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    k_ikemori

    遙か7メインで過去作ポイポーイ。

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    k_ikemori

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    過去作_遙か3/景望・オリキャラ(娘)がいます。氷原聞いて『景時を幸せにしてやんぜー!』という、勢いに任せて書いた。と、当時のあとがきに書いてあった…

    ##遙か3

    花かんむり


    こんな幸せがあるなんて思いもしなかった。


    風が優しく頬を撫で、包み込むように降り注ぐ太陽の光を浴びながら景時は緑の匂いのする空気を胸一杯に吸い込んだ。
    景時はぼんやりと開け、葉の隙間から差し込んでくる太陽の光の眩しさを遮るように手をかざした。
    そしてふと近くにあるはずの気配がない事に気づき、ゆっくりと首を巡らせば少し先に身を屈めて何かをしていて、その姿を捉えた事に安堵して再び目を閉じ、光を遮っていた手を下した。
    彼女と――望美と出逢う前は思い描く事もしなかった幸せが今この掌の中にある。その幸せは全て望美が運んできてくれたものだ。
    望美がいなければ願う事も、手に入れる事も、立ち向かう事すらしなかった。情けない所も沢山見せた男の隣に居てくれる。それすらも受け入れてくれた上、桜色の唇が「好き」と結んだ時は眩暈がしそうなほど幸せだと感じた。
    平家との戦が終わり、幾度もの季節が流れた。
    望美と初めて出会い、色々な花々が咲き誇る春。
    先ほどから微かに鼻腔をくすぐる花の匂いを感じて頬を緩めた。


    その時慌ただしく近づいてくる小さな足音に不思議に思い目を開けたのと、小さな影が眼前に降りてきたのはほぼ同時だった。
    「とうさまっ」
    「わっ、どうしたの?そんなに慌てて」
    クスクスと笑いながら起き上り、乱れた髪を整えながら景時が問い掛けるとちょうど景時の視線の先にある大きな目を光らせて両手いっぱいに握った花々を景時の目の前に突きつけて口を開いた。
    「花かんむりを作って下さい」
    「え、花冠?…なんでまた」
    話の行方が分からず聞き返すと、小さな唇を尖らせて景時の機嫌を探るように口を開いた。
    「…かあさまが、とうさまは花かんむり作るの上手よ、って自慢してて…。かあさまには作ってあげてるのにわたしには…」
    「母様だけズルイ!って怒られちゃったからじゃあ父様に作ってもらおうか、って事になっちゃって…」
    モジモジと告げなかった言葉を後から来た望美がサラリと掬うように継いだ。
    「ああ、そういう事か」
    「わたしも花かんむりを作りたいです」
    おずおずと告げられた言葉を受け、景時が望美へと笑いかけると望美は摘んできた花を景時の前に置いた。
    「お願いします、景時さん。この子、一度言い出すと聞かなくって…」
    「だね、そういうところは望美ちゃんに似てるね~。さ、ここに座ってごらん」
    望美が言い返そうと口を開くが、間に入り込んだ小さな影に遮られる。しかし、小さな影は指し示された場所に座る事に戸惑ったのか少し躊躇った後、ちょこんと景時のすぐ横に腰を下した。
    「コラ。そこじゃ分かりにくいでしょ?こっちおいで」
    小さい身体を易々と持ち上げると景時は胡坐をかいた足の上に小さな体を乗せた。
    「じゃあ、よろしくお願いします。私もう少しお花摘んできますね」
    「あれ~?望美ちゃんも一緒にやらないの?」
    その言葉に望美はジトリと景時を睨みつけると唇を尖らせた。
    「…こういうの苦手だって景時さん知ってるくせに。じゃあ、父様によく教えてもらいなさい」
    その場所に戸惑っているのか居心地悪そうにしていたけれど、望美が頭を撫でる仕種と景時の優しい声を聞いて落ち着いたのか少し照れ臭そうにはにかんだ。

     


    二人して望美の後姿を見送ると景時は花を手に一つ一つ丁寧に教えていく。
    手つきはたどたどしいけれど決して不器用ではない。…この辺りは望美には似なかったようだ。
    望美が聞けば何が飛んでくるか分からない言葉を胸の中で呟く。
    景時も一緒に花冠を作りながら真剣な眼差しで編んでいく小さな手を眺めて目元を緩めた。
    「あ、そこはそうじゃないよ。…こう、して…こうやるんだよ」
    「え、と…。こう…ですか?」
    景時が編み上げる花冠を見ながら同じ手順で小さな手が花冠を編んでいく。
    「うん、そうそう~。上手い上手い~。母様より…」

