Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    crossxarms

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 3

    crossxarms

    ☆quiet follow

    #シャアム
    shaam

    少年期U.C0080.01.01にジオンと地球連邦政府との間で停戦条約が結ばれた後も、ザビ家の主要な人物が一年戦争で次々と戦死した事、ダイクン家の後継者となる人物がジオン政府内で登場しなかった事、などが尾を引いて、サイド3コロニーの政治的な立場や、独立国家としての『ジオン公国』の承認は、依然と曖昧なままになっていた。
     一年戦争でデギン、ギレンなどのジオンの主要人物が殉死した事により、ザビ家による裁政権は崩壊したものの、それがジオン公国の独立とスペース・ノイドの政治的な立ち位置を危うくする。ジオン軍によるサイド3独立と地球移民権奪還を名目にした戦争は、地球連邦政府によるコロニー出身者や宇宙移民者のスペース・ノイドへの更なる圧政の正当化へと繋がってしまう。その事が、アース・ノイドのエリート構成員を中心とする地球連邦組織『ティターンズ』の政治的台頭を容認する結果になり、連邦政府はアース・ノイド中心主義政策(優遇政策)に傾倒し、一年戦争の被災者や、宇宙に追いやられたスペース・ノイドを中心とした、戦争難民(宇宙難民)たちを生み出す原因ともなった

     ティターンズによるジオン軍残党狩りは激化し、スペース・ノイドの救済を訴える政治運動や地球連邦政府からの独立を目指す主義・思想の弾圧にさえ発展する。そんなスペース・ノイドに対する敵対意識と差別感情や、地球連邦政府によるアース・ノイド優遇政策に抵抗する形で、連邦軍内部にスペース・ノイドを中心とする軍閥組織、エゥーゴが発足する。※?しかし同時に、その連邦軍内部の対立が、アナハイムエレクトニクス(AE社)を始め、MS生産を中心とする軍需産業を活性化させることの要因にもなっている。
     ジオン公国独立を名目に繰り広げられた「一年戦争」の戦後処理を巡り、アース・ノイドとスペース・ノイドの間にある隔絶と対立の構図を代理する形で、地球連邦とジオン公国(サイド3)、ひいては連邦軍エリート組織ティターンズと反連邦組織エゥーゴによる政治的睨み合いが続いている。


     一年戦争の終結。地球に降りてようやく、兵役から逃れられると思っていたアムロは、地球連邦軍に身柄を拘束されて再び自由を失った。
     民間人アムロ・レイがガンダムに無断で搭乗した責任は、連邦軍の正規軍人になる事によって帳消しされたはずだ。しかし、戦争後のアムロに課せられた諫言令により、戦争当時のWBでの生活と戦闘行動については、連邦軍の機密情報として外部に漏らすことを強く禁じられ、フラウやハヤトなどの他のWB軍人同様、地球連邦軍の監視下に置かれる事となった。その拠点がこのシャイアンの地だ。弱冠15、16にしてガンダムで戦果を上げ「一年戦争の英雄」「白き悪魔」とさえ呼ばれたアムロは、希少な戦力であると同時に、ニュータイプの持つ強力な予知能力を外部、特にジオン軍残党に軍事利用されること、また、犯罪組織や暴力団体に政治利用される可能性を警戒し、連邦軍外部の人間との接触を忌諱して、アムロは厳重に管理しなくてはらないと、連邦軍の議題に上がったからだった。
     連邦軍から問題にされたのはアムロ・レイという人間のパーソナリティにあった。これまでも上官の命令に背く行為や独断で動くなどの単独行動を行い、敵軍のジオン兵を倒すのに躊躇う態度を見せるなど、軍務に対する責任感や連邦軍への帰属意識に乏しい事は、人物評価に度々上がっていた。また、ニュータイプ専用機エルメスに搭乗した娘ララァ・スンとの共感、ア・バオア・クーの戦いで消息を絶ったジオン軍シャア・アズナブルと最後に接触した事も、ジオン軍への寝返り疑惑を助長させる。一年戦争の戦果をきっかけに、ニュータイプ能力に対する研究理解が進むと同時に、その高い共感性が敵軍に組みする原因にもなりかねない。そんな根も葉もない噂が、連邦軍の幕僚にて、実しやかに囁かれたという。何を馬鹿な、と一蹴しても拭い切れない疑念は、シャイアンの地に身を移してからの、監視生活と言う形で実現した。実質の軟禁だ。
     アムロは、一方、ジオン軍からも、赤い彗星と互角に戦ったとされるガンダムとそのパイロットは「白い悪魔」として、戦前を生き残った兵や士官の間で恐れられ、危険視されることを、何処かで憂いていた。ニュータイプの革新だの、白い悪魔だの、そんな途方もない評価を受ける度、自分自身が遠退いて、まるで自分が人間ではないように思えるからだ。
     群衆は奇跡や活劇に弱い。まだ幼い少年アムロ・レイ軍長とRXガンダムの持つ宣伝効果は大きく、表向きの報道で「一年戦争の英雄」とさえ謳われ、ジオン軍の嘗ての軍神「シャア・アズナブル」の対抗馬であるかのように地球圏メディアで担ぎ上げれてしまった。ガンダムパイロットの『アムロ・レイ』の名前は、連邦軍の若き新星とメディアで持ち上げられ、ジオンの「赤い彗星」にちなみ、連邦の「白き流星」としてシャアと並び称されるようになっていた。しかし、実際のアムロの待遇はどうだろう。戦争犯罪人のような体で、車で移動する際はトラックの荷台を思わせる軍事用車の席が用意され、必ず尉官が両側に付き、時には目と口を布で塞がれて外を伺う事も許されない。
     アムロがガンダムとWBという当時の連邦軍の最新兵器に関する機密情報を多く抱えていたこと、ガンダムの学習型CPUにアムロ・レイのデータが記録されている事も彼を軍に拘束し手放せない理由だろう。また、試験機であったガンダムの実戦データを抽出し、ニュータイプのMSパイロットや兵士のモデルケースとしてNT能力を軍事転用する為に、シャイアン基地の研究施設にアムロが被験者として出入りする事も頻繁になった。
     研究施設で与えられたアムロ・レイの部屋は、施錠付きのドアに、天井近くにある十字の枠ついた格子つきの小窓以外には何の光の届かない、トイレ付きの狭い個室だ。まるで牢獄の中で過ごしているかのような、シャイアンにある邸宅より更に厳格な体制での実験体としての日々。
     当のアムロは、やはりララァを殺したあの感覚が忘れられなかった。戦死した仲間、自身が殺したジオン兵の事を割り切ることができず、むしろ停戦後自身を顧みる時間的なゆとりができたことが、過去の記憶を呼び戻し、精神を蝕むことになった。戦時は自分のこれからなど考える余力もなく、ただ明日へと生き抜く為にWBに乗り込み、与えられた任務をこなしその日その日を生きるしかなかった。まだガンダムを操縦していた時の感触が手から消えず、日常のふとした瞬間にジオン兵の影を見つけて怯えたり、自身が殺した敵兵やサイド7で亡くなった民間人の姿がフラッシュバックして、夜毎戦争の悪夢に悩まされ寝台を跳ね起きる。自身のニュータイプ的覚醒が拍車をかける形でPTSDにも似た症状を発症していた。
     一年戦争での自身の戦闘行動に対する負い目や償いのつもりで、連邦軍のNT研究に協力することを受諾したが、施設を見てそれが更なる軍事兵器への開発を促し、ニュータイプの兵士雇用の拡大とニュータイプに対する偏見の助長、ニュータイプの兵士としての意義に繋がることを直観する。一方でカマリアが間男と駆け落ちして地球に帰る場所もなく、尊敬する父テム・レイを失い、二人の行方も生存もアムロにはわからないままだ。他に居場所も行く当てもない事を言い訳に、いつの間に、この軟禁生活を甘受してしまっている。
     そんな自分自身に疑問や嫌悪を抱きつつ、一年戦争の英雄という肩書きは重く、大衆の間で偶像化していく自身のイメージと、ガンダムにちなんだ『白き流星』『白き悪魔』という自分の呼び名への違和感は消えない。まるでアムロの知らないアムロ・レイが大衆の間で息づきひとりでに動いているみたいに、そこにアムロ・レイ本来の姿はなく、実態から掛け離れたイメージだけが神格化、もしくは巨悪化されていくような気さえする。本物の僕など必要とされてないみたいに。報道陣や専門家の口にする「英雄アムロ・レイ」に纏わる噂とその語り口には、アムロの知らない尾鰭と脚色がついて、今ここにいるアムロの存在を感じる事はできなくなっていた。マスコミが関心を持つのは、ガンダムに乗って華々しく戦地を躍進するMSパイロットのアムロ・レイ。研究施設に収監される被験者姿のアムロではない。もし僕がニュータイプ的直観や予知能力、ララァとの共振や死者の声なんて事を記者の前で口にしなければ、霊能者や超能力者なんてオカルトな言い方をされず、超科学の結晶ガンダムに救われた不運な子供程度に、まだ留まっていられたのだろうか。
     アムロ・レイのネームドが知らず連邦軍の宣伝に使われ、政治利用されることに不気味なものを感じながら、連邦軍の持つ巨大な組織ネットワークと権力を前に、何もできずにいる。
     何をするにも連邦軍の監視付きで、行動や思想すら覗き見られ上官や研究員たちに管理されているような感覚。端的に言ってアムロはこの監禁生活に疲弊し、抵抗する気力を失っていった。
     「WBが僕の帰るところ」そう思っていたアムロであったが、戦争が結びつけた人の縁である以上は、停戦後皆が散り散りになってしまうのは自然の事。特にアムロは更に閉鎖的な環境に置かれた為か、事あるごとに同僚のフラウ、ブライトなどを思い出しては、彼らの行方と生活を気掛かりに思いつつも、一度離れてしまうとここまで関係は希薄になってしまうのだろうかと、生活圏が離れたことにより、以前程の繋がりを感じられなくなってしまっていた。彼らにもそれぞれの人生があるように、生活する場所や役職、立場が変わればその人との関係性も変わり、自分とは疎遠になる。そんな当たり前のことに、アムロは敏感に感じ取り、覚束なさを覚える。
     アムロには待ち人も居場所もない。嘗て同じ時間を共有した仲間もいなくなり、研究対象として実験を受ける、この監禁生活に終わりすらも見えない。ここには気を許して話し合う相手すらいないままかもしれない。ことあるごとにフラッシュバックに苛まれ、時折夢でララァの声を聞く。自身がニュータイプだと強く自覚するようになってから、事あるごとに霊魂や死者の存在を感じ取るようになった。
     果たして、僕はあの時生き延びて良かったのだろうか。一年戦争の英雄アムロは、ガンダムと共にその生涯を終えて、存在ごと消えた方が良かったのではないか。あのまま僕は、ララァのところへ行った方が良かったのではないか。アムロは日々の実験を受けるうち、ふとした時に、そんなことを思うようになる。自分の能力が高く評価される毎に、ニュータイプの能力が軍事利用される危機感が強まっていく。これはきっと更なる争いの展望に繋がる。それを肌で感じつつ、何をするでもなく、死んだようにして生きている。
     いつか、あのシャアに対して「争い合うだけがニュータイプじゃない」と言い放ったアムロが、彼の言う「ニュータイプは戦争では兵士としての利用価値がある」と反論してきたそれを、自分自身で証明してしまった。赤い彗星のシャアは、キシリアを殺害した後、行方も知れずジオン軍から姿を消した、世間では死んだとすら噂がある。シャアの生死はわからない、しかし赤い彗星は確かに政治と戦争の舞台から消えた。彼と同じように、もしあの時、アムロが死んでいれば、コアブロックにあったガンダムの戦闘データだって残らず、こんなニュータイプの人体実験にすら及ばなかったかも知れない。少なくとも連邦軍に「英雄アムロ・レイ」の研究データはファイリングされる事はなかったのに。
     ただ生きたいと思い、アムロは可能性にかけて、宇宙要塞ア・バオア・クーを脱出した。果たして僕は、あの時、死者を置いて戦争を生き残った意味があったのだろうか。そんな不安な気持ちを紛らわすように、アムロは限られた生活の中で、ハロ2号機の為の機械の設計図をノートに書いて、部品を組む真似事をする。ハロは僕の分身であって、脳周波を読み取り、僕の話を聞いてくれる唯一の他者でもある。僕を理解してくれる人が欲しい、そんな本心をひた隠しにして、物分かりのいい上辺だけの言葉を使い、騙し騙し日々を過ごしていた。
     アムロが実験生活を受け入れることが更なる戦禍に繋がる事を感じながら。

