スイカ買い出し日和「スイカを買ってきてほしいんだけど」
このエコバッグに入るくらいの小玉で頼む、と差し出されたのはロドスで広く流通している折りたたまれた袋だった。真ん中にロドスのロゴが入っているだけのシンプルなバッグはその頑丈さからそれなりに人気があり、現在では様々なカラー展開を誇る品である。なぜエンカクがそんなことに詳しいのかというとこのエコバッグはロドス園芸部一同の愛用品であり、あるときは園芸用品の買い出しに、またあるときは実り過ぎた収穫物のおすそ分けにと大活躍中であるからである。
その渡された黒いバッグが導入最初期の頒布品であることを思い出しながら、エンカクは無言で説明の続きを促した。
「ウォッカ・スイカを作ろうと思うんだ。この前ホシグマに教えてもらったんだけど、ちょうど明日ロドスに顔を出すっていうから」
その怪力とは別に酒豪としても名高いオニ族は、職務の関係でロドスとホームグラウンドである龍門を頻繁に行き来している。そしてそのたびに後者の伝説を更新していくため一部人員の間では恐れおののかれているのだが、目の前の彼とはどうも馬が合うらしく連絡があるたびに盛大な飲み会が開催される。エンカクは一度も参加したことはないが、何度かぐにゃぐにゃに酔いつぶれた彼を回収させられたことがあるため、知らず眉間に不愉快さ由来の深いしわを寄せた。だがそんなエンカクのことなどいっこうに意に介さず、男はにこやかに口を開く。
「ウォッカ・スイカって知ってる? スイカのてっぺんに穴を開けて酒瓶を刺して一晩置いたら完成なんだって」
「知らん。俺を巻き込むな」
「今日は会議続きでどうしても手が離せないんだよ。一切れ取っておいてあげるから」
「巻き込むなと言っているだろう」
「じゃあ二切れ」
こうなるともはやエンカクでは口で勝つことは難しい。なにせ相手はその頭脳と口先だけで戦場のあらゆる物事をコントロールできてしまえる指揮官である。そうして結果的に、終業後の商業地区をさまよう仏頂面で片手にエコバッグを持ったサルカズ傭兵がひとり出来上がってしまったのだった。
「気がついてしまったんだけど、私の腕力だと酒瓶を刺す用の穴を開けるのはかなり難しいんだよね」
「(仏頂面・特化三)(こめかみに浮かんだ血管)(ものすごく嫌そうな長い長いため息)」
結局、三切れほどアルコールしみしみのをもらったそうです。