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    奈良音花

    @naraotoka

    本業は声優。SO2のオリジナル版発売時は中学生でした。
    当時からアシュレナが好きで、アシュレナを愛して一生推していく予定。
    朗読付のアシュレナ小説を出すため、日々精進のためにここを使わせていただきます!

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    奈良音花

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    第88回 お題キャラクター「レオン・D・S・ゲーステ」 
    お絵描きではなく小説ですが、クロード達と出会う前のレオン君の小説を書きました。

    #小説
    novel
    #so2
    #SO2R
    #スターオーシャン真剣お絵描き60分一本勝負

    奇襲夕闇が訪れる中、ラクール城の深部には、さざめく声や紋章の音が絶え間なく響いていた。その一室には、鉱石が焦げるような甘く痺れるような匂いと、金属が滑り合う繊細な音が充満していた。紋章術が照らす不自然に眩しい光が、部屋の中央に配置された機械と図面に影を投げかけている。

    「レオン博士、調査隊より戻った者たちが、これを持参いたしました」

    言葉を交わすのは、中年の兵士。彼の手には、謎の辞典のような分厚い書物が存在していた。

    「そこにおいてくれ、ベルモンド」

    応えるは、繊細な手元で設計図を持つ、見るからに幼さを感じさせる少年。その名はレオン・D・S・ゲーステ。歳はわずか十二。しかしその知識と技術は、城内で彼を博士と尊称する者たちに認められていた。
    彼の得意とするのは、兵器の出力に関する高度な計算。
    今も、その才能を駆使して、次なる発明のために設計図と心を通わせているのであった。

    ベルモンドという名の兵士が持ち寄ったそれは、
    薄汚れた革の表紙に黒い宝石が彫り込まれている、古代の魔法書の趣が漂っていた。

    レオンは、設計図の上でつぶやきながら細かい計算を続けていたが、この難解な問題に頭を悩ませる間もなく、疲労がその肩にのしかかってきた。一時的に計算から解放されたいという感情が彼を捉え、
    ふとした動きで設計図から手を離し、ゆっくりと肩を円を描くように動かす。首を軽く左右に傾け、
    細い肩甲骨の音が静かな部屋に響く。
    息を大きく吸い、ゆったりとため息をつきながら、ベルモンドが差し出した魔法書に目を落とす。

    レオンの目は、鋭く書物のページを追いかける。
    彼は、瞬きの間の短時間で情報を完璧に吸収することができるため、
    豊富な知識を持つ彼にとって、一般的な読書速度とは次元の違うものだった。

    「なるほど。650年前の剣聖を封じ込めたものか。これは使えそうだな。」

    その声は、古びたページの匂いと共に宙に舞った。彼はそっと魔導書を閉じ、清らかな白い用紙と、
    輝くような万年筆を手に取る。そして、細やかな手つきで、新たな呪文の序章を綴り始めるのだった。

    ―遥かなる光栄に輝く英雄よ、封ずる剣聖の魂よ。深き眠りから醒め、我にその力を寄せたまえ。
    空に舞い踊る邪悪なる者、君の剣により、一刀のもとに断たれんことを―

    「よし、出来た」

    レオンの声は、部屋中にはっきりと響き渡り、右手に持った紙に綴られた呪文の文字と、
    左手の指先で描かれる紋章術のシンボルが、一体となりながら、紙の上に命を宿していく。


    言葉が口を離れるたびに、部屋の中には神聖な力が充満していくような空気が流れ始める。
    そして、同じ呪文を三度、確かに繰り返す彼。しかし、四度目の開始と共に、
    部屋の中心に安置されていた古の魔導書が、ターコイズブルーの明滅するような輝きを放つ。

    輝きが部屋を照らす中、魔導書の表紙がゆっくりと開かれ、ページが静かな音を立てて、
    まるで風に舞うようにめくれ始める。それは、レオンの声の魔力に呼応して、
    新たな奇跡を示唆するかのようであった。