     そんな中、シャイアンの研究所に連邦軍内組織のエゥーゴからクワトロ・バジーナ大尉なる人物が派遣されるとアムロは聞いた。ニュータイプとして高い能力を持つと言うアムロ・レイを兵士や軍人としてではなく、スペース・ノイド的な観点から政治分析したい、それを名目に面会したいと。
     アムロ・レイがメディア露出を避けるようになってから、訪問者は軍事関係者や研究員を伴うMSやサイコミュ関係の技術者が殆どであったが、シャイアンのニュータイプ研究所は地球連邦軍の拠点施設でもあり、反地球連邦組織であるエゥーゴから派遣される人間はそう多くない。
    何度かスペース・ノイドやニュータイプとして現状の地球連邦政府の態度について、非公式の政治見解を求められる事もあったが、エゥーゴから直接人員を送られてくる事はそうそう無かった。しかし、ここがニュータイプの研究施設である為か、連邦軍管理下のアース・ノイド中心の施設でありながら、ニュータイプへ覚醒した宇宙移民者のスペース・ノイドに対して一定の見解と理解がある。だからその種の人間が、許可を受けることもあるのだろう。上からの命令であれば、受ける以外の選択はないが、アムロは訝しみつつ、面会を受諾する。まさかスペース・ノイドやニュータイプとして「アムロ・レイ」の名前をまた借りようとでも言うのだろか。その人は余程警戒心が強く、施設内の人間との接触を嫌ってか、面会室を経ず、個室での待機を要請された。

     どれ程の力があればそんな事、罷り通るのだろう。天井の窓枠から差す細い光を頬で受けつつ、寝台に腰を据えたアムロはぼんやりとしていた。
     この部屋は四畳半あるかないかもわからない狭い個室。被験者用の薄手の衣服は、背中に結び紐があって、一人で脱ぎ着すらできない。作業する机もなく、施錠された戸を開けば、寝台と柵付きの窓枠が嫌でも目に入る。辛うじて許されたノートの束とボールペンを自室に持ち込み、申し訳程度にある小さな本棚には電子工学の本が数冊並んで、地球の自宅から持ち出した木製の人形が飾ってある。
     ハロの設計図をノートに無心に書き殴り、廃棄されたマシンの部品を部屋に持ち込むのを、許されたのは最近になってから、それも申請と許可が必要なのだ。部屋に置く本やノートの中身すら軍による検閲が入る。ノートにあるハロに取り付ける脳周波を感知する機能も一度はサイコミュ兵器の一端と疑われ、上からの「指導」が入った程だった。
     軍長程度の階級では、きっと、そんな要求は通らない。アムロは何をするにも無力で、非力だった。しかし何をするでもない。ここから、抗うことすらやめてしまった。感傷に浸るなんて許されていいのかもわからない。
     
