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    yoi_kure

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    yoi_kure

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    ngro艦これパロ

    まだまで書き途中です。
    「陸防艦」という独自設定があります(作中で説明に至っておりません)
    なんでも大丈夫な向け

    水平線に立て!水平線に立て!




     見慣れた芝がそこにはあった。
     つい一年前まで自身が当たり前のように立っていた人工芝。その作り物の緑に覆われたピッチを眼下に置いて御影玲王は一つ、小さく息を吐いた。
     観客収容数が日本一と言われるスタジアムの東側、常日頃ならば観戦客がひしめき歓喜と興奮の声で包まれているであろう観客席の最前列。その一角を工事現場で使用される鉄筋資材で急ピッチに設置された無骨な足場の上に、御影玲王は居た。
     ピッチを挟んで向かいの西側観客席にも同じく無骨な足場が一つ。
     その上に立つ白髪が微かながらに風にそよいでいるのを確認した途端、不意に玲王は叫びたくなった。毎回、出撃の際には同じ気持ちになるのだ。
     今日も、生きている。
     今日も、共に出撃できた。
     自分の人生の中で一等大事な宝物が自身の手に届かないところで無茶苦茶に扱われ、ゴミのように消費されるのではないか。そんな不安をもう感じずに済むのだと、その事実だけで信じてもいない神にお礼を叫びたくなるのだ。
     俺が一緒に居る限り、凪を守れる。
     叫びそうになる唇を小さく噛み、震える喉に力を入れる。
     瞬間、スタジアムに響き渡る放送音。

    「全艦出撃準備完了!抜びょう、始め!」

     スタジアムの電光板に映された海上映像に小さく人影のようなものが陣形を作り移動しているのが判る。
     あちらも手筈通り無事進行を開始したらしい……少し安堵しながら息を吸い込み、先ほどは飲み込んだ喉の震えを今度は邪魔せずそのまま眼前の空間にぶつけるように、吠えた。

    「陸防艦 御影、抜びょう!」
    「陸防艦 凪、抜びょう」

     さぁ、今日も勝って共に生き残ろう。
     負けてしまったら、共に沈もう。
     そんな戦争を、今日も始めよう。

     第五次本土防衛迎撃作戦、その戦いの火蓋が切って落とされた。




     歓迎されない来客はまるでここが自身のテリトリーであると言いたげな態度で食堂に進入してきた。
     闇のように真っ黒く染められたスーツ、遊びの色の無い地味なネクタイ。監獄の中の食堂にいる選手たちをぐるりと見回す温度の無い目。相対する人間全員がこの男に好感よりも不快感を抱くであろうことは一目瞭然であった。
     そんな役人然とした男から遅れて数秒、困惑の顔をしたアンリに続いて監獄の少年たちの前に続けて入室してきたのはあまりにも奇妙な『少女』であった。
     ツインテールに結わった茶髪に、朱色の上衣。細く華奢な脚で制服のような紺のミニスカートをひらめかせている。それだけなら、この監獄に入る前に街で見かける女子高生のようにも見えるが、その華奢で小柄な少女のあまりにも奇妙な点は頭部にあった。
     銀色の鈍い光が彼女の頭部に煌めいていた。冠とも甲冑とも違う鉄製の鍔のようなものを彼女が頭部に被っていた。
     形だけで言えば野球帽の鍔だけのような形状。しかし、この食堂に居る全員が見たことの無い形の装飾であった。
     数十人の少年たちの奇異の目を物ともせず、冷静にそれでいてどこか勇まし気にスーツの男の半歩後ろに控えた少女はゆっくりとその小さな顔を少年たちに向けた。

    「……っ!」

    瞬間、どこからともなく息をのむ音が空間に響いた。
    誰が鳴らした音なのかは分からない。なぜなら程度の差はあれ、ほぼ全員が少女の目線を受けて動揺したからである。
    その、あまりに強く、暗い視線に。
    それはまるで、老年の戦士のような目線であった。

    ■■■

    「お食事中に失礼いたします。突然ではありますが、私たちは防衛省より委任されました海上防衛任務に就いている者です。こちらの施設に居られる皆さま方が現在展開中の作戦においての適用があるかどうかを調査に来ました。まぁ、固い事を言ってもご理解は難しいと思いますので、とりあえず皆さま方にはお配りする同意書にサインをしていただいた後、こちらの調査に協力いただくことだけをご承知ください」