    「私より…何なんですか?」

    景時が固まりぎこちなく視線を上げると望美の笑顔とぶつかった。その笑顔が怖い。
    「え…あっ、いや、その…ね。あ、あはははははっ」
    ごめんなさい、とうなだれる景時を余所に望美はだいぶ花冠らしくなってきた小さな掌の中のものを覗き込んだ。
    「…う、ホントに私より上手」
    そのセリフに気分を良くしたのか頬を緩め俄然やる気を出した娘を見て花を摘んできた望美はほとほと感心した。
    (景時さんってホント教えるの上手いよね。先生とか天職なんじゃ……)
    望美の視線を感じたのか顔を上げた景時と目が合って微笑まれた。
    出逢った頃から変わる事のない笑顔に望美は未だに頬を上気させてしまう。照れ隠しのように顔をそむけて再び花を摘みに行った。


    見えなくても耳が赤くなっているのが分かる。
    あの戦を経て二人で掴み取った幸せ。子供にも恵まれ、たまの休みにはこうやって遠出してゆっくり過ごす事が出来るのも全てあの人が、景時が自分の力で掴み取ったものだ。きっと、何処かで諦めていたら掴み取れなかった幸せ。それは望美にしても同じようなものだ。
    二人して掴めたもの。 ――二人だから掴めたもの。

    幸せすぎて眩暈がする。



    望美は摘み取った花へと視線を落とした。そして何となく花冠を作ってみようかな…などと編み始めようとした時に後ろから元気な声が掛かった。
    「かあさまー!出来たよー!」
    その声に吃驚して慌てて立ち上がった。
    「あ、えっ。ホントー?母様にも見せてー!」
    望美は立ち上がると駆け寄ってくる小さな体を抱き止めた。
    その小さな手には多少歪でも綺麗に仕上がった花冠が握られていた。
    「ほんと、上手に出来たね~。」
    照れ臭そうに頬を緩ませて望美へと花冠を掲げた。望美は訳が分からぬまま花冠を受け取り首を傾げた。
    「母様にくれるの?いいの?父様の分もないと父様拗ねちゃうよ?」
    「とうさまのはこれから作るからいいの。…とうさまが、この世界が平和なのはかあさまがいたおかげだから一番さいしょに作ったのはかあさまに上げておいでって。」
    思いがけぬ言葉に望美は目を見開きゆっくりと娘を見、そしてゆっくりと景時へと視線を移した。葉の間から差し込む光が景時の顔を映し出す。望美は深く息を吸うと小さな我が子の頭をよしよしと撫でて、小さな手を引くと景時が座る場所まで歩き始めた。



      

    まだ高い位置にある太陽が濡れ縁に降り注ぐ。
    その中で望美は庭を眺めながらぼんやりとしていた。
    「寝かせてきたよ~。よほど疲れてたのかすぐ寝付いたよ~」
    景時はゆっくりとした足取りで望美の傍にまで歩み寄るとすぐ横に腰を下した。
    「ありがとうございます。沢山作ってましたもんね」
    「うん、最後の方なんかビックリするほど綺麗に出来てたもんね~」
    そう言って宝物を自慢する様に笑い合うと望美は景時の肩に寄り添うように頭を擦り寄せた。景時はそれを厭う事無く愛しそうに腕を回すと緩やかな力で望美を抱きしめた。
    望美はその逞しい腕に手を添えるとポツリと呟くように口を開いた。
    「あの子が一番最初にくれた花冠…」
    「…うん?」
    「その時、景時さんが言った言葉そっくりそのまま返しますよ」
    景時は急かさず、望美が語り出すのを待つように望美の匂いを探るように望美の頭に鼻を埋めた。
    「景時さんがいなければ私は頑張れなかった。景時さんがいたから頑張れたんだよ…」
    思わぬ告白に景時は息を詰めた。
    時折、感じていた劣等感。それを見抜かれたような気がして呼吸が出来なかった。
    「だから私だけの力じゃなくて…」
    「うん、分かった。ありがとう…望美ちゃん」
    望美の言葉を遮るように景時は腕に力を込めて華奢な望美を抱きしめた。
    「ありがとう…」