     壁のひび割れを視線でなぞっても、そのひびが目力で増える事も、開く事もない。人面みたいな天井の黒ずみを数えるのも飽きてしまった。すっかり太陽は昇っているのに、時間の感覚がまるでない。今はいつどきだろう。この部屋には起床と消灯、それに三度の食事の時間に、特に合図がないので、その日はいつなのか、今は何時なのか、それを知る手段は記憶の中以外にはない。部屋の外にあるテレビや時計、カレンダーを確認すれば、その日がいつで何が起きてるかは人並みに把握はできる。しかし新聞は購入しなければ読むことはできないし、それには必ず「検閲」による黒線の修正が入っている。菓子の類も決められた曜日に滑車を引いて尋ねてくる研究員以外から買う事もできない。それも施錠されている扉は外からしか開けられない。ここは外界から隔てられている。
     これが、アムロに余計な情報を入れないようにする為の制限であるのは、間違いないと思うが、ここで日夜を過ごしていると、本当に気でもおかしくなりそうで。密閉された場所で何をするでもなく、用のない日はただ放置されている、それが続くうち、なんだか気持ちの起伏が乏しくなって、頭が鈍くなってきた気がした。
     しかし実験や研究で、無菌の白い部屋に入れられて、計測機器から伸びる夥しい量のコードがついたサイコミュのヘッドセットを一度頭にすれば、否応にも戦争の記憶が呼び起こされ、『計測』や『試験』が始まれば、電気椅子の上に腰掛けたように全身が跳ねて、拘束ベルトがなければ忽ち、通電に耐えきれず実験台から転げ落ちてしまう。しかしその悲鳴は部屋の誰に届くことも無い。頸動脈に点滴の注射針を打たれて、寝そべっているだけの時は、心音や電子音の音がいやによく聞こえる。なんだか口内の粘膜と共に、細胞を採取される回数や、首筋に何かの薬剤を投与される回数も増えてきた。
     ニュータイプの能力が、PSY…所謂人間の五感や電気信号の延長にある「超能力」や「第六感」の類ではないか、という仮説が登場してからは、僕の脳波や感応波を読み取り、マシンを遠隔操作するような、サイコミュ実験も行われるようになった。その実験結果は芳しいらしく、普段表情を見せる事なく、無機質に僕を扱う研究員が少し笑っていたのを覚えている。笑窪の皺が吊り上がって、薄い唇から黄ばみ気味の歯並びすら見えた。ヘッドセットをつけて朧げに念ずるだけで、離れたところにあるマシンアームの指先が開いたり、閉じたりを繰り返す。君はよくできているね。また男が薄く笑って手元のボートにボールペンを走らせる。何がよくできているの。そんな事を口にする暇もなく、男はすぐに台を離れて、解析機器とパソコンモニタに目を向ける。部屋を隔てる壁には、長方形にくり抜かれたガラス窓が張っていて、その向こうで何人かの軍人や研究員が立ち会っている。ある日は、机にあるカードに描かれた図形や記号を、遠くのモニターにイメージ出力するようなテレパスの実験も受けた。人間の脳波を電気的な周波として感知し、機械言語化する仕組みはアムロにも覚えがある。ハロ。ここで白衣を着ている人たちも、父さんみたいに、また新技術を搭載したMSでも開発するのか。
     白衣はお医者さん以外でも着れるものなのか。僕が熱を出して寝込んだ時、あの白い服を着た医者や看護師に憧れや安らぎを覚えていたけど、ガンダムの燻んだ銀みたいな白い塗料も、発光するみたいに照明を反射する部屋の白い塗り壁も、ここにいる白衣の人たちも、そこに違いはありはしないのだろうか。
     ふと、アムロはまた、今の気持ちを書き留めておこうと、覚えている日付を書いて、ノートの厚紙や紙の四隅ががボロボロになるまで、ページにペンを走らせる。獄中記とはよく言ったもので、一冊のノートはその日気づいたこと、思いついたことを書いた。他にもノートに思いつきを書き出してはいるが、一番ノートの減りが早いのは、機械の設計図を思い付くだけ書いたものだ。文章下手でも汚い文字でも、空想でも絵空事でもいい、自分がここにいた証を、ここに生きた何かを、残しておきたい。でもなければ、いつ意識が遠のき、浅い眠りと共に死んでしまうか。ただでさえここ最近、身体が重くて、起き上がるのさえ酷く疲れて、感覚や感情が鈍くなって、上手く頭が働かない。まるで自分の身体が鉛か何かで、神経すら通わなくなっているみたいに、僕の意思と僕の心が、ここからずっと遠くにあるような、そんなうつらうつらとした日々を過ごすうちに、眠りも目覚めも、夢も現も、境がなくなって、意識だけがここを彷徨い宙を漂っているような気さえして、昔見た事、感じた事、その思い出すらも髪や魂と共に抜け落ちて行くようで、一瞬、僕が誰かも忘れてしまう。ただ無為に時間を過ごして、この檻の中に閉じ込められていたら、そのうち、自分すら失ってしまいそうで。
     だからせめて自分をここに、身体に繋ぎ止めるようにして、気がつけばアムロは一冊ノートを使い切り、また別のノートに機械の設計や思いつきを書き記す。それで上官の「指導」が入っても、考えるのをやめたら、身体より前に、僕の心が死んでしまう気がしたから。いつか又、僕を知る、そしてアムロが知っている誰かに会えた日の為に、せめて思いつく、思い出せる限りの何かをここに記して置こうと。そしていつか、またあの頃みたいに、ここに書いたハロを機械で組める日が来れば。

     瞬きすれば、ひび割れの部屋に意識が戻る。何もするでもなく、ただ繰り返される毎日に草臥れている。確かに何かを注入されたのに、まるで身体から栄養でも抜かれてるみたいだ。左腕にできた点滴の跡を見つめて、そんな事を考えていると、簡素に戸を叩く音が聞こえた。
     アムロの返事を待つでもなく、ガチャリ、という重たい開錠の音と共に、奥から押し開くように分厚い扉が開いた。戸の影から敷居を跨いで、手にかけたノブを後ろ手に戻し、顔を上げた長身で細身の男。黒いサンガラス越しの射抜くような男の眼差し。

     瞬間、電流でも走ったようにに火花が脳裏を迸り、まるで今目が覚めたようにして、僕はいつの間にその場を立ち上がっていた。

    「シャア」

     無意識に口にした、かつての宿敵、赤い彗星の名前。目の前にいるのは見知らぬ顔の男。しかし、何故かアムロはサイド6コロニーでの、あの日の出来事を思い出していた。今この4畳半の上に、雨の上がった湿っぽい空気と泥濘の感触が蘇り、ここに立ち込めるぐらいに。これはアムロにとって考えもしなかった事、しかし何処かで薄ら感じ取っていた気配だった。驚きよりも前に、畏怖や怖気にも似た何かが湧いて、金縛りにあったように全身が硬直して動かない。扉の前で無言で佇むだけの男に、みるみる血の気が引いて、目元が揺れていった。
     黒いトレンチコートを纏い、首元には詰め襟シャツがのぞいて、瞳は黒いサングラスの下に隠されて、表情を窺う事もできない。男はチラと部屋を見渡し、まるでアムロを選別でもするように視線でなぞった後、硬直して緊張に震える僕など気にも留めない様に、ゆっくりとした動作で、サングラスのフレームに指をかけて外し、伏目気味にコート下の胸ポケットに差し入れる。
     再び男が顔を上げる頃には、睨むような相貌が僕を見下ろしている。額には、美しい顔立ちには似つかわしくない、刺し傷のような痛ましい傷跡が残っていて、否応にも目についた。金色をした細い毛先が、硬い頬の上を畝っている。控えめにいっても何か高貴な生まれや品位ある育ちを感じる程に、恐ろしく整った顔立ちをしながら、しかし顔つきは厳しく、頬は肉下の歪みすら感じないほどに、全身が何かの訓練を日常的に受けて鍛えられている。所作一つをとっても厳格さが滲み、いっときの油断も許さないのではないか、と思ってしまう程、男の周囲にある空気が緊迫感に張り詰めて凍っている。そんな絵に描いた軍人の体躯をした男が、彫刻や石像みたいな綺麗な顔を肩口に乗せて、傷跡のある眉間に皺を寄せて静かに怒っている。それはアムロに向けたものなのか、ジオン軍佐官として連邦軍人に向けた苛立ちなのか、生まれながらそういう顔をしているだけなのか、それもわからないぐらい、男はアムロのすぐ目の前にあった。萎縮して見上げれば、頭一つ上の方からじっと見据えてくる。扉を塞ぐようにそこに立っている男は、棒立ちしたまま動かず僕を見ては皮肉に口端を上げて、冷ややかな眼差しをしながら、蔑むように口を開いた。

    「とんだ英雄の成れの果てと思わんか。元ガンダムのパイロット、白き流星のアムロ君」

     蛇睨みにもあった気持ちだった。居所も無いように身を小さくして、先ほどから一歩も動かないまま足元を見つめる。男はそんなアムロに声をかけるでもなく、そこに放置して部屋を物色し始める。何故、あなたがここに。そんな思いを口にする事もできず、口の中をまごつかせるだけで、ただ身を小さくして、服の裾を掴んで俯くだけだった。羞恥でこの場から消え失せたい気持ちだった。

    「いくら衛生管理の為とは言え、無機質で殺風景。空調はあるが。ここまで物がない上狭いようでは、まるで物を入れる前の、物置小屋のようだな。照度も高くない。規則的な生活など、民間上がりの君にできようものかな」