    一呼吸で言いたいことを述べた後、男は真顔で押し黙った。
    一瞬シン…と静まり返った食堂に響いたのは少年たちの疑問や怒号の声であった。

    「えっ…ちょ、どういうことですか?」
    「ぁっ!?どういうつもりだテメェ!?」

     潔の戸惑いの中にも現状を把握しようとする声、突然現れてベラベラと自分勝手に話し始める男に対する馬狼の怒りの声、声に出さずとも雪宮や氷織の困惑の表情。
     その全てに対して無機物を見るような目線だけを寄越した男と少女に対して、なお食堂内の困惑は高まっていった。

    「っはぁ!すみません、遅くなって!」

     慌てて食堂に飛び込んできたのは帝襟であった。
     ハァハァと息を切らしながら両手にA4サイズの用紙を何枚も抱え食堂に入ってきた彼女の姿に、少しだが少年たちは安堵した。
    ――あぁ、やっと話が出来る人間がきた
    そう、安心したのだ。
    しかし、その安心も束の間のものだと瞬時に何人かの少年は悟っていた。
    余りに彼女の、帝襟の顔色が悪かったのだ。顔面蒼白、という言葉通りに彼女の顔は青白く、かつ用紙を握るその手は微かに震えていた。
     カツカツ、とヒールの音を響かせながら男の隣に立つと、食堂に設置している大型モニターに向かって「絵心さん…、説明をお願いします」と声を掛けた。
     瞬間、それまで真っ黒に沈黙していたモニターに厳しい顔をした絵心の顔が全面に映し出された。

    「やぁ、才能の原石たち。あまり喜ばしい知らせではないが、今君たちには先ほどそこに居る男から聞いた通り国の要望である調査を受けてもらうことになった。…これは日本サッカー協会からの要請ではない。国からだ。分かるな?国、日本国からの要請だ」
    「俺も先ほど聞いたばかりなんだが、どうやらこの国は俺達が知らない間に戦争状態に突入していたらしい。その戦争の戦力としてお前たちに適応調査が回ってきた。詳しいことは秘密保持だとかなんとかでコチラにも詳細が降りてないが…、そういったところらしい」

     いつもよりも静かに話す絵心の言葉に流石のエゴイスト達もこれは大事なのではないか、という緊張感が走っていた。加えて、先ほどの言葉。今、絵心は「戦争」と言わなかったか?その言葉の意味は当然全員知っていたが、その言葉が今まさに自分事として目の前に立っていることを芯から理解している少年は一人もいなかった。ただ、大きくて怖いものが、そこにはあった。

    「急に戦争と言われても戸惑うでしょう。そもそも現在日本が置かれている状況は、キミ達が想像するような諸外国同士での戦争とは実態が違います。我々が戦っているのは海に居る怪物たちとです。その名も深海棲艦。昨年突如海に現れた亡霊、船の怪物ですよ」

     戸惑いと恐怖で薄く涙まで浮かべる少年もいる中で男は滔々と説き伏せるように意味不明な言葉を語りかけた。深海棲艦、誰一人聞いたことの無い言葉を当たり前のように紡ぎながら。

    「そして、これは我々にとっては胃の痛い話ですが、深海棲艦に対抗できる武力と言うのが通常兵器ではなく、特別戦力…艦娘と我々が呼んでいる兵器でしか対抗できないのが現状です。仔細はここではお話できませんが、これはまぁ何というか人を選ぶんですよ。選ばれた人間しか艦娘になれない。なんのことか分からない方もいらっしゃいますので、例え話をするならガンダムを思い浮かべてください。エヴァンゲリオンでもいいですよ。アレらも選ばれた人間しかコックピットに乗れないでしょう。そういうのと同じです、艦娘も。なので今回はその選ばれしコックピットに乗り込めるパイロットの適性検査のようなものを実施します。特に難しくも痛くもありません。水を張った桶に手を入れてもらうだけです。ただ、それだけ」

     そこまで言い切ると、初めて自身の隣に立つ少女に横目で視線を向けた。

    「実際の艦娘にも本日は同行してもらいました。こちらにいらっしゃる方、龍驤さんと言います。龍驤さんも艦娘なんですよ」

     片手で隣に立つ少女を指し示すと、入室して以来一度も表情を変えない少女が、そのままの顔で少しだけ頭を下げた。


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