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    k_ikemori

    遙か7メインで過去作ポイポーイ。

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    2015年に書き始めて放置してた景望ログを見つけました。タイトルは「まつり」ってあるのでたぶんこれから一緒にお祭りに行きましょうという話にしたかったハズ…。お祭りすら始まっていなかった…。供養供養。

    ##遙か3

    書簡を届けに行く道すがら、景時は馬の背から空を仰ぎ見る。
    澄んだ青空に幾つか雲が浮かび、夏らしい強い日差しが地上を照らし付ける。
    「いい天気だなぁ…」
    そう呟き、景時は暫くぶりにある休みを早々に奪取する為、馬の腹を軽く蹴って駆け出した。

    「朔ー? 朔ぅ?」
    彼女たちに宛がわれている部屋へ赴き、ひょいと覗き込む。
    連日動き回っている神子はいないだろうとあたりを付けてはきたが、妹である朔の姿がそこに無く、景時ははてと首を傾げた。
    「どこ行っちゃったのかなぁ…」
    けれど、館の外には出て行ってないようで先程まで裁縫でもしていたのか、しっかり者の妹にしては珍しく片付けもせずそのまま放置されていた。
    その時パタパタと軽やかな足音と共に咎める声が掛かる。
    「兄上! 女人の部屋を勝手に覗くなど、恥ずかしい事なさらないで下さいまし」
    「ああっ、ごめんごめん。朔いるかなぁって思ったし、戸も開いていたし…」
    妹の厳しい物言いに景時は肩を落とす。
    「もし着替えている途中だったらどうするのです」
    「いや、もう陽も高いしそれもないかなぁ…って」
    「例え話です」
    「ア、…ハイ。すみません」
    朔は大きく溜息を零すと、話題を変える。
    「それで、どうしたのです。何か御用ですか?」
    「えーっと、用って程じゃないけど、顔を見に来たんだよ。最近何故か九郎にいっぱい仕事回されちゃってねぇ。久しぶりの休みだし、朔たちの顔もここ最近見ていなかったなぁって、思って」
    そう、ここ最近やたらと九郎と弁慶から仕事が回ってくる。
    それは休む暇もないほどで、初めのうちは文句の一つでも言ってたりはしたが、増える事はあれど一向に減らず、今ではもう諦めて持って来られた仕事を全うするのみとなっていた。
    「望美なら市に買い物へ出ております」
    「え、一人で?」
    いくらこの町が平穏だとしても女人一人で出かける事は危うい。その意図を汲み取ったのか朔は僅かに微笑む。
    「まさか。白龍と一緒ですよ」
    「あ、そう」
    その答えに安堵したような、僅かに落胆したような織り交ぜになった気持ちが渦巻く。
    久しぶりにある休みではあったが、いつ取れるのかすら定かではなく約束を取り付ける様な時間も取れなかったから仕方がないと景時は頬を掻きながら短く溜息を零した。
    「何か伝言がおありですか?あるようでしたらわたしから望美に伝えますが」
    「あ~、大丈夫、何もないよ~。ほんと、顔見に来ただけだから」
    「…そうですか。それなら構いませんが」
    何か言いたげな朔の視線を受けながら景時は手を振って踵を返す。
    「じゃあ、何かあるようなら言ってね」
    自室へと帰り、腰を下ろすと気が抜けたように景時は睡魔に襲われた。
    ここ最近の寝不足と身体の疲労が極限に達していたからだろう。
    この短い休みが終わればまた忙殺されるのだろう。短い休みだったがどうせなら彼女の顔を見たかったと霞みかかる思考を最後に景時の意識は途絶えた。

    そよそよと風が頬を撫で、照りつける太陽はギラギラとしているのに不思議と暑くは無い。
    景時は漠然と、夢か、と思い至る。
    だって、彼女が目の前にいる。
    それほどまでに彼女を一目見たかったのか、と自嘲気味に笑った。
    願望とは恐ろしい。
    欲を言えば彼女の声が聞きたかったが、そこはやはり夢。彼女が何か問い掛けてくれてはいるが声は届かない。凛とした声が好きなのに残念だ。
    彼女が首を傾げたと同時に長い髪が流れて顔に影を落とす。
    景時はゆっくりと手を伸ばし、頬に手を掛けた。手のひらに吸い付くような柔らかさにくらりと眩暈が起きそうだ。
    夢だからと、普段ならしない事が出来る。こんな風に彼女に触れることなど常であればしない筈だ。
    「……出来れば、夢じゃなくて現で君に会いたかったなぁ」
    己の声は彼女には聞こえているのか、目が見開かれ、次いで泣きそうな顔で微笑まれた。
    本当に夢は不公平だ。どうせなら悲しい顔より笑顔の方が見たいのに。
    彼女が何か言ってくれているのに景時の耳には届かない。
    それでも。
    夢であったとしても彼女の顔が見れた事に景時は渦巻いていた心が凪ぐ。
    そして再び景時は霞みかかっていく思考に抗う事はせず、名残惜しそうに最後に彼女の頬を撫でて深淵へと落ちて行く。
    その途中、影が差したように一瞬暗くなり柔らかな感触を感じた。