     床に放置されている電子回路、ごろりと足元に転がるシリコン素材の丸い殻は、卵でも割ったようにして半分のまま、まだ組まれてもいない。ハンダゴテもないので、回路の細い管は散らばったまま溶接される事もなく、積み木やブロックでも並べるみたいに、機体の残骸の様にに、そこに置かれているだけ。その全てが軍から支給されたもので、施設内の廃棄品から見繕ったらしいジャンク品に過ぎない。それでも回路を組んで、電池があれば、小さな豆電球を光らせるぐらいのことはできる。いつか部品が揃ってノートに書いた設計通りに組めれば、ハロはちゃんと完成する。
     しかし、それが玩具や子供が遊戯して散らかした跡にでも見えたのか、男は床に広げたままのノートを拾いあげ、視線を手元に落としつつ、慣れた手付きでパラと紙面を捲りながら、背を向けたままに話す。
    「こんな場所であっても、することと言えば機械弄りか。アムロ君。父親も父親なら、君も君だな。あのガンダムにザクの戦闘データを“趣味”で入力しただけはある」
    「あ…」
    「随分と熱心だな、これも全部ノートの山かね」
     アムロの書き綴ったノートから目線を外せば今度は物珍しい顔で、ベッドの隅に重ねた本の束に興味を移し、屈んでその本を手に取り、表紙を見せつけるようにして掲げた。
    「機械工学、それに寓話か。実に可愛らしいご趣味だな、アムロ・レイ」
    「なんだって」
     伏目になった男が瞬きすれば、その鋭い目の一本一本から生え揃う睫毛の長さがはっきりと見て取れ、ページを括る指先さえ気品さを感じさせる。一方の自分は冴えない童顔の栗毛の頭。アムロは唇を噛み固く拳を握っていた。この相貌の差、まるで辱めを受けているようだった。男は本の束の後ろから何かを拾い上げる。
    「また古めかしい木こり人形だな、君は男の癖、お人形遊びが好きなのか」
    「ち、ちがう!」
     木の人形を手にした男の揶揄うような物言いに対して羞恥で縮み上がり、反射的に捻り出したアムロの声は、怯えたように上擦っていた。先から自分のテリトリーに入り込む男を僕はあしらうこともできない。アムロは気圧されていた。その男の口から出る言葉は何処か皮肉めいていて、その節々に棘さえ感じられる。この部屋に存在を表してからと言うもの、男は敵意とも言い難いプレッシャーを全身からアムロにぶつけていた。部屋は男との間にある緊張で張り詰めている。アムロは首元を触り俄かに息をついた。
     一通り部屋の中を物色すると、男はアムロを振り返った。
    「手荷物はこれだけか」
     再び噛み合う視線。高い位置にある顔に嵌め込まれた群青色の瞳がアムロを射抜いている。この場に来て、男は未だに自分が何者であるかも明かさない。それは言わずとも察しているだろうと、アムロを挑発するかのような態度にも見てとれた。だからアムロは喋れない。男に対して何を口にするのが正しいのか、アムロにはわからなかった。
     この男は間違いなくエゥーゴから派遣されたクワトロ・バジーナ大尉であろう。しかし、アムロはこの男をクワトロと思う事はできなかった。一目見た瞬間から言語的な理解を超えて、男がシャアであるとわかってしまったからだ。アムロのニュータイプ的な直感が、彼がシャア・アズナブルであると告げていた。それは一度経験したからこそ、疑いようのない事だった。
     しかし、この男がシャアならば、彼は嘗てのジオンのエースであり、ガンダムパイロットのアムロとは宿敵同士だった。その男が何故今になって自分の前に現れたのか。一年戦争を終えて、ア・バオア・クーより消え去った筈の赤い彗星が、何故偽名の名を使ってまで、僕の目の前に立っているのか。その目的はなんだ。
     溢れ出る思いが喉元に出かかっては、飲み込んで、心臓が忙しなく胸の下で動悸する。何故、この男は僕に。アムロは結んでいた口を開いた。

    「どうして…、地球圏に、戻ってきたんです」
    「君を笑いにきた、そう言えば君は満足するのだろう」
     対等な返をしようとしたにも関わらず、ピシャリと返されてしまった。思わずアムロはカッと男の顔を睨み見た。眉を下げて唇を噛みつつ、泣きだしそうな顔をする。
    「まさか一年戦争を戦ってきた相手が、こんな垢抜けないだけの子供とは、ジオンの人間は誰も思わんだろうな」
    「なんだと」
    「サイド6で会った少年、ララァ・スンは既に君を知っていたようだが、まさか君の事を上官に話さない理由はあるまい。あの少年がガンダムのパイロットと知っていれば、間違いなく君をその場で射殺する、もしくは艦に捕縛して、拷問にかけていただろうからな。私の知る、シャアという男は。」
    「ララァ…、射殺…?」
     ララァのトラウマを思い起こすと同時に、自分があの時シャアに殺される可能性に気付かされる
    「連邦軍は、余程人員がなかったとみえる。民間人でしかなかった君を、木馬で連れまわし、そのまま正規のガンダムパイロットにするとは。戦争を特撮映画や何かと勘違いしているのではないかね。それが、今や白き流星と、それも赤い彗星に類するなどと、君のような少年が。世も末とは、この事だ」
    「どうして…、僕に、僕に会いにきたんだ…。こんな姿、あなたにだけは、見られたく、なのに…どうして…」

     シャアはアムロに一歩、二歩近づいて目の前で屈んだと思えば、そのままアムロの懐を両手で粗暴に掴んで、その中身を覗き込む。目を見開いて硬直するアムロ。自分の鼻下にシャアの頭がある。そのシャアが自分の衣服の下を不躾に覗いている。真っ白になるアムロ。
     薄手の被験者の衣服の下には、何も着せられていない、痩せ気味で肉の薄い骨ばった身体がある。

    「…本当に肉体改造されている、報告書にある通りか」
    「そんなところ、見ないでくださいっ…、お願いです、見ないで…」
    「(首元の)麻酔針の痕が酷いな、あまり接種の間隔が短いと、意識障害が残るかもしれん」
    「見るなぁ!」
    シャアを振り払おうと手を挙げるが、簡単にあしらわれ逆に腕を掴まれる。腕を骨ごと握り潰す勢いで。

    「長きに渡り戦ってきた相手が、ガンダムパイロットがこんな若い子供と知った時の、私の衝撃がわかるか。仮にもシャアと言う男はムサイ級の艦艇を指揮する大佐だ。ルウム戦役で赤い彗星と名乗りを上げ、それなりに修羅も潜ってきた。それを、ガンダム…君と出会ってからと言うもの、男の全てが狂ってしまった。君みたいな童女にしか見えんヤツが、今はシャア・アズナブルに匹敵する存在と。しかも連邦軍の君が、ジオン・ダイクンの唱えたニュータイプ理論の雛形的存在となってしまうとは、とんだ皮肉ではないか」

    「僕は、僕は、男で、…う、うう」
    「それしきで、(元)敵兵を前に男が泣くか。男は泣かぬものと、君は教わらなかったのか」(※キャスバルもまた幼い頃、暗殺の手から逃れ?、誰にも甘える事ができない過酷な環境の中を生きてきたため、八つ当たり気味)
    「え、うぐっ、ううう…」
    「士官学校すら出ていない。まさか本当に、ただの少年とは思わなかった」
     二人の足下にはアムロの集めた回路がおもちゃ箱をひっくり返したみたいに粗雑な散らばっている。シャアが踏み入った為に綺麗に整列してた電子回路も殻も列が乱れる。
    「こんな、非力で、痛ましい、だけの」
    「えっぐ、う…う…」
    「まこと、世の中とはわからんよ。アムロ君」
    「うわあ…」
     アムロは感情を取り戻したように嗚咽を飲んで涙を流す。(※多分アムロ
     シャアは湿った息を吐いて少し窶れた顔をしてる。

    「白き流星の栄進と共に、赤い彗星は地に落ちた。シャアの裏切りによってキシリア殿下は死去し、ザビ軍閥の権威は失墜、ジオン軍のシャア・アズナブルはそのまま姿を消し、伝説は途絶える。ジオン公国は連邦軍にやられまでもなく、内ゲバルトにより自らで崩壊する。終戦とは上部の話だ。ジオンの敗北はただの自滅に過ぎなかったと。連邦軍にとって、こんな都合の良い話、利用しない手もない。実にくだらん笑い話だな、アムロ君」

    (※ザビ家への復讐心でキシリアを殺害したシャアもまた、当然この一年戦争の責任を問われる立場でもある。ダイクン家はジオン暗殺以降一家が崩壊したことでジオンでの力を失い、代わりにザビ家が政治で頭角を表し、サイド3の独裁と独立戦争に発展する事になるが、一年戦争の後ザビ家なきジオンを先導する者が現れなかった事も、今回のようなスペース・ノイドに圧政を強いるティターンズの出現を許して地球圏の政治不安を招く結果ともなり、最終的にザビ家を裏切り、ジオンの血を引くキャスバルの立場を重くしている。ただしアムロはまだシャアに対してそれについて、問う事を思いつかない。
    → シャアの持つザビ家への復讐とダイクン家の責任を「ダカール演説」につなげられれば…。)

    (※ザビ家のデギンやギレンは、ジオンの独立を大義名分に地球圏支配の目的で戦争を仕掛けたきらいがある為、シャアがガルマやキシリアを暗殺、殺害しなかった場合、どうなっていたかは完全にパラレルワールドとなる。今回のジオンの独立戦争は複雑さを帯びている。今回はあまりジオン・ダイクン暗殺の件は深く考えない…?)

