食べ尽くす愛(マホカビ)マホロアを型どったオヤツが並ぶ。ドーナツは青と白のデコレーションで黄色の歯車型チョコがトッピングされていて、ケーキはグルメフェスのときに何度も見たマホロアケーキ。ふわふわのマシュマロはピンと立った角が二つあるし、コーヒーゼリーは彼の特徴の一つでもある耳が付いている。クッキーはきつね色に焼けた生地の上をカラフルに彩られていてとても美味しそうだ。
最後にぼくの近くにココアを置く。ワープスターみたいな形のマシュマロがホイップと共に浮かんでいた。
「サァ、カービィ。いっぱい用意したからタクサン食べてネ!」
「わぁい!いただきます!」
ある日マホロアに、二日後ローアへ遊びにキテ、と誘われた。二つ返事でぼくは約束して、太陽が二度昇るのを楽しみにしていた。だってマホロアが遊びにおいでと誘ってくれるなんて珍しいんだもん。いつもはぼくが突撃しに行ったり、外で遊ぶから。
いざその日になると時間聞いてなかったことに気が付いて、いっそ朝食後すぐ行ってしまおうと考えた。いつもよりちょっぴり早く食べ終えるとすぐさま家を出て、ぼくの足はほとんどかけ足になっていてあっという間にローアに着いた。待ちきれなくて早く来ちゃったけれど、マホロアの想定していた時間よりも早いかもしれない。まだ寝ていたらどうしようと思っていたけれど、出入り口の前に立つと扉が開いてくれる。歩を進めるとマホロアが、ニコニコしながらオハヨウと出迎えた。ぼくは元気よく挨拶を返して、マホロアの後を付いていくと、食事テーブルにつく。余談だけど初めてポップスターに来たときはなかったのに、ご飯作ったり食べるスペースを確保したみたい。
イスをひいてエスコートしてくれたマホロアにお礼を言って、テーブルの上を見る。どれも美味しそうなオヤツが並んでいたというわけ。行儀よく手を合わせて、ぼくはゆっくりとマホロアが用意してくれたオヤツを両手で丁寧に持つ。前に美味しいモノはちゃんと味わって食べないと勿体ないデショ、とマホロアに言われたからのもあるけれど、これ全部手作りと聞いたからでもある。
「どれから食べるか迷うけど……、最初はこれにする!」
まずはドーナツ。きつね色とチョコレート色のドーナツはしっとりとした生地で、その上をコーティングしているチョコは程よくマッチして、別乗せの歯車型チョコが違う食感を生み出してとても美味しい。
次にケーキ。レースのときはこの上をコロコロ転がっていたんだよねと思い出しながら、あのときは味わえなかったスポンジ部分をクリームと一緒にフォークで刺して口に入れる。ふわふわなスポンジケーキは何層か積み重なっていてフルーツが挟まっているみたい。レース中はこんなに美味しいものの上を転がってイチゴ取り合っていただけなんて勿体ないことしたなぁ。再現してくれているようで身体と手の間はワッフルコーンで橋のように繋がっている。
「ドウカナ?」
「すっごくおいしい!!」
不安げにぼくを向かいのイスから見ている様子のマホロアに、そのままの感情を伝えることにした。どれだけ美味しいか、いっぱいいっぱい言いたいのに、うまく言葉が出てこない。だってとっても美味しいんだもん!
