無題「穹」
穹の名を呼びながら、頬を撫でてくれる大きな手に擦り寄れば、その目が細められた。
愛おしくて堪らないというような、愛をたっぷりと含んだその柔らかい微笑みが、穹は大好きだった。
「景元」
穹がそう名を呼べば、景元は手を広げ抱きしめてくれた。その温もりがじんわりと伝わってくるのが心地好くて、口元を緩めながらそっと目を閉じる。
心から、幸せだった。
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「……ッ……う、……おい、穹。」
自分の名を呼ぶ誰かの低い声と共に、身体を揺すられて意識が浮上する。目を開けば、視界いっぱいに丹恒の顔がうつった。
「う……たん、こ……?」
「もう昼になる。いい加減起きろ。」
「う、う……ん……」
「全く。起きたなら顔を洗ってラウンジに来い。……二度寝するなよ。」
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