掻き込むように肉を喰らう。
味わう余裕がないというように。
最高級のランクの肉をまるで何も有り難みがないと言わんばかりに。
行儀悪く手で鷲掴みにして、人ではなくなったように肉を掻き込む。
血の滴る肉を口いっぱいに頬張り、飲み込む前に次へ手を伸ばす。
そんなダンデをまるで神の様に自愛に満ちた瞳でキバナが見つめている。
口元をベッタリと汚す油を手の甲で拭えば、キバナが
「満足した」
と見惚れてしまうほど美しい顔に笑みを浮かべて問うものだからダンデは思わず目が離せなくなった。
瞼を伏せ笑えば美しい碧が隠れてしまって少しだけ残念な気持ちになる。
笑うキバナは美しいが一等好きな碧が隠れてしまうのは頂けない。
そんな事を考えながらもダンデはキバナから目が離せない。
そんなダンデを見ながらキバナがダンデの頬に手を伸ばした。
長くしなやかなキバナの指の先がダンデの頬に触れそのまま唇をなぞる。
テラテラの油をダンデの唇にまるでグロスを塗るように動かしたあとその指先をぺろりとなめた。
それがあまりに妖艶で先程まで肉を掻き込むように食べていたのに腹が減ってのどが渇いてきた。
「満足するまで食べていいよ」
許しが出たことが嬉しくてダンデは思わず笑う。
笑って、笑って
眼の前のキバナに手をのばし力いっぱい引き寄せる。
汚れたテーブルに極上の獲物が転がる。
それが嬉しくて目を細めれば、テーブルの上のキバナも同じ様に目を細めた。
それを見てダンデはガパリと大口を開けて獲物に喰らいついた。
そしてダンデの歯が肉に沈むその直前でダンデは目を覚ました。
パチリと目を見開き、起き上がるとそっと布団のなかを確認してうわぁぁと両手で顔を覆う。
なんて、なんて
「なんて夢を見てるんだ俺は」
キバナを食べる夢なんて、しかもそんな夢をみて夢精してるなんて思春期ではあるまいし、ましてや俺にカニバリズムの趣味はない。
ベッドのなかでごろごろと転がりながら悶えていると
「おはようダーリン。なにやってんの?」
と、夢のなかでみた美しさを持つ男がドアの隙間からこちらを見ている。
「……キバナ」
ぽかりと口を開けて見惚れているとクスクスと笑いながらキバナが近づいてくる。
「どうしたのダーリン、キバナに見惚れちゃった?」
そういってベッドを軋ませキバナがダンデの腰の上に跨がりダンデの頬に手を滑らせる。
「…………君は美しい男だな」
そうダンデがポツリと呟けば、一瞬ぽかんとした後瞼をふせまたクスクスと笑いダンデの額に唇を落とした。
柔らかな感触が離れ、キバナの唇が
「ダンデのためのキバナだからな。美しいにきまってるだろ?」
と言葉を紡ぐ。
ダンデを見下ろすキバナの瞳はダンデをとらえて離さない碧の光を放っていて、ダンデの喉がゴクリと音をならした。
「そんなにお腹の空いた子供みたいな顔するなよダンデ」
そういってキバナが腰を揺らめかせれば、布団越しにごりっとした感触がキバナの臀部に触れる。
「お腹が空いたならさ……」
焦らすように吐息を漏らし夢の中と同じように
「満足するまで食べていいよ」
といい目を細めた。
その言葉が終わるか終わらないか……ダンデは
力一杯キバナを抱き寄せ噛みつくようにキスをしたのだった。