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    tokinoura488

    @tokinoura488

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    こちらではゼルダの伝説ブレスオブザワイルドのリンク×ゼルダ(リンゼル)小説を書いております。
    便宜上裏垢を使用しているので表はこちらです。→https://twitter.com/kukukuroroooo

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    Twitterに「#ハイラル城備忘録・幻史」のタグでアップしたモブ視点リンゼルSS
    登場モブ:アデヤ村の娘・15才代・女性
    タイトル:それは森の色

    ##リンゼル
    ##モブ視点
    ##ハイラル城備忘録

    ハイラル城備忘録*幻史【アデヤ村村娘の記録1】

     1 それは森の色

     アデヤ村は今日も眠たくなるくらい平穏だ。窪んだ大地に湧き出る泉の中に点在する家々。丘の上には影ですっぽり村が隠れてしまうのではないかと思うほどの巨木が立っている。私は主の樹と勝手に呼んでいる。泉に立ち並ぶ家と家とを繋いでいる渡橋の木板を踏めば、振動に驚いて小魚が水面に勢いよく跳ねた。水しぶきが太陽の光にキラキラ光って、美しい波紋が広がっていく。
     私は今年で十五になる。もう少しで独り立ちしてもいい年になるけれど、自分が将来どうするのか未だ決めきれないでいる。一つしか年の変わらないゼルダ姫様は、厄災を封じるために修行の日々だと聞いた。
    「もうそろそろ帰らないと」
     自分には自信がない。何を根拠に、自分は素晴らしいと言えるのだろう。私はただの村長の娘だ。それだけで周囲は勝手に私を値踏みする。料理が得意でもないし、裁縫が好きでもない。馬にも乗れないし、特別賢くもない。自分はいったい何になるのだろう。見目だってそうだ。姫様のような明るい金色の髪や宝石みたいな美しい青緑でもない。無難な茶色の髪、焦げ茶の瞳。どこにでもいる子どもと大人の間の微妙なお年頃の女の子だ。
     ちょっとだけ落ち込んでいたのは、今日アデヤ村に私の憧れの人がくるからだ。村長の娘というだけで、私は村を案内する役目をもらっていた。ポンポンと頬を軽く叩いて気持ちを切り替える。
    「今日は姫様だけじゃなくてリンク様もご一緒なのよ! しっかり観察して今後の妄想に役立てなきゃっ!」
     私の唯一の楽しみは、そうハイラルの姫巫女であるゼルダ様と、そのお付きの騎士である英傑リンク様との禁断の恋を妄想すること。
    「ふふふ……今日くらい父さんの子でよかったと思うわ」
     私がリンク様を初めて見たのは、聖獣の乗り手披露の催しが開かれた日だった。ゼルダ様は私の幼い頃からの憧れの人。滲み出る上品さと愛らしい微笑みに何度沿道から手を振ったか知れない。だから、姫様がもの悲しそうに微笑まれるのを、私はその日初めて目にした。翡翠の瞳の先には若くして姫様付きとなったリンク様がいて、そのなんの感情も浮かんでいない顔を見て、私の胸がぎゅっと痛んだのを覚えている。
     姫様はきっとこの方が気になるんだわ。
     なぜかそう思った。確証もなにもない。あるとするなら願望に近かったかも知れない。雲の上の存在で、とても同じハイラル人と思ってさえいなかった姫様が、すごく自分の近くにいらっしゃった気がした。視線を向けられたリンク様はどうして気づいて差し上げないのだろうと、強く憤ったことも鮮明に覚えている。
     それからお城に行く機会もなくて、私は頭の中でお二人がどんな風に会話し、どんな関係を築いていくのか――ということを妄想するようになった。時には紙に書き付けて、自分で読み返しては胸をときめかせた。
     自分で勝手に書く物語の中で、リンク様は姫様の気持ちに気づいてやさしく頬にキスをしてあげる。でも、お二人の間に本当はどんな出来事があったかなんて私には分からない。これは私のただの願望だからだ。それでも大好きなゼルダ様を幸せにできるのが嬉しくて、私はいつも思いついた恋物語を綴っていた。一人机に向かって笑っているからか、父には「縫い物でもしたらどうだ」といつも渋い顔をされた。そんなのは右から左。この創作はすべてにおいて夢中になれない私の唯一の楽しみなのだから。