でもマホロアはぼくが美味しそうに食べてるのが満足なのか、それ以上の感想を求めることなく、安心したように目を細めた。ぼくの向かい側で、楽しそうに見ている。
マホロアって機械いじりが好きみたいだから、こういう食べられる装飾作りとかも得意なのかな。だとしたらとても器用だなて思う。ぼくなんて気が付いたら、食べちゃって材料がないもん。
「ところでどうして今日のオヤツは、みんなマホロアの形なの?」
「……なんとなくカナ」
いくらぼくでもはぐらかされたって分かる。でもマホロアはウソが得意だから本気で隠そうとしたら、ぼくには分からない。自分から話すまで触れないでおこうと、次のオヤツを手にした。
コーヒーゼリーはまるでマホロアがフードをとっているような状態だ。渡されたミルクは青みかかっていて、上からかけていくと、まるでマホロアをお着替えさせたみたいな気分になる。スプーンを入れてすくうと、プルプルでほどよい甘さだ。口直しにちょうどいい。
クッキーはこういうのはアイシングクッキーというんだっけ?色とりどりにマホロアが描かれていて、一枚一枚ポーズも違う。中には緑と白のローブ姿の見たことない格好のマホロアもいて、凝ってるなぁと思いつつ眺めて楽しんだら一口で頬張る。マホロアの説明によると、クッキーにお絵かきした材料は砂糖の塊らしい。だけど考慮した上でのクッキー生地なのか甘過ぎるなんてことはなかった。サクサクしててほっぺたが落ちそう。何十枚でも食べられる。
「おいしかった〜!」
マホロアが用意してくれたオヤツがすっかりなくなると、ぼくは満足げにお腹の辺りをさすった。全部美味しくてとっても幸せな時間だった。
まだ満腹には遠いけれど、心は満足した。マホロアがぼくのためにお菓子を作ってくれたんだもん。とっても嬉しかった。
ココアまで飲み干したぼくを見て、マホロアはイスから降りる。
「カービィ、まだ食べられソウ……て、聞くマデもないカ」
チョット待ってテ。と一言残すと、キッチンの方へ向かった。なんだろう。ついまだなにかあるの、て期待してる目を向けたら、まだ余裕だと察したみたい。
ワクワクしながら待っていると、いつかのときのカフェで食べたマホロアモチーフのデザートドリンクを持って、マホロアが戻ってきた。これとても美味しかったやつ!それにパチパチするキャンディーが入っていてすっごいマホロアらしいメニューだなぁと思ったんだよね。期間限定だったからもう食べられないと思ってたけど、まさかマホロア本人が作ってくれるなんて夢にも思わなかった。それも大きめのパフェグラスに入ってる。
「クックック!ボクのキミに対するオモーイ愛を受けきってみなヨ!」
「受けて立つよ!」
このぼくが食べ物を前にしてお腹いっぱいになるわけないじゃないか!全部食べ尽くして、おかわり!て笑顔で言ってあげる。これらが全部キミの愛ならなおさら残すなんてするわけないよ。
「んぅ〜〜!おいしい!」
コレ食べるとマホロアと出会ったときのことを思い出しちゃうな。生クリームは軽いのに、トッピングのパチパチキャンディーが口の中で弾けていく。青いゼリーは爽やかで、昼間のオレンジオーシャンの海みたいにとてもきれい。熟されたマンゴーは甘い言葉を紡ぐキミみたい。ローブの裾を再現したような一番下のマンゴームースは果実本来の甘さを十分に活かした蕩けるような味わいだ。
青いゼリーとマンゴームースの間に位置するローブ色のレアチーズクリームは、ドリンクとしてはちょっぴり重め。マホロアのホントウの気持ちわかってるよ。キミがぼくのことダイスキだってことぐらい。だけれど、掬っても掬ってもレアチーズクリームばかり。カフェで飲んだときよりも遥かに量が多い気がする。一番下のマンゴームースまで辿り着かない。ふとマホロアの方を見ると、ニコリと笑っている。それも意地悪い方の笑い方だ。
「気づいタ?レアチーズクリームはカフェで提供していたモノよりた〜っぷり入れてみたヨォ!ダッテそこはボクのカービィに対する愛情部分だし、グラスいっぱいにしないで自重しただけホメてヨネ」
「この部分がぼくへの愛って……、これを提供していたの?!」
それってぼくのことダイスキてみんなに公言したようなものじゃん!
ぼくは恥ずかしくなって、勢いよく吸い上げて飲み切ってしまう。ホントはもうちょっと味わいたかったんだけど、またマホロアに作らせよう。空になったグラスを押し付けて、そっぽ向く。
「ベツにそういう発表はしてないヨ。でもキミと冒険した、あのときのメンバーだったら察したダロウけどネ」
それ確実に三人とも伝わってるじゃないか。大王はぼくと同じ食いしん坊だから頼んでるだろうし、バンダナだって大王と一緒にカフェ行ったと聞いているから、マホロアメニューのことは知っていると思う。メタナイトも甘党ということが広まってからは堂々とデザート頼んでいるからこれだって当時注文しているはずだ。
いくらぼくだって、これがドリンクというよりデザートという分類で、このレアチーズクリームが一般的には重いということは分かる。道理で大王とメタナイトから憐れみが篭った目を向けられたのか!