    誘導尋問
    「君の身柄は我々エゥーゴが預かる」
    「僕が、エゥーゴですって…」
    「我々の管理する施設まで移動する、連邦内での手続きは既に終わった。今日は君を引き取りに来たのだ」
    中略
    「アムロ・レイの代わりは既にいるということだ、この意味は、君のような人間でもわかるだろう」
    アムロは自分の点滴痕(注射痕)の残る腕を見る。
    「…まさか、そんな」
    「大衆にとって重要なのはガンダムパイロットのアムロ・レイのイメージであって、君自身ではない」
    「えっ…」

    「ましてアムロ・レイ本来の顔など、軍部からの情報開示やメディア報道がなければ、一般人には知る術もない。写真をすり替えたところで、それが偽物とわかる筈もない。彼らが見てきたのは、“宇宙で戦うMSガンダムの映像”であって、君自身ではないのだ。赤い彗星、シャア・アズナブルが何者であるか、君自身が知らなかったようにな」
    「地球の人々もサイドコロニーの人々も、メディアで報道される以上の情報は知り得ないのだ。そこに編集や、すり替えの事実があろうと、当事者を除いては、誰一人真相などわかりようがない。幾ら赤い彗星、白き流星などと持て囃され、名前だけが独り歩きしようと、それはメディアの作った実体を持たぬ虚像(虚実)だ。幻影や誇大妄想とさして変わらん。我々はその程度の存在に過ぎんよ」
    「そんな、そんな事って。だって僕は、だって僕がアムロ・レイで。その為に、僕はガンダムに乗って、戦って、戦ってきたのに。僕の居場所は、WBしか、ガンダムしかなかったから。だから、僕は戦って、僕が、アムロが、ガンダムに、だから戦ったのに」
    中略
    「むしろ、君が今ここで死ねばエゥーゴは地球連邦政府やその中枢のティターンズに対して戦争をする大義名分ができる。宇宙移民者であり、ニュータイプとして覚醒していた英雄のアムロ・レイに対して、(軍事兵器開発の為に)、非人道的な人体実験を繰り返し、モルモットとして、連邦軍が飼い殺しにしたとな」
    「それでは一年戦争でジオン軍が…いや、ザビ家のやった事と変わらない!」

    「金汚い軍人や政府高官は何処にでも存在するのだ。諜報員を使ってリストアップさせれば、組織の誰に金を握らせれば良いか、わかるのは容易い。また別の人間を使えば、内部告発をちらつかせて、脅しつけることすらできるのだからな」
    「マッチポンプだって…!?そんなの、卑怯者がすることだ!あなたは、あなたは、またそうやって、簡単に人を裏切るんだ。地球圏に来てまで、あなたはまた誰かと争おうとするんですか。あなたのいたジオン軍の人たちだって、今どうなってるかもわからないのに」
    「軍隊や軍閥組織とはそういうところだ。騙し、化かし、企てては人を裏切る、時に味方であっても、切り捨てることも珍しい事ではない。同時にいつそれが我が身に降りかかるともわからん。現に君は、幾らガンダムで貢献しても、結局は連邦軍に良いように使い捨てられただけではないか。それは私とて違わんさ。戦争屋というのはそれが仕事だ。人の恨みを買い、殺しを生業に生きる、罪人と何一つ変わらんのだ、アムロ君」
    「罪人…、僕が」

    「シャア、あなたも…」
    (※シャアが喋りすぎているので必要な箇所だけ拾う)

    ※要らないかもしれない場面
    「服を着替えろ」
    「え…」
    「その格好で外に出るつもりか。服(※下着)ぐらい着たらどうかな」
    「そんなこと、人に聞こえる声で、言わないでください…」(※監視つき)
    「人?…フン、これはエゥーゴの制服だが、君が着たいならば、着ればいい」
    「エゥーゴ」
    「どうした、君はここを出たいのだろう」
    「…」
    「このまま、自分の殻の中に閉じ籠っているのは、地球連邦政府、いや、ティターンズに手を貸す事になる」
    「…っ(※それはアムロも薄らわかっていた事で、まさに核心をつかれた気持ち。自身の実験がそのままサイコミュ兵器や新たなMS開発につながり、それがそのまま戦争利用される。それをシャアの言葉で改めて自覚する)」
    「いくら白き流星や英雄などという言葉で着飾ったところで、利用価値がある故に、軍に飼い殺しにされているに過ぎん。(それ以上君がここで生かされている理由もない。→※意思がない)」

    「籠の中の鳥は、鑑賞される道具でしかないと、覚えておくといい」
    「…」
    (※漫画的な台詞回し
    「地球連邦に縛られ、己の引き起こした現実に目を背けたまま余生を過ごすか。それとも、現実に向き合い、己の行為に決着をつける為に、もう一度戦場に戻り戦うか」
    ※仮、言葉回しが、しつこいかもしれない。シャアらしい言葉が見つからない)

    「君が選べ、アムロ君。(私はそれに従うまでだ)」(※あくまで本人に選ばせる)

    「…」(※服を受け取る)
    「物分かりが良いのだな」

    ---
    「どうした、アムロ君」
    「あの、すみません。後ろを向いてくれませんか」
    「後ろ」
    「…」
    「はて、何も無いが」
    「え、いや、だから、こっちを、見ないでください…!」
    「何を。…あ、いや、君は男ではないのか」
    「違う、その、あなたが、男だからで」
    「だから、男同士だ。今更何を恥じらう必要が…」
     布団で身体を隠して部屋の隅でじっと縮こまるアムロ。口元まで布団の裾で隠して怯えたように、弱々しく男を睨め上げている。シャアはなんだか青虫でも噛んだような気難しい顔をした後、無言で背中を向けて後ろ手にじっと壁を見ている。

    ---

    外に出る数ヶ月(数年?)ふりに太陽を浴びるアムロ
    「(本物の)太陽だ…」
    車に乗せられる?
    アムロレイの経歴をまるで見てきたようにペラペラ話すシャア。思わず身を引くアムロ。
    「我々軍人をあまり舐めない方がいいぞ。君も一応は(宇宙世紀の)有名人なのだからな。それぐらいの調べは、今や一般人でもつくと言う事だ。エゥーゴの組織力を使えば、木馬での君の素行態度からサイド7での人物評価まで、我々はプロファイルできる。一度軍の門下を通れば、自ずとそうなるのだ。アムロ君」
    「もう、僕、普通の暮らしはできないんですね」
    「ガンダムに乗った責任はそれ程に重い、まして君はニュータイプだ。力を持ってして、生まれた者の宿命だな」
    「きっと、それは、あなたも同じなんですね」
    WBの乗組員はさまざまな軍事関連施設や部署に散り散り。コンラートにWB各員のその後の待遇、所属部署のリストを見せられて驚愕するアムロ。監視付きの生活でまるで人質。もしかしたら二度と会えないかもしれない。
     アムロに対するWBでの人物評価の中にフラウやブライト、ハヤト、カイ、セイラ(※セイラはもしかすると立場的に難しいかも)などのWB面々の証言も含まれており、連邦軍の監視下のある中で彼らにできる最大限の「間接的なアムロへの(最後の)メッセージ」である。それを淡々と告げるシャア。(※もしかすると録音テープの類かもしれない)
     中には辛辣に思える棘のある評価もあるが、それはまだ幼いアムロに対する素直で正直な評価であって、アムロの事をしっかり覚えてくれていたことの裏返しであり、それも監視されている中で、アムロにそれぞれの想いが伝わるように選んだ慎重な言葉でもある。アムロはさまざまな思いが込み上げてきて少し涙ぐむ。
     連邦軍からのその後の処遇については、アムロ・レイを知る存在を軍部の中心から遠ざける為?また多分WB乗組員同士で結託するのを避ける為。生死を共にし艦で生活を共にする中で、運命共同体や共犯みたいな仲間意識が芽生える。それはある意味で友人や家族の絆とはまた違った、同じ戦地を生き残り庇い合い、殺しの現場を共に掻い潜って生きてきた重たい因縁。しかしそれはWBや連邦軍内に限った珍しいことでもない。

    「君は何処か行きたいところはないのか」
    「行きたいところ、ですか?」
    「君とは、一度ゆっくり話がしたいと思っていた。エゥーゴでは落ち着いて話もできんだろう」
    「…」
    「まともな食事も与えられてない。ペーストやレーションばかりでは、ひもじいのではないか」
    「食事…」
    「行きつけの店はないのか」
    「(首を振る)」
    「何か食べたいものは」
    「特に、思いつかない…」
    「…」
    「あなたが決めればいい」
    「口に合わんと困る」
    「…」
    「いい店は知っているが、君は病み上がりだからな」
    「いえ、やっぱりいいです…」
    「…」
    「考えれば、僕は、あなたの行くところに見合うような人間では。それに外に出る服もない。だからいいんです、そういうところは」
    「では、君はどう言った場所がいいのかな」
    「…し静かなところ」
    「うん」
    「その…、人の多いところは、あまり得意じゃないんだ。だからそういうところは、僕は落ち着かなくて、苦手なんです…」
    「そうか」