    景時はぱかりと目を開く。
    「あ~、やっちゃった…」
    天中にあった太陽はもうだいぶ西へ傾いており、折角の休みだと言うのに寝て過ごしてしまったと頭を抱えた。
    いくら休みだとしても、やる事は山の様にある。
    座ったまま寝ていたせいか身体の節々が悲鳴を上げた。それを解す様に景時は身体を伸ばす。
    眠気を払う様に景時は目を擦る。
    そういえばと、景時はふと寝ていた時に見た夢を思い出す。
    夢だからとなかなか大胆な事をしてしまったと緩んだ頬を解しながら景時は人を呼び茶を入れてきてもらうよう言付けると雑務を片付ける為、文机に向かった。

    「お館様、夕餉のご準備整いましたが如何なさいますか」
    日も陰りそろそろ灯りでも必要になって来た頃、見計らったかのように灯と共にやって来た下女が声を掛けてきた。
    「あれ、もうそんな時間か」
    景時は筆を置き目を瞬かせる。
    「食べるよ。今から向かうから用意を頼む」
    「畏まりました」
    そう言うと部屋に灯りをともし、下女は楚々と下がって行った。
    東の空には月も出てきており、今晩は夕餉の後に酒でも貰って月見酒でもしようかと一人ごちながら景時は濡縁を歩く。
    そうして広間へと辿り着いた景時はそこにいた人物に僅かに身体を堅くさせた。
    「あ、景時さん。お先に頂いてます」
    そう言って望美は景時へと笑いかける。
    昼間あんな自分に都合のいい夢を見てしまった負い目から少し気まずいが、己を偽る事には慣れた物で景時は同じ様に笑って見せる。
    「うん、いいよ~。それにしてもなんか久しぶりに望美ちゃんの顔見た感じだよ~」
    「ずっと景時さん忙しそうでしたもんね」
    膳の前に座り景時は手を合わせて、汁物を啜って一息付く。
    「そうなんだよ~。九郎も弁慶もほんと容赦なく仕事寄越してきてさ…」
    明日からまた扱き使われるのかと思うと、このまま夜が明けなければいいのにと思えてならない。
    「そんな事で音を上げるとは情けない」
    いつも通り朔から厳しい声が掛かる。
    「ふふっ、それは九郎さんたちが景時さんを信頼しているって事ですよ」
    「あはは~」
    誤魔化す様に笑う。後ろ暗い事がある身としてはそれは心に刺さる言葉だ。
    「あ、信じてませんね。まあ、いいですけど。……景時さんの自己評価が低いのは今に始まった事ではありませんし」
    最後の方はもごもごと独り言のように咀嚼するよう呟いたので景時には聞き取れなかったが景時にとってあまりいい評価ではない事は確かだったので深く追求する事は辞めた。
    「望美、この後はまたあの続きでいいのかしら」
    「あっ、うん。あれ、朔もう食べちゃったの?」
    「あなたたちが話している間に頂きました」
    急がなくていいという朔の言葉を遮り、望美は残りの膳を急いで空けて行く。
    「ごちそうさまでした! あ、譲くんあとでお茶取りに来るから」
    「わかりました。先輩もあまり根を詰めすぎないで下さいよ」
    譲の言葉にひらりと手を振ってその場を後にした彼女たちは先に自室へと戻り静かになった広間で景時は膳を片付けている譲へと声を掛けた。
    「…譲くん、望美ちゃんたちはなにかしているの?」
    単純な疑問だった。
    そう問いかけたら譲に睨まれて、虎の尻尾を踏みつけた気持ちになった。
    「…そうです。何をしているか知ってますが景時さんには教えません」
    そう言って膳を下げるからと譲もその場を辞した。
    景時は呆気に取られ譲が出て行った戸を見つめながら、のんびりと食事している龍神へと疑問を込めた視線を送る。
    「景時ごめんね。私も神子に口止めされているの。だから内緒」
    にっこり笑って拒絶され、景時は頭に疑問符を並べながら膳を口へと運んだ。
    食事を済ませ自室に戻って来た景時は、帰り際に貰って来た酒を煽りながら仕事には手を付けずぼんやりと月と僅かに流れる雲を眺めていた。
    時折頬を撫でる風が気持ちいい。
    疎外感を感じて淋しいなんて子供の感情だと景時は溜息を零して酒を煽る。
    「…いい歳した大人なんだけどなぁ」
    かと言って皆が知っている事をみっともなく追求する様な真似は景時には出来ない。
    「はあ…」
    溜息ばかりが零れ、いつもは美味しく感じる酒もあまり進まない。
    「……寝よう。明日からも仕事山積みだろうし」
    そうしよう、と景時はこの気持ちに蓋をするように床へとついた。