     
    ああ、幸せすぎて眩暈がする。
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    k_ikemori

    DONE天文台で毎夜星を眺めてる長政さん超エモいなと思って荒ぶったけど自分で書くとそうでもないなと冷静になった…この冬の時期に七緒が出勤して初めに行うことは、分厚い上着を掴み取る事から始まる。
    裏口から入るのでそこからは望遠鏡が置いている部屋と、望遠鏡の前に陣取る人影がきっといるのだろうが、生憎とここからは見えない。
    小部屋にはそれほど大きくはない机と仮眠が出来るようベッドが置いてあり、部屋の隅にミニキッチンが付いている。凍えそうな夜はそこでコーヒーかホットココアを入れて寒空の下、それを飲みながら観測する事が至福のひと時である。
    小部屋に入って、壁に掛けてある上着が自分の物とは別にもう一つ残っていることに気付いて七緒はキュッと柳眉を寄せた。
    「…もう」
    手早く自分の上着を着込み、もう一つの上着を腕に抱くと七緒は小部屋を後にした。
    ある程度厚着をしているだろうが、分厚い防寒着があると無しでは雲泥の差だと七緒は思っている。
    小部屋のドアを閉めるとシンと静まりかえったこの場所によく響く。
    七緒が出勤した際にドアを開け閉めした音に気付かぬ人ではないのだが、放っておくと明るくなるまで望遠鏡の下から動かないような人だということを思い出す。
    ゆっくりと望遠鏡の下まで辿り着き、七緒が傍まで来たのに微動だにしない 3117

    k_ikemori

    MOURNING2015年に書き始めて放置してた景望ログを見つけました。タイトルは「まつり」ってあるのでたぶんこれから一緒にお祭りに行きましょうという話にしたかったハズ…。お祭りすら始まっていなかった…。供養供養。書簡を届けに行く道すがら、景時は馬の背から空を仰ぎ見る。
    澄んだ青空に幾つか雲が浮かび、夏らしい強い日差しが地上を照らし付ける。
    「いい天気だなぁ…」
    そう呟き、景時は暫くぶりにある休みを早々に奪取する為、馬の腹を軽く蹴って駆け出した。

    「朔ー? 朔ぅ?」
    彼女たちに宛がわれている部屋へ赴き、ひょいと覗き込む。
    連日動き回っている神子はいないだろうとあたりを付けてはきたが、妹である朔の姿がそこに無く、景時ははてと首を傾げた。
    「どこ行っちゃったのかなぁ…」
    けれど、館の外には出て行ってないようで先程まで裁縫でもしていたのか、しっかり者の妹にしては珍しく片付けもせずそのまま放置されていた。
    その時パタパタと軽やかな足音と共に咎める声が掛かる。
    「兄上! 女人の部屋を勝手に覗くなど、恥ずかしい事なさらないで下さいまし」
    「ああっ、ごめんごめん。朔いるかなぁって思ったし、戸も開いていたし…」
    妹の厳しい物言いに景時は肩を落とす。
    「もし着替えている途中だったらどうするのです」
    「いや、もう陽も高いしそれもないかなぁ…って」
    「例え話です」
    「ア、…ハイ。すみません」
    朔は大きく溜息を零すと 6990

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    「いい天気だなぁ…」
    そう呟き、景時は暫くぶりにある休みを早々に奪取する為、馬の腹を軽く蹴って駆け出した。

    「朔ー? 朔ぅ?」
    彼女たちに宛がわれている部屋へ赴き、ひょいと覗き込む。
    連日動き回っている神子はいないだろうとあたりを付けてはきたが、妹である朔の姿がそこに無く、景時ははてと首を傾げた。
    「どこ行っちゃったのかなぁ…」
    けれど、館の外には出て行ってないようで先程まで裁縫でもしていたのか、しっかり者の妹にしては珍しく片付けもせずそのまま放置されていた。
    その時パタパタと軽やかな足音と共に咎める声が掛かる。
    「兄上! 女人の部屋を勝手に覗くなど、恥ずかしい事なさらないで下さいまし」
    「ああっ、ごめんごめん。朔いるかなぁって思ったし、戸も開いていたし…」
    妹の厳しい物言いに景時は肩を落とす。
    「もし着替えている途中だったらどうするのです」
    「いや、もう陽も高いしそれもないかなぁ…って」
    「例え話です」
    「ア、…ハイ。すみません」
    朔は大きく溜息を零すと 6990