    ---
    20230105_20230107

    「何をしている、早く来たまえアムロ君」
    「え、あ、はい…」

    「(※部屋の入り口付近に留まるアムロに対して)どうした、アムロ君。この部屋ではご不満かな」
    「いえ…、なんだか、落ち着かない」
    「ほう、何故か」
    「いえ、ずっと狭い部屋に入れられてたから、なんだかここに居所がなくて…」

    「君は、ここがどういった場所か、わかるかね」
    「えっ…、と。地球の、シャイアンの研究施設から出て、今は」
    「そう言う事では、ないのだがな」
    「え。あ。あ、あなたが僕を連れてこれたと言う事は、ここも、軍の施設なのでは。それとも、ここは、あなたの私物なんですか」
    「まぁ、そうとも言うな。私が長い事借りている部屋だ。経営者が我々の関係者というだけさ」
    「隠れ家か何かですか。殆ど使われてないみたいですけど…」
    「我々のような軍人には、決まった寝屋などないのだ、アムロ君。地球に降りてからは、私はほぼホテル暮らしだからな。各地を転々とするには、持ち家は何かと不便でね。艦艇で暮らすのと、さして変わらんのかもしれん」
    「そう言えば、僕も昔、宇宙に来てからはコロニーを転々としてました。父が軍人だったから」
    「そうか、若いのに、苦労をしたのだな」
    「いえ…、サイド3生まれの、あなたほどでは…」(※この段階ではダイクンとは知らない)

    「あの、着替えとかないんですか」
    「君はエゥーゴの服は嫌いかな」
    「いえ、そうではなくて、休むには少し窮屈で」
    「そこの机の引き出しに、寝巻きがある。先に 
    、シャワーでも浴びると良い」
    「え、シャワーが部屋にあるんですか」
    「そこの奥の扉にある。湯を溜めて浸かっても構わんが。君のいた国ではそうしているのだろう」
    「ええ。じゃあ、僕入ってきます。あそこには、そんな設備なかったので」
    「そうするといい」
    「あ、…ありがとうございます」
    「いや」
    「やった、久しぶりのお風呂だ」
    「…」

    「アムロ君。次は私も使わせてもらうよ」
    「え、はい…」

    「あの、寝巻きってこれで良いんですか」

    「君は、広い部屋を与えても、またそんなこじんまりとしたところに行くのだな」
    「あ、クワトロ大尉。お風呂ありがとうございました」
    「君は気にしなくていい、好きにしなさい」
    「あんまり広いから、何処にいても落ち着かなくて。隅の席の方が落ち着くんです。(ここなら)夜景も見えて。こんな風に眺めたこともなくて」(※過酷な生活をしていたので、漸く気が休まり、少しロマンティックな気持ちになっている)
    「コロニー暮らしは、特にサイド7は、まだそれ程裕福ではないと思ってな」
    「星あかりみたいだ。街の灯りって、こんなに綺麗なんですね」
    「労働者がそこで夜勤しているのだ、地球の暮らしも楽ではない。戦後処理は一筋縄ではいかんよ」(※連邦軍内部のティターンズとエゥーゴの対立を始め、アムロが監禁されて以降も、潜伏し地球圏の実体を見ているので、現状をシビアに捉えている)
    「そうか。それを聞くと、少し侘しいです。本当なら、こういうビル街は、あまり好きじゃないんですが、でも、夜のこの時間は好きです。ティターンズやジオンの事(対立)がなければ、地球は、もっと、心安らぐ、良いところになっていたんだろうか」(※シャアの返しに、気付かされたように、連邦軍・ジオンの対立の構図がなくなっても、まだ実質的な戦争は終わっておらず、戦後が続いていると実感。地球は楽観視できないのだな、と思い黄昏ている)
    「そうだな」
    「こうして、夜空を見たの、いつぶりだろう…」

    「腹でも空かんか」
    「どうだろう…、あまり食欲は」
    「しかし、軍人ならば食べる時、食べねばならんだろう。何か頼みたいものは」
    「え、と」
    「そこのメニュー表から選ぶといい」
    「あ、オレンジジュース」
    「…」
    「……え、あ、そこの炭酸水、いえ、ミ、みミネラルウォーターで、いいので…」
    「そういえば、君はまだ、酒は飲めんのだったな」
    「すすみません…」
    「構わんよ」

    「私には何も聞かんのだなアムロ君」
    「え」

    「僕にとってシャアは、シャアだったから」
    「ほう、過去は詮索しないと」

    「例えば、私がエゥーゴの人間ではなく、ジオン軍残党で連邦軍施設の君を拐かした、という可能性を、君は憂慮しなかったのか」
    「…」
    「…」
    「……お、思いつきませんでした…」
    「…軍人としてあるまじき失態だな、アムロ君。仮にも私はシャア・アズナブルなのだろう」
    「僕には嘘をついてるようには見えなかった」
    「ニュータイプの勘というヤツか、全く、忌まわしいものだ」
    「はい…」
    「本当に、ものを知らん少年だ」

    「君は赤い彗星のことを何も知らんようだな」
    シャアがジオン・ダイクン家の息子キャスバルと知って驚くアムロ
    「シャアが、ジオン・ダイクンの息子のキャスバルだって…!」
    (※確か1stアニメ版ではキャスバル=シャアとわかっていたのはアルテイシアだけだったはず…。セイラがシャアの妹というのは確かWBの人間も知っていたような…どうだろう。漫画版ではセイラの後をカイ・シデンが追跡していたけども後で調べる)
    「本当に何も知らず、私に食ってかかったのか、君は…」
    「え…」
    「…」
    「……え、えへへ…」
    「褒めてもなければ、照れるところでもない」
    「僕がやらなきゃ、僕がガンダムをやらなきゃって。あの時は、必死だったんだ」
    「ガンダム」
    「僕が行かなければ、みんな死んでしまうと思った。サイド7でWBに乗り込む時、ザクがいて、振り返ったら、大人たちが、みんな死んでいた。大人がみんな地面に倒れて、血を出しながら、土まみれに。今まで実感のなかった一年戦争のこと、その時、初めて理解した。本当にすぐそばで戦争が起こっていたんだって、本当にわかったんだ。だから僕は…」(※アムロは避難命令が出ていてもフラウに呼ばれるまで気づかなかった。それは戦争の存在をテレビやモニター越しに知りつつ、目の前で起きるまで無関心なアムロの内向性と、悪い意味での一般的な政治的無関心-アパシーの象徴でもある)
    「…フン、それでガンダムに乗って英雄気取りか。蛮勇は勇敢さとは違う、愚かとは思わなかったのか」(※正規軍人の真っ当な感覚。いくら正義感の為とはいえ、アムロの行動は無謀ではある。実際初期のアムロはガンダムの性能に何度も助けられていた)
    「それは…」
    「連邦軍のV作戦の事は知っていた。あの日、私が木馬さえ見つけなければ、君は、あのガンダムに…」(※若干見せる後悔、ジオン軍少佐としての行動だが、自分の軍事行動の被害者が身近にいたのを目の当たりにした気持ち)
    「そうだ、あの日…」
    「…」
    「あの日、初めて彗星を見たんだ」
    「なに」
    「サイド7では人工的な空しか無い、星は…、宇宙は船に乗らないと見えないんだ」
    「それはサイドコロニーでは全て同じことでは無いか」
    「ええ。特に僕はいつも機械ばかり組んで、顕微鏡ばかり見てたから。展望台とか望遠鏡とかの類は覗いた試しがないんです」
    「コロニーにまで来て天体観測などと、呑気なことを言う。宇宙にくれば、星々など。幾千の数だけある。そこかしこ、燦然と輝いているが」
    「いえ…、僕が見たのは、赤色のザク、あなたが乗って乗っていた、あのザクです」(※長い間一線から引いていたのかズレている)
    「ザクⅡ…」
    「赤い彗星と呼ばれたあのザクは、ガンダムの、カメラレンズ越しに初めて見たんだ。本当に、流れ星みたいに早くて。照準を合わせても、あっという間に、カメラから消えてしまう。だから、ずっと、追いかけていた、気がする」(※天体観測の望遠鏡)
    「…」(※アムロの発言は兵士として若干ズレがある。下手をすれば自分に殺されていて、当時もジオン兵によって民間人も死んでいるのに。自分たちの生活を脅かされ、戦禍を目の当たりにしても人を恨みきれず、その危機感も薄い。良くも悪くもアムロは心が「純粋」で「幼い」「お人好し」な子供)
    「あの後、ブライトさんから酷く怒られたんです。僕が命令を無視して、あなたに向かって行ったから」(※本当は褒められると思った)
    「当たり前だな。兵一人の独断専行で、どれ程隊の統率が乱れ、人を失うか。君は艦艇に残る佐官の気苦労を知らんのだ」(※ジーンとデニムの件がある為)
    「本当に、そうだね…」(※WBの出来事しか知らないが、その後まもなく艦長を亡くしている)
    「…」(※誰か亡くなったのだろうな、と感じているが、自分のジオン軍としての行動の結果なのでなんとも反応できない。又自身もアムロ達のWBの攻撃を受けて兵を失くしている為、反応できない?)
    「宇宙(そら)で死ぬと、人は骨も残らないんだ」