    案の定、翌日からも忙殺の日々を送る事になる。
    頼まれた書簡を届ける為、厩に繋いである磨墨の元へと重い足取りでむかう。
    「磨墨暑いのにごめんね」
    首を撫でれば前置きはいいから早くしろとばかりに磨墨は嘶く。
    その仕草に景時は苦笑して磨墨に跨り、心地よく刻む磨墨の馬蹄の音を聞きながら目的の屋敷へと急いだ。
    磨墨が早く駆けてくれたおかげで思ったより早く書簡を届け終わった景時は帰りの道はゆっくりと帰る事にした。
    思い起こせば五日前に休みを貰って以降休みらしい休みがない。
    そろそろ息抜きも必要だと一人で自問自答し、景時は茶屋が集まる一角へ向かう。
    通りに出て、磨墨の手綱を引きながらどの茶屋にしようかと首を巡らせていると、グッと磨墨が手綱ごと景時の手を引く。
    「わっ、どうしたの磨墨。ちょ、勝手に行かないで」
    御しようと思い手綱を引くが、相手は己の倍以上ある体格の為そう上手くはいかない。馬上にいたのであればもう少し御しやすかったのかもしれないが生憎と降りてしまった後だ。
    通り過ぎる茶屋を横目に見ながら景時は磨墨に不平を漏らす。
    平時より多い人の波を磨墨は器用に進んでいく。
    「あぁ~、お茶とお団子がぁ~おまんじゅうぅぅ……もう、磨墨どこにいきたいのさー」
    馬耳東風とはこの事でいくら磨墨に文句を言った所で聞き届けてはくれない。
    「……はぁ…もうそっちの方に茶屋は…」
    景時は諦めて磨墨が気の向くまま歩を進め、とある建屋の前でぴたりと磨墨は足を止めた。
    景時は溜息を零して通り過ぎた茶屋を懐かしみながら、その建屋の店先へと視線をやればこの時代にしては裾の丈が短く珍しい服装の女人がちょうど出てきた所で、景時はおやと目を丸くした。
    「あれ、望美ちゃん?」
    「…え、わっ!景時さん?! え、なんで、こんな所に」
    脇に抱えた包みを抱き込む様に望美は足を止める。
    「オレ?オレは書簡を届けに行った帰りだよ~」
    望美ちゃんは、と尋ねればバツが悪そうに視線を巡らせた後に微かな声で「買物です」と呟いた。
    「買物?ひとりで?」
    いつもは誰かと出かける様にしているのに館からそう遠くは無いとはいえ女人一人で出かけるなんて不用心にも程があると、景時は先ほどとは違った意味で溜息を零す。
    「それで、買物は終わったの?」
    「あ、はい。お願いしてた物を受け取りに来ただけですから」
    「…そう」
    この店は男物の品を色々と扱っている店だよねぇ、と暖簾で見えにくい店の中へ視線を投げ掛ければ「あのっ」と景時の思考を遮る様に望美が声を上げる。
    「景時さん、よければお茶しませんか」
    にっこりと笑う望美に景時もまた頬を緩めて笑う。
    「いいよ~。ちょうどオレも休もうとしてた所だったんだよ」
    磨墨に邪魔されたけど、と心の中で付け加える。
    それに望美が話題を変えたと言う事は、普段は立ち入らないような店に足を運んだ事はあまり聞かれたくない事なのだろう。
    そして二人して景時が今し方通って来た通りを歩く。
    今度は磨墨は大人しくしてくれて、先程のは一体何だったんだと非難の目を向けるが磨墨はフンと息を吐くだけで可愛げのない事この上ない。
    「景時さんこの茶屋でいいですか」
    不意に声を掛けられ景時は望美が指差す茶屋へ目をやって微笑む。
    「うん。じゃあ、オレは磨墨繋いで来るから望美ちゃん先に頼んでてよ~」
    少し通りから外れのとこにあるこの茶屋は旅の者が立ち寄ってもいい様に裏に廓が設けられていた。この茶屋を選んだ望美の気遣いに景時は自然に頬を緩めた。
    磨墨の世話を頼むと景時は店の中へと滑りこむ。
    景時が言ったように望美は先に注文を済ませていたようで望美の傍に茶と団子が鎮座していた。けれど、口すら付けておらず景時は目を見張る。
    「先に食べてて良かったのに…」
    折角の茶もぬるくなってしまう。
    「流石にそこまではできません」
    申し訳なさそうに笑う望美に景時は何とも言えない気持ちになる。