     ついに馬に乗ったお二方が村に到着したのは、もう夕日が落ちようという頃だった。途中で崩落事故に巻き込まれて遅れてしまったのだと、姫様が謝意を言葉にされた。もちろん平穏な道ばかりではない巡行なのだから仕方ない。村案内をしたかったけれど、もう翌朝立たれるとのことで、私は一緒に食事をすることしかできなかった。それだけでも充分光栄で嬉しい出来事なのだけれど、期待に胸を膨らませていた分、私はとても落ち込んだ。だからもうこの食事時しか、お二人を観察することはできない。
    「ここはいつ来ても素敵な村ですね。高台からの眺めに心癒やされました」
     姫様のお優しい言葉が耳にくすぐったい。リンク様を見ると、とくに変化はなかった。無表情の沈着冷静な騎士という噂は本当なのかも知れない。妄想の中のリンク様は、もっと雄弁に姫様に愛を告げる。けれど目の前のお二人は誰がどう見たって王家の姫とその従者たる騎士。それ以外の何者でもない。表情豊かなリンク様は、私が勝手に作り出した偶像に過ぎないんだという現実を突きつけられたような気がした。
     それでも私は目を離せなかった。こんなに近くで大好きな人を見ていられる機会なんて、もう二度とないかも知れないのだ。
     最後のお茶を振る舞った直後、父が崩落事故について口にした。
     これまでまったく変化のなかったリンク様の表情に、苦悶の色がほんの一瞬浮かんだ。
    「そう、ですね」
     姫様の言葉は不自然に切れた。細い肩が小さく揺れて、顔色が少し悪くなった気がした。部屋の明かりがわずかに明滅する。父は気づいていない。でも私にはとても大きな変化だった。
    「……ありがとうございます。私は、何事もありませんでしたから」
     父の問いに姫様はそうお答えになった。すでに顔色は戻り、声色もしっかりとしている。それでもどこか悲しげなのはなぜだろう。それがとても気になった。
    「あ、あのゼルダ様」
     勇気を出して問いかける。姫様は視線を合わせて下さった。
    「どこかお加減でも?」
     ほんのわずか目を見開いて、それから優しく微笑まれた。
    「大丈夫です。ごめんなさい。あなたに村を案内してもらいたかったのですが、次の機会にはぜひ」
     柔らかい手が私の手を包んで、それからそっと離れていった。ご就寝の為、席を立たれた姫様。その後を鈍い金色の髪が追従するのを私はただ見送るしかできなかった。

     朝霧の立つ早朝。まだ太陽も顔出さない内から、お二人は出立の準備をされているのが音で分かる。誰も見送らなくてよいとのことで、村の誰も起きてはいないようだ。けれど、私はどうしてももう一度お二人の姿をこの目に留めておきたかった。本来なら村を案内し、言葉を交わし、もっとお二人の人となりを知ることができたはずだから。
     家を抜け出すと、もう主の樹のそばに青い服が見えた。気づかれぬように大樹のそばに立つと、リンク様が馬の背を撫で、姫様は名残惜しそうにアデヤの村を見下ろされていた。
     私はそっと太い幹の影から、リンク様が馬の背に荷物を載せられている様子を見ていた。二人の視線は絡まない。黙々と出立の準備が整っていく。ふいにリンク様の手が止まって、差し上げられていた腕がゆっくりと降りた。
    「……リンク」
     姫様の声が耳に届く。どこか驚いたようなそれでいて柔らかい声色。私からはリンク様の表情は見えない。代わりに姫様の翡翠の瞳に山際から差し込む太陽の光が写り込むのが見えた。ずっと宝石のようだと思っていた。けれど違う。その色は大地を守っているような森の緑。
     一歩、二歩と姫様はリンク様に歩み寄られた。私はドキドキして息をするのも忘れて、それを見ていた。どうしてもリンク様の表情が見たい。あの慈しみ深い森の緑色に見つめられたリンク様のお気持ちを知りたい。私は気づかれることも覚悟で、幹の反対側へと移動した。
     あ……。
     息を飲んだ。朝日がキラキラと落ちる雫を照らしている。それは頬を伝う涙だった。感情を持たない騎士と噂されるリンク様も泣くことがあるのだ。反射的に姫様を見た。そこから目の前で起こった出来事は夢のような色彩を放って、私を魅入らせた。
    「悔やんでいるのですね」
    「はい」
     悔しそうに噛みしめられる唇。ほんの少し血が滲んでいるように見える。
    「俺の判断が甘かったせいです」
     ゼルダ様が首を横に振る。
    「いいえ……。それならば、私にも責任があります。貴方にどちらかを選ばなければならない状況を作ってしまったのは、私なのですから」
    「違います! どちらも間に合うと判断したのは俺自身です」
    「……では、一緒に祈りましょう。不運な事故として終わらせてはいけない。私も貴方と同じ責任と哀惜を背負います」
     会話の流れから私は会食後の父の言葉を思い出した。お二人が巻き込まれた崩落事故で、確かに人的被害はなかった。けれど荷馬車を引いてた馬が一頭死んだのだと。その馬はお二人と巡行を共にしていたのかも知れない。
     ゼルダ様はそっとハンカチで、リンク様の零れる落ちるままの涙を拭われた。
    「ゼルダ……様」
     柔らかい春の新芽のような瞳がリンク様を包み込んでいるように思えた。頬に添えられたままの白い御手に、リンク様の武骨な手が重なる。
    「それでも俺は貴女が無事でよかったと……」
     語尾は掠れていた。

     ああ、なんて素敵なんだろう。

     私も誰かを支えられる人になりたい。姫様だってリンク様を支えようとしてらっしゃる。そのリンク様だって、姫様を支えようとしてらっしゃる。
     私もなりたい。
     私の力が誰かの支えになる――そんな仕事を私はしたい。
     それがどんな仕事なのかはまだ分からない。けれど、きっと私は見つけ出そう。
    「リン……ク」
     ゼルダ様の瞼がそっと閉じられていく。私は視線を枝を大きく広げる樹上へと向け、ちいさく決意の息を飲んだ。
     ささやかな決意をしている間に、お二人の距離は縮まって影と影が重なる。言葉は消え、風の音と朝を言祝ぐ小鳥のさえずりが辺りに響いて、やさしい口づけが交わされたことを、私は知らない。再び目にしたのは、森の緑を写した瞳と、仲睦まじく寄り添われるお二人の微笑みだった。
     感情を抱かぬ孤高の騎士も、きらびやかな王族である姫様も、夢見がちで自信のない私も、それはその人の持つひとつの面でしかない。
     私は明日も綴るだろう。お二人が歩まれる幸せな物語を。

                                 了
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