秘恋「始様。撮影お疲れ様です」
「あぁ、椿。お前もここで撮影だったんだな」
彼の顔が見られるだけで。
「はい。ちょうど始様たちの次なんです」
「そうか。頑張れよ」
彼が笑顔を向けてくれるだけで。
「ありがとうございます。頑張ります」
「あぁ」
彼の些細な一言で、胸が躍る。
でも、それと同時に、チクリとした痛みが。
「――始さん」
「雪」
だって、私は知っているから。
「よかった。椿も一緒だったんですね」
「あぁ、もしかして、もうすぐ撮影の時間か?」
彼の瞳が一番優しい色をするのは。
「はい。いつの間にか椿がいなくなっていたので、始さんのところかと思いまして」
「ごめんなさいね、雪。すぐ戻るわ」
彼女を映している時だと。
「いいえ、大丈夫よ。じゃあ、行きましょう、椿。――では、失礼しますね、始さん」
「失礼致します、始様」
「あぁ、またな」
きっと……いいえ、絶対に。
絶対に、私は彼女には勝てない。
「あぁ、そうだ、雪」
「はい」
だって彼女も。
「今夜、電話しても大丈夫か?」
「はい、大丈夫です。お待ちしていますね」
彼を愛しているから。
「あぁ。――じゃあ、撮影頑張れよ」
「ありがとうございます。頑張ります」
愛し合うものたちの間に割って入るなんて、私には許されていないから。
「……椿。どうしたの?」
「えっ?」
だから私は、ずっとこの想いを。
「なんだか、浮かない顔をしているわ」
「そうかしら? なにもないわ。心配かけてごめんなさいね。さあ、行きましょう」
「……ええ」
誰にも知られぬよう抱き続けるだけ――