そらなき強い風が背中を押して、いくらか足が速くなった様な錯覚を得ながら五十数階のビルの屋上を駆ける。幸いもう日は落ちて、少し肌寒い。後ろから少し遅れて屋上に駆けつけた人たちは、待て!なんて使い古された台詞を叫びながら追ってくる。そう言われて誰が待つ相手がいるんだろうか。
普段解放されていない屋上は、大したフェンスもなくただ簡単に乗り越えられる程度の柵があるだけ。これなら問題ないな、と脚を緩めず進めながら思う。何がって、柵を乗り越える間に後ろの人達に捕まらないかどうか、時間計算の話。
あとはそう、タイミングの話だ。
柵の下ブロックに足をかけて、柵に着いた両手で身体を持ち上げて、そのまま鉄棒の前周りの要領で体を倒し、ぐっと足をかけて飛び降りる。柵の外、ビルの縁に一歩、そのまま空中にもう一歩。当然空気を踏み沈み込む身体。空を仰ぐ様に身体をひっくり返して、重力にしたがってそのまま自由落下。
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