    その気持ちは決して不の感情などではなく、言うなれば愛しさから来るものだと分かる。
    己にそんな事を想う様な資格などありはしなのに。
    「ふふっ、律義だなぁ」
    そう言って景時は店員に声を掛けて注文をする。暫く待てば湯気を立てる茶と茶菓子が運ばれてきた。
    「待っててくれてありがとう、望美ちゃん」
    さあ、食べようか、そう笑いかけて景時はぬるくなった望美の茶と、今し方運ばれてきた茶を入れ替える。
    その行動に望美が目を見開き手を伸ばす。
    「あっ、いいです、悪いです」
    「気にしないで、待たせちゃったお詫びに、ね」
    望美の言わんとすることは分かる。でもそれを言わせる訳にはいかない。
    「それに、さっきまで馬で駆けていたから喉が渇いているんだ。だから、すぐ飲めるそっちのほうがいいかなぁ」
    にっこりと、否と言えないようにと追い打ちを掛ける。
    優しい彼女の事だ。そう言えば、駄目だとは言えないだろう。我ながらずるいな、と自嘲気味に笑う。
    「…そういう、事でしたら」
    ほらね。
    渋々と言った態度ではあるが望美は淹れたての茶を口にする。景時もぬるくなった茶で喉を潤す。
    ほう、とようやく一心地ついた安堵から溜息が零れる。
    「はぁ、美味し」
    この後帰った所で仕事を回される事は目に見えているので腹に溜まるものをと思い景時は大ぶりのまんじゅうを頼み、望美は団子を頼んでいたようだ。
    あんこの甘さが身体に浸み渡っていくようだ。
    「やっぱり疲れた時は甘いものだよねぇ」
    まんじゅうを咀嚼しながら景時はしみじみと呟く。
    「…そんなに疲れてるんですか」
    望美はごくりと団子を飲み込んでから景時を覗き込むように尋ねる。
    「そう。もー、最近は特に九郎も弁慶も人使い荒すぎてねー」
    大げさに肩を落として溜息をつくと、望美は少しばつが悪そうに「…そうですか」と返してきた。その態度に多少引っかかるような気はしたが景時は特に気にするでもなくまんじゅうを齧りながら景時は店の前を行き交う人々を眺めはて、と首を傾げる。
    「そういえば、明日からお祭りだねぇ。流石に人が多いね」
    「賑やかになりそうですね」
    「そうだねぇ…。こりゃ警備も容易じゃないなぁ」
    それに頷きながら景時は先日から九郎たちとの議題に上っている警備体制を頭に巡らせながらまんじゅうを咀嚼する。
    「…楽しみだなぁ」
    その呟きに景時はごくりとまんじゅうを塊のまま思わず飲みこんだ。
    「っぐ…、え、望美ちゃん行くの、お祭り?」
    「え、はい。その予定です」
    さらりと笑った望美に対して景時は目を見開いて驚く。
    ――誰と
    と、口をついて出そうになった言葉を飲み込んで、いつものように笑って見せる。
    「そう、なんだ、人が多いだろうけど気を付けてね」
    その言葉で一瞬望美の表情が変わる。
    表情自体は変わっていない。表面上は微笑んでいるが、纏う空気が変わったとでも言おうか。人の機微をよく読む景時は常ならしない失態を犯してしまった事に気付き頭を抱えたくなった。
    「……そうですね。楽しみますよ」
    にっこりと笑った望美の瞳の奥は笑っていなくて景時は龍の逆鱗に触れたような気持ちに襲われたがそれも一瞬の事で、望美は温かいお茶を流し込むと先程の剣呑さが嘘の様になりを潜めていて景時は乾いた笑いを零した。
    (さすが、源氏の神子さまだなぁ…)
    幾度となく死線を潜って来た武士の様な雰囲気だった。
    実際の所、怨霊とは幾度となく戦ってはいるが己の命が掛かったような戦は数えるほどしか体験していない筈だけど。
    「さて、そろそろ帰りますね」
    ことりと湯呑みを置いて望美が立ち上がる。
    「あ、送るよ」
    「大丈夫ですよ。近いですし。…それに、景時さんお仕事中でしょう? 早く九郎さんに報告してきて下さい」
    是と言わざる負えない雰囲気を纏った望美に景時は消え入るような声で是と答えるしかなかった。