    「出でよ、剣聖アーサー!」

    レオンの声は、部屋全体を包み込むように響きわたった。魔導書のページが輝き始め、
    古の鎧を纏った堂々たる大男が、静かなる紙の海から浮かび上がり、上半身を見せる。
    彼の眼差しは遥かな時を超えた者のもので、荘厳でありながらも慈しみに満ちていた。

    「そなたが私を現世に呼び戻したのか。」

    「そうだよ。目覚めたばかりで悪いんだけどさ、契約を交わさせてもらったんだ。
    歴史によれば、君は空からの奇襲に特化していたんだってね。
    我が軍の兵士は、上空からの襲撃が弱点なんだ。君にはその力を貸してもらいたいんだよ。」

    「心得た。」
    アーサーの言葉はシンプルでありながら、その決意と誠実さを感じさせた。
    彼はゆっくりと本の中へと消えていった。レオンが紡ぎ出した呪文は、この剣聖アーサーを呼び寄せ、
    自由に彼の剣の力を借りることができる魔法であった。

    レオンは満足気に小さな旋律を口ずさみながら、再び先ほどの計算に戻ったのだった。
    しかし、その静寂は長く続かず、重々しい足音と共に別の兵士が研究室に姿を現す。

    「レオン博士、失礼いたします。前線基地より、武器や物資の状況が厳しいとの報告が入りました。ここ最近の武器の消耗と成果のバランスが取れていないようでして、博士なりのご意見と対策を伺わせていただけますか?」

    「そんなの決まってるじゃない。弱すぎるんだよ。」レオンの言葉は鋭く、研究室の空気を一変させた。
    彼はわずかに鼻を鳴らすと、その冷徹な目線を兵士に向けた。対面する兵士は、その言葉の前に一瞬たじろぐ。

    兵士が言葉を返そうとする前に、レオンは契約が終わったばかりの魔導書を差し出した。
    「どうせ、奇襲攻撃でやられちゃってるんだろ?この本を使えば、奇襲の弱点を補える。持っていけ。」

    兵士の驚きや言い返す隙も与えず、レオンは再び自身の作業に没頭する。
    言葉の隙間に、短い会話の終焉と兵士の逡巡が光る。

    残された兵士は、瞬く間にレオンの鋭利な分析と指示に圧倒された感覚に戸惑いつつも、
    敬礼を一つし、重い足取りで部屋を後にした。

    「やっぱり、思った通りだったね。」
    レオンは独り言のようにつぶやいた。彼はわが軍の弱点や対策について、早くから見抜いていたのだろう。
    その事実が現実として確定した今、彼は自らの先見の明を、ひとしずくの誇りとして胸に秘めていた。

    「でも、ひと月もしたら、またやられるんだろうな。」
    レオンの独り言は研究室の中に溶け込むように静かに響いた。
    戦の繁転、策略の応酬。この広大なる戦場は、知恵の応酬であるが故、息もつかせぬ連鎖を繰り返す。

    彼の若き才覚は、数多の戦果へと繋がっていた。
    しかし、その裏には、彼が手を加えた武器によって失われた無数の生命の影が潜んでいた。
    その矛盾が彼の心を揺さぶり、内なる苦悩となっていた。

    ひと月の時は、確実にその予想を証明するものとして訪れた。
    レイモンドという名の兵士が戦死。
    彼はレオンに与えられた魔導書を携えて、最前線で奮闘した結果だった。
    その一報に、レオンの心は痛みで鈍く響いた。

    「やっぱり、思った通りだったね。せっかくの優れた武器も、持ち主の力量によっては...」
    彼の声は、涙をこらえるのに必死で、途中で途切れてしまった。

    そしてレイモンドの遺品が、彼の研究室へと届けられた。
    その表紙には、鮮血の跡と戦の痕が深く刻まれ、無慈悲な戦争の現実を彼に突き付けた。
    静寂に包まれた部屋の中、レオンの涙が、深い自己反省の証として静かに流れた。

    「奇襲に弱い未熟者は、僕か…」
    心の内の自省と共に、その言葉が研究室の隅々に広がった。
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