭にハテナを浮かべた顔が、二粒目を噛めばうっとりと幸せそうな表情を浮かべる。
「くくっ、本当にお前はチョロくて可愛いなァ」
「なっ、チョロいのは余計ですよ!」
「はいはい。ほら、あーん」
すっかり機嫌を良くしたレオナによって口に運ばれた三粒目も美味しく食んでいると、不意にユウの腰に腕が回される。
こく、と飲み込むと同時に唇を奪われた。
下唇をざらつく舌で舐められて唇を薄く開けると、すかさず舌が侵入して味わうように深く深く口付ける。
「ああ、甘いな。砂糖菓子みたいだ」
「…っ、普通に食べたら良いじゃないですか…」
この程度のじゃれあいでも頬を染めるユウの様子にレオナの艶やかな唇が満足そうに弧を描く。
「王子様が手ずから食わせてやってるのに、お前はしてくれないのか?」
「えっ、もう…。はい、どうぞ」
華奢な指先が大きめな一粒をもいで恐る恐る差し出すと、すかさず手首を取られて指ごと食まれた。
パリスグリーンの瞳が楽しそうに細められる。
「レオナさん、遊ばないで下さいよ…」
「ライオンが獲物を弄んで何が悪い?」
「もう…」
わざとらしく、ちゅう、と音を立てて指先を吸いながら唇が離れる。口の中に残った一粒をろくに味わう様子もなく飲み込んでしまうと、悪巧みをしている時の優しい声音で囁いた。
「お前はいつもいつも俺が何か買い与えようとすると、庶民感覚がどうのとか理由をつけて拒否するだろう?だが今日は別だ、ちゃんと貰ってくれるよな?お前が食わないなら棄てるまでだ」
「えっそんな、お裾分けとか」
「却下だ、棄てる」
「そ、そんな…こんなに豪華で美味しそうな果物なのに…」
「俺も手伝ってやるから、食べるな?」
「う…せっかくハロウィーンで用意していただいたんですもんね…分かりました、有り難くいただきます」
ユウが説得と食欲に負けて自ら手を伸ばして果物を楽しみ始めると、レオナはソファに凭れてその様子をしばらく愛おしげに眺めていたのだが。
「ところで、ユウ。果物は菓子じゃないからカウントされないよな?」
「へっ?」
「イタズラ、恋人相手に可愛くてセクシーなのを用意してくれてるんだろう?」
「なっ」
「食べてからで良いからな」
「なんか狡くないですか!?」
「なんなら俺からしても良いぞ」
「〜っ」
ユウから水菓子なんてしゃれた単語が出てこないのも織り込み済みだ。
どれも格別に甘くて味の濃い、おそらく各地から取り寄せられたであろう最高級の果物たち。これに見合うイタズラとは。しかもリクエストはセクシーなイタズラ…。
とんでもない難問だがユウはなんとなく「分からないので教えて下さい」が一番喜ばれるのではないか、と考え至り。
ひとまず目の前のご馳走に集中するのだった。