あれ?もしかして今日出されたお菓子が全部マホロアの形だったのって、やっぱりなにか意味あったんじゃないのかな。あれこれ考えてたから普段使わない頭が痛くなってきて、ぼくは倒れちゃいそうだ。ホント頭痛が痛いって感じ。
「カービィ、ボクのキモチ伝わっタ?」
「じゅーぶん過ぎるくらいだよ……」
なんだか楽しそうなマホロアの声に、ぼくはため息をついた。オーブン何回稼働させたんだろうという、ぼくがある程度満足できる量を用意し、その全てがマホロアモチーフな時点で、ぼくへの愛は重い。極めつけはあのデザートドリンクだ。きっと大王とメタナイトは胸やけしたんじゃないかな。
「ジャア、次はボクがカービィを食べ尽くす番ダネ!」
「え」
マホロアはぼくを抱えてどこかに移動した。異空間バニッシュ。一定時間攻撃が当たらない異空間に隠れて移動するという技らしい。あっという間に、見覚えあるマホロアのベッドの上だった。以前まではカチカチな固いベッドだったのに、頻繁にぼくが遊びに来るようになった今では、ふかふかのベッドだ。ぼくが入り浸るから、新しいのにしてくれたのかな。
新調したベッドが気持ちよくて、よくいっしょにお昼寝するんだよね。それとたっぷり時間かけて、食べ物のない口移しとか。
カチャ、と音がする。口に何もない口移しの合図だ。
マホロアがローブのベルト部分をずらして、口を重ねてくる。
「んっ……ちゅぅ」
「カービィ……んッ」
他のお友だちに口移しをするときは、何とも思わなかった。だけどマホロアだけは違う。こんなに気持ちよくて、もっとしたいなんて思うのはマホロアだけ。マホロアいわく、食べ物のない口移しはキスと言うらしい。最初ぼくたちのこの食べ物を分け与える行為に驚いていたのは、口と口を重ねるキスが最愛の人とするものだかららしい。確かに口に何もないのに、わざわざくっつけようとは思ったこともなかった。
けれどマホロアとはもっとしたい。すがるようにローブの裾をつかむ。ぽふとゆっくりと重ねられる、マホロアの口を見られるのはぼくだけだと思う。
なんで口を隠すのか、聞いてみたことがある。そうしたら、口にも表情があるからウソを見抜かれないようにしているんだって。ここポップスターなら必要ないんじゃないかと言ったけど、ずっとこうだから落ち着かないんだって返された。しかも器用にベルトの隙間からご飯食べてるから、人前ではローブを緩めるなんてことしない。ぼくとキスするとき以外は。
口と口を重ねては離れてを繰り返す。どのくらいそうしていたのだろう。マホロアとキスをしていると、ほわほわと温かいものが浮かんだような気がする。口が離れたすきに、ぼくの気持ちを言葉にかたどらせた。
「マホロア、だいすきだよ!」
「ボクもダヨ!カービィ」
ふたりでベッドの上で転がって、ゴロゴロする。オヤツ食べたばかりで行儀よくはないけれど、今日は特別な日と言い訳した。マホロアとゆっくりするのは久しぶりだからね。
時間はまだあるもん。いっしょにお昼寝してご飯食べて、それからもっとキスをしたいな。
「ねぇマホロア。今日はなにするの?」
「カービィと一日イッショにいたいナ」
「だからぼくとなにをしたいのか聞いているの」
ぼくの手を包み込むようにして握ってくるマホロアの手は暖かくて、食後の眠気が襲ってくる。ぽよ……今日は張り切って早起きしちゃったし眠いかも……。
「カービィ?眠いナラお昼寝スル?」
「ぽよ……」
どこからか毛布を取り出して、ぼくにかけてくれた。でも今日はマホロアといっしょて決めていたから、ローブをつかんで、眠い目を閉じないように必死に開けて、お願いをした。
「いっしょに、おひるね、しよ?」
「……イイヨ」
片手で顔を隠しながら、マホロアはぼくのお願いを聞いてくれた。だけどいつもはチョコレートみたいなマホロアの顔は、まるでさっき食べたチョコ生地のイチゴチョコのコーティングみたいに赤かったのは、なんでだろう。
終わり
――――
オマケ
副題は冒険のお供にマホロア一体。
スタアラのメタ話してます。
目が覚めたらマホロアと目がばっちり合った。まるで黄身を落として上下に引き伸ばしたみたいなきれいな黄色だから、吸い込もうとしちゃったのは内緒。