    「あれ…」
    「どうした」
    「なんだか、眠い…」
    「…」
    「なんでだろ」
    「疲れが出たのかもしれんな」
    「そう、なのか」
    「少し横になったらどうかな」
    「うん…」
    「そこに寝台があるだろう、君が使うと良い」
    「そうする」
    「歩けるか」
    「シャアは」
    「君を一人放ってはおけんな」

    「すごい、柔らかい。羽毛布団にマットだ。シーツと板じゃないんだ」
    「それで浮かれるとは、余程貧窮してたのだな、君の暮らしは」
    「本当に、僕が使っていいんですか」
    「ああ」
    「うわあ、弾む、身体が沈むみたいだ、よく眠れそうだよ。ありがとう、シャア」

    「本当に、君は、ただの子供なのだな…」
    「え、なに…」
    (あまりに無知だ…)
    「うん…?」

    「…少し疲れたな。私もそこで休んで構わんか」
    「うん…。シャアは、何処で寝るんだ」

    「ベッド、部屋に一つしかないみたいだけど…」
    「…あれ」
    「シャアは、何処で」
    「シャア」

    ---
    (20230106)

    「シャア」
     アムロが寝台から半身を起き上げる、対して寝台にギシ、と腰を落とし据えた目でアムロを見るシャア。アムロの鼻先にシャアの顔がある。シャアは更に身を寄せ、アムロの背中を撫でるようにしながら腰に手を回し密着する。身を硬くして瞳を細かく揺らして困惑気味に見つめるアムロ。
    「君はまだわからないのか、自分が今、どんな立場に置かれているのか」
    「あの、なんで…」

    「あ、あの…」
    「アムロ…」




    ---
    (20230106)
    「なんだこれは、絵付きの日記帳か」
    「え、あの、(シャ…、)…クワトロ大尉は、これが何か、知りませんか」
    「知らんな、生憎、普段は文字しか書かんのでな」
    「これはゲームブックです」
    「ゲーム…?」
    「ええ、ノートにページ番号を振って、ページにある選択肢を選んで、その番号のページにいくんです。正しい選択肢を選んでいけば、最終的にゴールできるんです。謂わば、ゲームクリアですね」
    「なるほど、台詞や話まで考えたのか。随分凝った作りになっているのだな、アムロ君。まるでネームや絵コンテだな」
    「他に、やる事がなかったので」
    「この騎士風の男が主人公なのか。騎士というには随分とやさぐれて、それに目つきが悪いな。俗に言う、クエストゲームかね。例によってこの勇者が、魔王城に囚われた異国の姫君でも、助けに行くのか」
    「いえ、このノートでは、生き別れた兄弟…、いや友達を助けに行く話、だったかな。あんまり長い間、そこに一人でいたものだから、僕も、あまり覚えてないや」
    「しかし、この男は単独行動ばかりではないか。単身で敵の要塞に攻め込むのは、少々無理があるな。見たまえ、やはり、すぐ死んでしまったではないか。とても、見ていられんな」
    「そうだね。でも、正しい選択肢を選んでいけば、その男の人は(ゲームにある)全てを得る事ができるんですよ。仲間も、地位も、栄誉も、そして男の人が心から愛したその人も」
    「逆に、選択を間違えれば、全てを失うと言うことか。そしてバッドエンドを迎えると」
    「どうでしょう。男にとって何が不幸で幸せか、プレイヤーの人は初め、分かりませんから」
    「では、選択肢を作る意味がないではないか」
    「何が正しいか、どんな結末が男に相応しいか、それを決めるのは、キャラクターを動かすプレイヤー自身に委ねています、そのキャラクターの意思(心)ではなく。参加したプレイヤーはそのキャラになりきるんです。子供のしているごっこ遊びと一緒です」
    「フン、要はロールプレイングか。哀れな男だ。その運命の全てを、プレイヤーの選択に左右されるとは。まるで傀儡人形ではないか」
    「ええ、だからプレイヤーがキャラたちの心情を理解して、正しく導く事ができれば、その人は最上の幸せを手にする事ができる。それが仲間なのか、名誉なのか、財産なのか、それとも男の愛する誰かなのか。それは物語を見てきた人にしかわからない。何を持ってゲームクリアとするかは、作り主にしかわからないかもしれないけど」
    「ほう、ではこの世界を作った君にしかわからんと言うことか」
    「どうだろう…。いや、むしろ知りたいのは、それを作った、僕自身かも知れない」
    「それでは、誰も答えを知らんことになるではないか」
    「本当ですね。だから知りたいんです。そのゲームに参加したプレイヤーの、人の可能性というものを。僕の思いもしない物語の結末(終末)。僕には思いつかない、僕には見えなかった、ある筈のない人の未来を。この世界の外側を、僕は知りたい。参加したプレイヤーや、その人自身のいる世界の事を、僕はもっと知りたいんだ。それが人の心と言うのかはわからないけど。もしかすると、僕が一番に、見てみたいのかもしれないな。この物語の顛末と、その続きを」
    「また難儀な事を願うものだな。このゲームのクリエイター(創造主)というのは。まして君は死者の声すら届く、ニュータイプなのだろう。この男も、その生き別れの恋人も、プレイヤーとやらも、皆、心労が絶えないな」
    「ええ…、本当に…」
    「よもや、その作り主やゲームそのものを壊す…、創造神とやらを殺そうとする、裏切り者や反逆者すら現れるかもしれんな」
    「そうですね…、でも、それも良いかもしれない」
    「良いのか、君は。この勇者…いや騎士の男かな。このキャラや、プレイヤーの為、君が死ぬことになっても」
    「エンディングを決めるのはあくまでプレイヤーであって、僕じゃない。僕にできるのは、ただそばで見守るだけ。プレイヤーがゲームクリアするのを、待っているだけだから」
    「…」
    「…」
    「それで、この物語の、主人公の名前というのは」
    「それは…」

    ---
    (20230106)

    (シャア!)
    「すまんな、君」

    「車で引かないと無理だな」
    「え」
    「君は」
    「ア、アムロ、アムロ・レイです」
    「アムロ…、不思議と知っているような名前だな」
    (そ、そう、僕は、あなたを知っている…)
    「お、お手伝いします」
    「構わんよ、済んだ」
    「すみません、あ、あのお名前は」
    「シャア・アズナブル。ご覧の通り軍人さ」

    (シャア…)

    ---
    20230106

    「シャア・アズナブル…」
    「アムロ君、何か言ったか」
    「あ、いえ、シャア、じゃなかった、クワトロ大尉」
    「うん、今はどちらでも構わんさ。君の好きなように呼べば良い」
    「そう、言われても」
    「それとも、私が頼めば、君は、私の本当の名前を呼んでくれるのかな」
    「本当の…なまえ」
    ---

