Dozen Rose Day パタンとスケジュール帳を閉じて、帰る支度をする。
今日はイヌピーとの約束で家で飯。オレが手料理を振る舞う日。
コート片手に会社から出た。
十二月に入ったが今日は思いのほか暖かく、車では無く歩いて帰る事にした。イヌピーの仕事が終わる時間まで余裕があるから夕飯の時に一緒に飲むワインかシャンパンか買おうかと思案していた所、ふわりと優しい甘い香りがした。
香りを辿るように辺りを見ると路面店に新しく花屋がオープンしていて色彩やかな沢山の花々が並んでる。
花の香りに惹かれるように花屋に近づくと店の看板に
"十二本の薔薇を恋人や大切な人へ。ダズンローズデーに薔薇を贈りませんか?”
と可愛らしいクリスマスの飾りと共に書かれていた。
飯を食べたあと、イヌピーに薔薇を贈るのも悪くないな。
赤、白、ピンク。沢山の薔薇から純白の薔薇を選んだ。
クリスマスシーズンの為、赤と白のリボンでデコレーションしてもらい店をでる。
「イヌピー、びっくりするかな」
翡翠のような碧の瞳がめいいっぱい開いて、驚く顔を想像した、胸が暖かくなる
夜一緒に飲むシャンパンも買って帰路に着いた。
帰宅後、薔薇をリビングに隠し夕飯の用意にかかる。
今日はローストビーフ、サラダ、スープ、バケット。
イヌピーが美味しそうに俺の手料理を食べてくれるので、
凝り性のオレは料理を作るのにハマってしまって、今では和洋中とレシピは幅広く作れる。イヌピーに尽くすのが楽しい。
圧力鍋に肉をセットし、サラダ用のレタスを洗い、手でちぎって皿に盛り付けてる所で、 ガチャリと玄関のドアが開く。
イヌピーが帰ってきた。
「ただいま」
「おかえり、おつかれさま」
濡れた手を軽くタオルで拭き、リビングに居るイヌピーの頬に軽くキスをする。
「ん、これ」
手渡されたのはシンプルな手提げに白い箱。
「なに、これ」
「この前、ココがうめぇって言ってたケーキ、買ってきた」
甘いものが好きなオレたちはよくふたりで話題のケーキ屋さんとかスイーツ巡りをする。最近食べて凄く美味くて気に入った店のケーキだった。
「え?まじ?あのケーキ屋遠くなかったか?」
「帰りにバイク飛ばした」
遠方の有名ケーキ店の為、買うのに数時間待ちの店だ。
バイク飛ばして、並んでくれたのかと思うとジーンとした。
「イヌピー、ありがとう。すげえ嬉しい」
「ふふ、ココが喜ぶとオレも嬉しい」
ふわっと微笑むイヌピーが可愛くてぎゅっと抱きしめる。
「後で一緒に食べような、汗かいたから先に風呂入る」
紙袋を預かり、イヌピーの髪に軽くキスをする。
イヌピーの匂いを胸いっぱい吸い込む。はあ、イヌピーいい香り。
「ココ、匂いを嗅ぐな」
手で顔をグイグイ押される。
耳が真っ赤になってるのが見える。可愛すぎてどうしてくれようか?今すぐ押し倒そうか、なんて邪な気持ちが頭をもたげる。
「飯、楽しみにしてるから」
間髪入れず、とにっこりと微笑むイヌピー。
「おう、任せとけ」
ズルい。その顔が大好きなオレは邪な気持ちを我慢して
大人しくキッチンへ戻る。
イヌピーが買ってくれたケーキを冷蔵庫へ入れ、夕飯の仕上げにかかる。
テーブルにローストビーフ、シーザーサラダ、コーンスープ、よく焼いたバケットを並べ、グラスと冷えたシャンパンを用意している中、風呂上がり、髪を乾かしたイヌピーが出てきた。
「美味そうだな」
「美味いよ、頑張ったからね」
「ありがとな」
ふと見ると部屋着ではなくて以前プレゼントしたセットアップを着てアクセサリーを付けてくれてる。
「夕飯、豪華だから、この服着てみた」
「似合ってる」
贈った服を着てくれる事が嬉し過ぎてニヤニヤしてしまう
「腹減った」
「食べようか」
飯が並んだテーブルに向かい合って座る
イヌピーのグラスにシャンパンを注いだ。
「お疲れ様」
「ココもおつかれ」
グラスを傾けて乾杯した。
俺はイヌピーの皿にローストビーフを切り分けて渡す。
「どうぞ」
「ありがとう、いただきます」
ローストビーフをソースに絡めて箸で口に運ぶ。
「うめぇ!」
嬉しそうに食べてくれる。碧の瞳がキラキラして子供みたいだ。色んな表情を見せてくれる事にオレも嬉しくなる。
「良かった」
「ココが作る飯大好きだ、いつもありがとな」
「どういたしまして」
イヌピーの食べっぷりを見てるとオレも腹が減ってた事に気付いて食べ始める。我ながら上出来。
食べ終った食器を片付けて、買ってきてくれたケーキを皿に乗せる。キッチンのテーブルからリビングに移動した。コーヒーとケーキをテーブルに置く。
「お待たせ、イヌピー」
「ありがとう」
ケーキを食べながらイヌピーがソワソワしてる。
不思議に思ってると、紙袋から真っ赤な薔薇を十二本、取り出し手元に抱える。
その中から一輪を先にオレに差し出す。
「ココ、いつもありがとう。愛してる。」
碧の瞳がまっすぐ見つめてくる。
一輪の薔薇は、”ひとめぼれ、貴方しかいない"
十一本の薔薇は、”最愛"
イヌピーの真っ直ぐな愛に涙腺が滲む。
「ありがとう」
薔薇を受け取りぎゅっとイヌピーを抱きしめた。
「ふふ、バイクで走ってる時に花屋見かけてさ、真っ赤な薔薇を見て、ココみてえだなって思ったんだ。これも、受け取ってくれるよな?」
「うん、もちろん」
可愛い恋人のお願いに愛しさで胸がいっぱいになった。
「実は、俺もこれ…渡したくて」
用意していた白薔薇の花束をイヌピーへ渡す。
「イヌピー、愛してる。ずっと傍に居てください」
「オレに?」
大輪の薔薇を抱えて、潤む碧の瞳。
「うん、同じこと考えてたのびっくりした」
「ふふ、嬉しい。ココこれ多すぎじゃねぇ?」
薔薇を胸元で抱きしめながら、イヌピーが微笑む。
「いーの、それだけイヌピーに夢中だから、これからもよろしくな」
穏やかに微笑むイヌピーの頬を撫でる。
金の長い睫毛が伏せたのを合図に愛しい恋人にくちづけた。
九十九本の大輪の白薔薇
"永遠の愛、ずっと好きだった”