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    ntonto0101

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    ntonto0101

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    リオセスリと空くんがおはなししてる。
    ちょっとだけいちゃついてる、かも?
    私の思想強め

    #リオ空

    良い人悪い人 次の商品は――にしよう。この子は可愛いから高い値がつく。
     裏切り者、人間のクズ、悪魔。……許さない。
     何を言ってるんだ――。父さんの言うことを聞いてくれ。
     やめて――、お母さんが悪かった……だからもう許して。
     この年齢で養父母を――したなんて。
     でも同情の余地がある。相手は――だったんだぞ。
     『しっかり持っていなさい』
     はい、次の人。……あんたはもう行きなさい。
     みすぼらしいガキが、メロピデ要塞に一人で何の用だ?
     俺は神から一度も憐れみを受けたことがない。そしてこれからも。苦難に立ち向かうだけなら、そんなもの必要ない。
     あんただって罪人だろう!罪人なんて、全員くたばっちまえ!

    『――お兄ちゃん。』
    『――お兄ちゃんは悪い人になっちゃったの?』
     

     ふと目を開けると、そこは見慣れた天井だった。
    「リオセスリ、おはよう。」
    「……おはよう。」
     見慣れないことといえば普段ならソファーの肘置きに置かれているはずの頭が、金色の旅人の膝に置かれていることくらいだ。
     今日の予定には彼らがここを訪ねるというものはなかったが、彼らはいつも突然ここにやってくる。今日もきっと何かの思いつきでやってきたのだろう。
    「それで、どうしてここに?」
     体を起こして、正面に向き合う。リオセスリの頭が離れたからだろう、空は寒そうに太ももをスリスリとさすっていた。
    「今日は新人看守の任命式でしょ?ヌヴィレットから聞いたよ。それで暇だったから式を見るついでに、会いにきたってわけ。」
    「そしたら俺が寝ていたと?」
    「そう。」
     最近疲れていたからだろう、気がついた時には夢の中、そして見た夢は過去の記憶のに詰め合わせのようなものだ。うなされていたのか、何か寝言を呟いていたかもしれない。膝枕は彼なりの優しさだったんだろう。
    「そいつは悪いね。時間は……おっとそろそろ新人達がやってくる時間だ。机の上を片付けないとな。あんたはそこに座っていればいい。」
     執務室の机の上を一先ず片付ける。新人に散らかった机の上を見せるわけいかないからな。
     空はソファーにちょこんと座り、「どんな新人なんだろうね」とはしゃいでいた。

     ――――――――

     メロピデ要塞の新人看守の任命式は個別に行われる。新人看守達は、一人一人執務室に入り自己紹介と公爵からの激励を受けるのだ。
    「失礼します!」
    「どうぞ。」
     階段の下から元気の良い声が響く。しかし声はどこか震えていて、本人の緊張がとても伝わってきた。
     それもそのはず、今回配置された看守達のほとんどは教育プログラムを終えたばかりの新人達であり、メロピデ要塞とはおおよそ接点などない人間だからだ。ヌヴィレットがそう言っていたのを空はよく覚えていた。
     挨拶を返してから十数秒後、階段を登ってくる音が聞こえた。階段を見ると、背中に鉄の棒でも入っているのかと見紛うほど、緊張している若者がぎこちなく姿を見せた。
     彼はまるでロボットのように動きながら、リオセスリの前にたち、びっしりと敬礼をした。
    「公爵様!この度、メロピデ要塞に看守として配置されることになりました。フォンテーヌ地区南出身のポール•アダンです、よろしくお願いいたします!」
    「君はどうしてここに?」
    「はい!メロピデ要塞での勤務の場合、特別手当が支給されるからであります!足の悪い母の為にもモラが必要でしたので!」
    「そうか、それはいい。母親のためにもしっかり勤務するように。」
    「はい!ありがとうございます!」
     リオセスリの激励を受け少しほっとしたのか、彼はニカリと笑顔を見せたのち、軽い足取りで階段を下っていく。
    「はは、ヌヴィレットさんも随分素直なのを寄越したもんだ。」
     リオセスリはそういって優しく微笑んだ。
    「そうだね、緊張してて可愛かった!これぞ年度はじめの風物詩って感じ!」
     それから次々と新人看守達は挨拶を済ませ、その度にリオセスリは激励の言葉を飛ばし、いよいよ最後の一人の番がやってきた。
     その者は他の新人と比べ、大層落ち着いた様子だった。特に緊張している素振りもない。ただ一つ違和感をあげるとすれば、その目だった。
     リオセスリを見るその目は軽蔑するような、そんな冷たさが含まれていた。
    「ジェレミー•ゴティエ。ここに来た理由は、間違いを正す為です。」
     空はリオセスリの眉がピクリと微かに動いたのを見逃さなかった。
    「詳しく教えてもらおうか。」
    「ここにいる人間は、犯罪を犯した人間のクズばかりです。私はそんな彼らの根性を叩き直したいと思っています。皆が当たり前に法を守り、人を思いやる。大きな流れの中でも自分の意思を持ち、権力に屈せず正しいことを追い求める。そんな正しさを持つ“良い人”に変えたいのです。」
    「変える、ねぇ?具体的にどうやって変えるつもりなんだ?」
     深く掘り下げられるとは思っていなかったのだろう、ジェレミーは一瞬困ったような表情を浮かべる。しかしリオセスリを目の前に『クズを変える!』宣言をした以上、もう後には引けないと思ったのか、拳を強く握って大きく息を吸った。
    「まずは私が組織の上に立ちます。そうなった暁には、不正に手を染める看守、態度の悪い囚人の矯正を行います。今すぐには実現不可能ですが、私の覚悟は本物です!」
     めいいっぱいの大きな声で発言した彼は、ゼーゼーと息を荒げていた。
     対してリオセスリは、まるで執務室に入ってきたばかりのジェレミーのように、冷たい視線を彼に向けていた。
    「……なるほど。ジェレミー、君は正しい。なぜなら正しいことを言っているからだ。君みたいな人間がこの世に多く存在すれば、もっと世界はよくなるのかもしれないな。……でもそうなってない。当たり前だ、君みたいな人間は珍しいからな。君は間違いなく普通なんかじゃない。本当の普通の人間っていうのは、君が“クズ”と称した人間達のことを言う。」
    「大きな流れに身を任せ、自分の利益を中心に考え、他人が何か成果を上げるとそれに乗っかって、乗っかれなかった者はそれに対して『ずるだ』なんだと理由をつけて、何としてでも自分に損のないように振る舞おうとする。言葉だけ聞けば確かに悪い人だし、クズだと思う。でもこれが普通の人間なんだ。……人間は元々悪の心がある、君の心にもだ。誰の心にもいる。だから変えるなら人じゃなくて環境だと俺は思っている。」
     ジェレミーの眉間に皺がグッと寄る。そして納得していないような、悔しいような表情を見せた。
    「つまり……公爵様は私が間違っているとおっしゃるのですか?」
    「いや、そうは言ってないさ。ただ正しい人間ほど時に誤った正義に陥りやすい。それは常に意識しておくべきだ。このメロピデ要塞での勤務を終えた後も、君が正しくて“良い人”であることを祈っているよ。」

