牙 楽しそうに笑う時。
悪戯が成功してニヤリと口角を上げる時。
テーブルで向かい合ってその日合った事を話す時。
折に触れて覗く鋭い牙に、つい視線を向けてしまう。
自分とは違う生き物、そして捕食者の証。
その牙が今、自分の首筋に触れている。
ちくちくと甘噛みし、皮膚の下の血管を確かめるように舌が這う。
昂ってくるといつもこうだ。
首筋に顔を埋め、物欲しそうに首筋に牙を寄せる。
首筋にちりりと緊張が走ると、「噛まないから力抜いて」と掠れた声。
噛まれるのが怖いのではなくて、なんと言うか──喰われるという本能の確信に、そんなつもりはなくても、胸がぎゅっとなり、そうなるときゅっとなるらしい。
テメェの牙なんか怖くねぇよなんて悪態をつきながらも、今もしこの牙に皮膚を貫かれ、血を吸い上げられ、それを嚥下する喉の動きを思うと、ぞわぞわと興奮にも似た何かがせりあがってくる。
落ち着かせるように髪を撫でながらなおも甘噛みは続き、暫くそうした後、首筋に一つキスを落とし、ゆっくりと離れていく。
長い舌が牙を舐め、ゆっくりと唇をなぞる。
濡れた牙の隙間から長い呼吸が漏れると、スイッチが入ったように動きが早くなった。
──飲みたけりゃ、言えよ。
その言葉が音になることはなく、あっという間に高みに連れていかれ──そして、果てる。
ぜぇぜぇと荒い息の中キスを強請ると、今にも死にそうな顔で、でも優しい眼差しが近づいてくる。
触れた唇の隙間に舌を伸ばそうとしたら「気をつけろよ」なんて言いながら優しく押し返された。
そのままゆるゆると絡みつく長い舌、鼻から抜ける温かい息。
あくまでも年上で紳士であるとでも言うような髪を撫でる優しい手つきに、むくむくと反抗心が湧き上がってくる。
ぐい、と強引に舌をねじ込む。
ぶつ、と舌に牙が刺さる音がした。
ドラルクは慌てて唇を離し、
「馬鹿か!気をつけろとあれ程!」
と叫ぶ。
その眼前に、血が滲んでいるだろう自分の舌を、ん、と突き出す。
「……は…?」
目を見開いて動きを止めたドラルクに、見せつけるように、ん、とさらに舌を伸ばす。
「君…わざと…?」
ニヤリと目だけで笑ってみせれば、あぁもうクソっ!とドラルクがガシガシと髪を乱す。
その後、ふう、と大きく息をついて、
「降参。」
と呟いて伸ばした俺の舌にぱくりと食いついた。
舐め取られた血液が、こくりと喉の奥に落ちていく。
名残惜しそうに離れた唇を、長い舌がペロリと舐めた。
唇の隙間から覗く牙。
その牙がいたずらに俺を傷つける事はないと分かってる。
鋭さとは裏腹なその優しい牙に、いつか。
そんな事を考えながら手を伸ばし、指先でそっとその牙を撫でた。