魔女と怪物森で瀕死の怪物を拾ったのは単なる気まぐれだった。
「お出掛けですか」
籠を持ち、森へと薬草を摘みに行こうとしたところを、ツキシマ……拾った怪物に見つかった。
このツキシマ、それはそれは酷い怪我だったが、元々生命力が強かったのか、無事に回復し今に至っている。
ちなみに名前は拾った時に着ていた服に
-No.07-27 TUKISHIMA-
と書かれていたからそう呼んでいる。それがどんな意味なのかは知らないし、興味もない。どうせ回復したらさっさと出ていくかと思っていたからだ。
なのにツキシマは何故かまだ私のもとにいる。
「俺も行きます」
「一人で大丈夫」
「いえ、行きます」
今日もツキシマからの圧が強い。有無を言わせぬ表情で迫ってくるから困る。
何度も「回復したなら好きなところへ行け」と言っているのに、ツキシマは出ていこうとしない。まぁ、あの風貌だ。一目見て人間ではないと分かるから、行く場所などないのは分かっている。分かっているから私も無理に追い出すことはしない。でも、気まぐれで助けただけだから、恩返しとかはやめてもらいたい。行きたいところがあるなら、気にせずに行ってもらって構わないのだ。
そうは言っていても、ツキシマがいて助かっている事は沢山ある。率先して重いものを運んでくれたり、水汲みや薪割りをしてくれる。食料だって、二人に増えたから大変かと思いきや、食べられる植物を教えれば取ってくるし、狩りもしてくるので困らない。ただ料理に関しては……触れないでおこう。
「なんでついてくるかねぇ」
「人間に襲われるかもしれません」
「魔女を襲う奴なんていないよ」
実際、この森には魔法をかけてあるから、敵意のある人間は入ってこれない。でもさっきの言い方だと、ツキシマのあの傷は人間につけられたものなのかもしれないな。私も腕の古傷を思い出し、思わず擦った。
「それにあなたはすぐに転ぶし、薬を作り始めると寝食忘れるし。目が離せません」
寡黙だと思っていたツキシマだったけど、最近はよくしゃべるようになった。
「ちょっと、ツキシマッ…………とっ」
「言っているそばから」
躓いた私の腕をツキシマが掴む。そして盛大に溜め息をついた。
「これだから……」
「うるさいよ、ツキシマ」
腰をつかんだままのツキシマをキッと見る。
「いい加減離してちょうだい。歩きにくいでしょう」
私の言葉に、渋々といった感じでツキシマは手を離す。その代わり、私から空の籠を取り上げると手をぎゅっと握ってきた。
「なっ」
「あなたが転ばないようにです」
一切表情も変えず、淡々とそういうツキシマに返す言葉もなかった。