     ――――――――

    「結構厳しいことを言うんだねリオセスリ。」
     淹れたての紅茶を飲みながら、空はそう呟いた。
    「もっと優しく諭してあげるものかと。」
    「正義感に溢れた新人が来るのは珍しいことじゃない。たださっきも言ったが、俺は変わるべきは人間ではなく、環境だと思っている。」
    「ふーん。」
     空は紅茶のカップに、レモンのシロップをティースプーン一杯分ぽちゃんと落とす。ふわりと微かなレモンの香りが、隣に座っているリオセスリの鼻まで届いた。
    「じゃあさ、リオセスリにとって“良い人”とか正義って……なんなの?」
    「そうだな……視点が変われば正義も良い人の条件も変わってくる。例えば人殺しはいけない事だ。ただ殺した人間が戦争に参加している兵士だったら?きっと殺しは正当化されるだろう。自国から見ればそれは正義で、そいつは良い奴だ。生きるためには殺すしかなかったと言う免罪符付きのね。つまり何が言いたいかと言うと“良い人”ってのは、誰かにとって都合のいい人間が“良い人”なんだ。そして正義は、周りの環境……つまり社会にとって都合の“良い”ものだと思う。」
     そう、俺も自分にとって都合が良いから。これが良いことだと思って手を血に染めた。あいつらだってそうだ。誰かにとって都合が良いことだから、俺たちを売ったんだ。子供たちを買った人間からすれば、こいつらは良い人だったんだろう。
     結局、良い人も正義もこれほど不安定なものはない。だからこそ守らなければならないのだ。誰にとっても良い場所を、このフォンテーヌの正義を。
     誰に何と言われようとも、その覚悟がある。
    「おっと、悪かったな。つい喋りすぎてしまった。」
    「ううん、大丈夫。リオセスリのこと、よく知れた気がして嬉しいよ。……フォンテーヌやメロピデ要塞にとって、リオセスリは“良い人”で正義を貫く公人だね。」
    「……!」
     自分が良い人……考えたこともなかった。
     メロピデ要塞の管理者の座につき、公爵の地位をもらっても。それは自分が良い人である証明ではないと、そう思っていた。だからたまに夢を見る。今までの人生を煮詰めたような、嫌な夢を。名前も思い出せない妹の言葉を。
     誰かの、何かの悪い人になるのは慣れていたけれど。良い人と思ってもらえるのは、なかなかどうして心地よく嬉しいものだとは。
    「アンタにそう言ってもらえて嬉しいよ。光栄だ。」
    「どういたしまして!……あと、もう一個聞きたいことがあるんだけど。」
    「うん?どうぞ。」
    「あのさ、リオセスリにとって俺って良い人かな?」
    「そりゃ……。」
     間違いなくリオセスリから見れば、空は良い人だ。
     フォンテーヌに限らず、各国の問題を解決し力を尽くしてきた。彼らの助けによって多くの人が幸せになっただろう。たくさんの人から感謝され、歓迎され、自分が周りにとって良い人であることは十分認識していると思っていた。
     それでもジェレミーとの会話を聞いて、思うところがあったのだろう。空はその小さな手を、リオセスリの腕にちょこんと乗せた。こちらをじっと見つめるその瞳は、どのような答えが返ってくるかの期待と、不安に溢れていた。
     その姿はまるで小動物のように可愛く、愛らしい姿だった。
    「……もちろん、いい人だ。」
    「ほんと!やったぁ、嬉しい!」
     空はニコニコと笑いながら、嬉しそうに腕にぎゅうと抱きつくと、ほんのりと顔を赤くしながらリオセスリの肩に頭を置いた。
    「本当に嬉しい。じゃあ良い人頑張ってる俺にご褒美ちょうだい!……甘えても良い?」
    「もし断ったら?」
     茶化すと、空はムッとしたように頬を膨らませる。コロコロと変わる表情が可愛くてたまらない。
    「リオセスリは俺にとっての悪い人になる!」
    「はは、そいつは嫌だな。好きなだけ甘えてくれ。」
     今後自分の人生がどうなるかわからないが、この旅人の前でだけでも良い人であり続けよう。
     リオセスリはそう思いながら、甘える空の頭を優しく撫でた。
     
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