    磨墨に跨り茶屋を後にした景時は人の多い通りを避けて、報告を済ませる為に九郎たちが詰めている屋敷へと向かう。
    「ただいま、九郎~。頼まれた書簡届けて来たよー」
    「遅かったな」
    その言葉にどきりと胸が跳ねる。
    「あー、通りが思いの外人が多くてさぁ、遠回りして行ったからかなぁ」
    さすがに真面目を地で行くような九郎に疲れたので茶屋で休んでましたなどとは口が裂けても言えない。
    「それで、次は何をやったらいいのかな」
    「ああ、明日の警備体制の最終確認だ」
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    k_ikemori

    DONE天文台で毎夜星を眺めてる長政さん超エモいなと思って荒ぶったけど自分で書くとそうでもないなと冷静になった…この冬の時期に七緒が出勤して初めに行うことは、分厚い上着を掴み取る事から始まる。
    裏口から入るのでそこからは望遠鏡が置いている部屋と、望遠鏡の前に陣取る人影がきっといるのだろうが、生憎とここからは見えない。
    小部屋にはそれほど大きくはない机と仮眠が出来るようベッドが置いてあり、部屋の隅にミニキッチンが付いている。凍えそうな夜はそこでコーヒーかホットココアを入れて寒空の下、それを飲みながら観測する事が至福のひと時である。
    小部屋に入って、壁に掛けてある上着が自分の物とは別にもう一つ残っていることに気付いて七緒はキュッと柳眉を寄せた。
    「…もう」
    手早く自分の上着を着込み、もう一つの上着を腕に抱くと七緒は小部屋を後にした。
    ある程度厚着をしているだろうが、分厚い防寒着があると無しでは雲泥の差だと七緒は思っている。
    小部屋のドアを閉めるとシンと静まりかえったこの場所によく響く。
    七緒が出勤した際にドアを開け閉めした音に気付かぬ人ではないのだが、放っておくと明るくなるまで望遠鏡の下から動かないような人だということを思い出す。
    ゆっくりと望遠鏡の下まで辿り着き、七緒が傍まで来たのに微動だにしない 3117

    k_ikemori

    MOURNING2015年に書き始めて放置してた景望ログを見つけました。タイトルは「まつり」ってあるのでたぶんこれから一緒にお祭りに行きましょうという話にしたかったハズ…。お祭りすら始まっていなかった…。供養供養。書簡を届けに行く道すがら、景時は馬の背から空を仰ぎ見る。
    澄んだ青空に幾つか雲が浮かび、夏らしい強い日差しが地上を照らし付ける。
    「いい天気だなぁ…」
    そう呟き、景時は暫くぶりにある休みを早々に奪取する為、馬の腹を軽く蹴って駆け出した。

    「朔ー? 朔ぅ?」
    彼女たちに宛がわれている部屋へ赴き、ひょいと覗き込む。
    連日動き回っている神子はいないだろうとあたりを付けてはきたが、妹である朔の姿がそこに無く、景時ははてと首を傾げた。
    「どこ行っちゃったのかなぁ…」
    けれど、館の外には出て行ってないようで先程まで裁縫でもしていたのか、しっかり者の妹にしては珍しく片付けもせずそのまま放置されていた。
    その時パタパタと軽やかな足音と共に咎める声が掛かる。
    「兄上! 女人の部屋を勝手に覗くなど、恥ずかしい事なさらないで下さいまし」
    「ああっ、ごめんごめん。朔いるかなぁって思ったし、戸も開いていたし…」
    妹の厳しい物言いに景時は肩を落とす。
    「もし着替えている途中だったらどうするのです」
    「いや、もう陽も高いしそれもないかなぁ…って」
    「例え話です」
    「ア、…ハイ。すみません」
    朔は大きく溜息を零すと 6990

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