もしかしてマホロアは、ぼくに自分を食べてほしかったのかな。なんて。それは考え過ぎか。
「マホロアを物理的に食べることは出来ないもんね。口には入れられるけれど」
「なんのハナシ?食べられたらキミとお話デキなくなっちゃうヨォ……」
うっかり言葉にしちゃったみたいで、マホロアが困ったように目を細めていた。ぼくはごまかすように思い付きで口を開いた。
「ねぇねぇぼくがマホロアをコピーしたらどうなると思う?」
「カービィがボクをコピー、ネェ」
言いながらぼくも考えてみる。うーん、ウソつきたくなったりするのかな。マホロアといえば魔力球だけど、魔法使うコたちって似たようなことするよね。それにマホロアってかなり多彩な技を使うから、一つに絞れないかも。
「むずかしいなぁ。もう『マホロアカービィ』てなりそう」
「ワォ!カービィがボクになったらムテキだネ!ブラックホール設置に電気、炎、風、刃全部お任せダヨ」
「あと水か氷の魔法も使えたらいいのに。旅のお供にマホロア連れて、ぼくがストーンかハンマーコピーしていれば全部解決だもん」
「ボクのことナンダと思ってるノ?」
マホロアほど多彩な技使うコはいない。というかブラックホール作れるの、キミとかマルクみたいなデタラメな力を持つコくらいだからね。
ぼくは食欲がブラックホール級だけど。
「確かにボクはチョー優秀な魔術師ダケドネ、得手不得手があるんだヨ」
「まぁキミが水か氷まで属性付けられたら、マホロアだけでいいもんね」
「ウレシイ言葉ダケド、ゲームバランスというものがアルカラ!ベツに使えナイワケじゃないヨ!」
魔術師だもんね。分かってるよ。アイスクリームアイランドへ遊びに行ったときは、即席のかき氷作ってくれたこと。美味しくてまるごと食べたら頭痛くなっちゃったぼくに、新しい氷を魔法で作っておでこ冷やしてくれたことも覚えている。
「相性とかあるの?」
「必要なトキに使うのト、技トシテ扱うノダト、適性ミタイなのはあるネ」
ぼくみたいに同時は無理でも、能力を持つ相手を飲み込んでコピーし、自分のものにする方が珍しいみたい。ふーん。そういうものなのかな。
「マァ普通は反対属性はムズカシイとはいうカナ」
「そうなんだ?」
例えば炎系が得意なら氷や水系のものが使えないらしいしその逆もらしい。ぼくはコピー元のコさえいれば、ファイアもウォーターにもなれる。いつの頃かハンマーに力込めれば、炎も出せるようになったもんね。
「マァキミはチョ〜〜〜ット変わってるカラネェ」
「むぅ。たしかに何もコピーしてないときのぼくはあまり強くないけどさ」
「イヤ素でも割と強い部類ダヨ。普通は吸い込んだモノを弾にして吐き出せないカラネ」
何故か真顔のマホロアに、言い聞かせられた。大王もできたような気がしたけど、最近はあまり見ないしあえて話題にしない。ぼくはこくこくと頷くとマホロアは満足したようにニコニコとしていた。
途端、今までの空気を壊すようにぼくのお腹が空腹を訴え始めた。あまりにも大きな音で、マホロアはちょっと驚いてからお腹を抱えて笑い始めた。
「まだ数時間しか経ってナイのニ。アハハカービィのお腹の音、大きいネ」
「うぅ恥ずかしいけど、お腹すいた……」
「ハイハイ。お昼はマキシムトマトのサンドイッチがあるヨ」
「わーい!ぼくの大好物!」
ぼくの好物用意してくれていたんだね。ぼくのサンドイッチが待ってると思うと元気が出てくる。ウキウキでベッドから降りて、ダイニングルームに向かう。もちろんマホロアの手を引っ張っていくのも忘れない。
ぽてぽてとローア内を歩いていると、隣に並んで進むマホロアが唐突に話題を振ってきた。
「今度ボクの服キテミル?似合うト思うヨ」
「着てみたい!」
ジャア今度ネ、と笑った。もしかしてぼく用のサイズを用意するつもりなのかな。別にマホロアの着ているものでよかったんだけど。まぁマホロアって凝り性なところあるし、好きにさせておこう。こうしてマホロアと小さな約束を積み重ねていけるのが嬉しい。
ぼくはマホロアの手を握る力を、ちょっぴりだけ強くしたのだった。
終わり