    (20221230)
    「僕にはこれ(男性器)が汚い何か、よくない何かに見えてならなかった」「そこだけ僕の力が及ばない、邪なんて考えてもないのに勝手に動く。余分な何かに思えて、腐り落ちて無くなればいいのにと、願ったこともあった」
    「ドラマの中でさえ、女の人が乳房を強調するような大胆な服を着て、時たま乳頭が見えそうになったり、それを男性がしてやった!とばかりに喜んで、覗き込んでは、いやらしい顔をする。しかし、僕はそれを見るとヒヤリとする、妙に冷静になると言えばいいのか、何故こんな事をするのだと、余計に思ってしまう時もあった。それは少し拗れた幼心で、もっと素朴な臆病な気持ちだ。小さい頃、女子と男子が当たり前に別々に遊んでいるように、何故ここで本筋と関係のない色っぽい場面が出てくるのか、当時の僕にはわからなかった。僕があまり、恋愛とか女の子に憧れるような事もなくて、そもそも人間に興味を持たない、内向的な生き方をしていたせいかもしれない。大人たちが互いの身体に触れ合い(性的な刺激を求めて)野生に帰っていくのを、僕は何故か吐き気や頭痛でも催すような嫌悪と自我崩壊でもするような恐れの感情を抱いて、明らかに避けて、見たくもなかった。
     でもそれは自意識過剰とも言える大袈裟な気持ちでもあって、逆に言えばきっと、僕がそれを普段から意識している事の裏返しでもあった。自己嫌悪の大きさだけ、自分のことを無闇に考え過ぎているように。その分だけ興味や関心があると、否定する事もできない。そんな卑怯な自分を見つけては、心の中で違うと言い訳して、駄目な事、悪い事と、必死に言い聞かせて、それが側からすれば、ただの滑稽や道化にも過ぎず、素直じゃないと言い捨てられてしまうのではないかと、勝手に杞憂する。普通に、当たり前に生きることのできない自分。一見賢き生きようとして、自分で自分の足を掬って、知らず沼に嵌っていく。そんな自意識だけが身勝手に働いて、周りと擦り合わせて、一緒に過ごす事さえできない。みっともなく空回りしては、一人気苦労ばかりを溜め込んで、まともに生きる事さえできない。何よりも、誰よりも、そんな自分が嫌だった。

     あの日の事は忘れられず、ふとした拍子に思い出すことがある。普段、知的に振る舞い、紳士や淑女のような顔をして道徳を語り、難しい話をする父や母が、その時はまるで違う人に見えたんだ。赤ん坊でもないのに母さんは乳房を晒して丸裸になって、父はズボンを脱いで、用も足さないのに、お尻を出している。恥ずかしいよりも前に、凄まじい嫌悪が恐怖が僕の中に湧き上がる。この人たちは誰なんだろう。いつも小難しい設計図を眺めて、論文でも書くようにして仕様書を書き始める父さんも、僕に優しく笑って悪い事をしたら叱ってくれた母さんも、僕なんか構わない、いないもののようにして、互いの快楽に身を任せて動作を機械的に繰り返して、肉体を揺さぶられている。あれが肉の本能というものなんだろうか。まるで別の何かに支配されてるみたいで、知性すら感じられない。それこそ、神経の快楽に任せて、電気的な刺激を得る事しか考えてないんだ。まるで獣のそれなんだ。排泄や嘔吐にも似ていた。体を包む綺麗な人の皮の下に、グロテスクな臓器と肉が綿みたいに詰まっている事、否応にも感じさせて…。それに血が通って、中の骨と神経がまるで樹木の根っこのように全身に行き渡って、それがあんな風に、0か1かの信号を得るためだけに、思慮を捨てて動いていた。肉だけが動いている。そこに人の意識なんてないんだ。
     見てはいけないものを見た気がして、僕の、何かが、あれは忌まれる良くないものだから、汚くていやらしい、恥ずべきものだから見てはいけないんだって、早く、早く、ここから逃げなきゃ、そう強く思った。あれが原罪の姿なんだ。あんなものに人は染まっちゃいけない、でも、それも本能的なものだったのかな。気持ち悪い。そう、僕にはそれが、気持ち悪かった。大人が赤子みたいに服を脱いで裸になって、二足で立たず、四つん這いになって原始的に互いを貪っている。恥ずかしさよりも嫌悪や拒絶が鳥肌になって、全身に迸るんだ。気がつけば小さく震えて熱くなった目頭から涙が溢れていた。しかし何故か、僕はそれから目を逸らす事もできない。知的な好奇心なんて言い方は絶対できない、あれは肉の本能なんだ。だって何故だか僕の下の何かが、反応しそうになる。嫌だ、嫌だ、あんな風になりたくない!気持ち悪い。目に溜まった涙が、頬を何度も流れて、気がつけば家を飛び出していた。小さい頃、僕に世の中を教えて、社会にあれこれを託けて、脅しつけるように諭してくれた父さんも母さんも、本当はただの雄と雌だったんだ。それを知った時、僕は、一体何なんだろう、僕はアレから生まれたんだって。初恋も婚約も、受胎も出産も、それは別に素敵な事でもめでたい事でもなんでもないんじゃないかって。生命の誕生なんてアカデミックで尊い言い方をしても、あんな汚らしい、性行為の産物に過ぎないんだ。あんなもの、捕食と同じだ。生理現象や代謝運動(排泄行為)と何が違うっていうんだ。大人や親なんていうけれど、いつもはあんなに楽しそうに、聡明そうにお喋りして、表に立って政治だとか世間話をしていても、人なんて裏ではみんなあんな感じなんじゃないかって、怖くなった。男と女が揃ったら、いつも腹の中であんな事を求めて、値踏み品定めしてるんだって。どんなに教養やモラルを学んでも、それは相手を格付けするだけの指標で、結局はあんな事をする為の前座に過ぎないんだ。何が上流と下級だ、何がインテリジェンスやジェントルマンだ、何がブルジョワとプロレタリアだ。いくら人間を位や階級で隔てたって、全部はあんな肉欲と生殖活動の遺伝の為にあるんだ!人間なんて、気取ったラベルで仕分けても、中身(肉と心)は何も変わりやしないのに。上手く言えないけど、僕には何かよくない大人の世界に見えて、すごく、怖かったんだ。嫌だった。知りたくもなかった。あれが人の本性?そんなはず無い、人間はもっと優しくて、あんな肉的本能や欲望の及ばない、情緒と風情のある、思いやりや理性のある、良心的な世界で生きているんだ。そうだ、人には心がある。弱いものいじめだとか、性的な快楽だとか、金汚い談合や裏切りだなんて、そんなものが敵うこともない、相手をわかろうとしたり、自分の外側にある世界を知ろうとする、そんな優しい世界が、心の繋がりや振動に耳を傾ける、精神的な世界があるはずなんだ。
     でも僕の身体の奥にある熱は、それを嘲笑うようにして、膨れがって、全身を神経の興奮とや破壊衝動で支配しようとする。嫌だ、こんなものに、僕は、人は負けたりしないんだ。でも刺激に逆らう程に切なくなる。僕は一人なんだ。孤独で寂しいんだ。誰も僕を知らない。相手にしない。どんなに綺麗にいようとしても、そんな事は、誰も気にしていない。みんな刺激ばかりに夢中になって、音楽も、絵も、勉強も、物作りも、誰がやったとか、好きとか嫌いとか、快い、不快だとか、自分のそればかりなんだ。みんなは自分を流暢に語れるのに、僕はそれもできやしない。それは何か違うんだって、咄嗟に思っても、何も言葉にできずに、みんなをがっかりさせるだけなんだ。それをおかしいと思うなら、僕はそれを伝えればいいじゃなか、数式や文学を持って、運動や芸術を持って、違うんだと証明すればいいじゃないか。自分の殻を超えたところに、人智の及ばない何かとてつもない力がある。それが集合知だとか、霊魂という言い方をするのかは僕にはわからない。でも何か自分の力だけでは知りようもない、何か大きな力の働きがあるんじゃ無いかって、自分の肉の器だけでは、自分の好きや嫌いだけでは説明できない何かの力が。幾ら自分が気持ちが良くても相手の心を無視するなんて、よくないんじゃないかって。でもそれを訴えようにも、僕は物事を何も知らない、非力だったんだ。刺激があれば反応する。それは確かに人や生物の仕組みとしてあって、それに抗おうなんて、僕は叛逆者で、おかしい事で、傲慢で烏滸がましいんだ。そんなもの、誰も期待してはいない。疑問を持てば、冷ややかに僕を見定めて、気に食わなければ、社会の歯車から押し出すんだ。自分だけが違うなんて、ありはしない、それこそ自分を特別に思うような幼い気持ち、自己中心的な驕りと何一つ変わらないじゃないか。みんなと同じに生きられないのを、言い訳して、正当化してるだけなんだ。でも、どんなに自分を見繕っても、どんなにみんなが誉めそやす音楽CDやドラマを探して、流行に追い縋ろうとも、一向に生活が、自分が、満たされることがないんだ。何一つ自分を証明できない。誰からも認められてない。そんな不安と不信がいつまでも人生に影を差して、僕の後をついてくる。そう、僕には誰もいない。僕は、ずっと、ひとりぼっちだ。
     それが思春期の、自己形成と性的な目覚めの体験の一つだった。それは今でも僕に纏わりついて、自己を脅かすような、自分が足元から崩れ去るような嫌だった記憶として、頭の隅に残っている。それは禁忌であり背徳であり、僕が低俗だと、戒める物でありながら、同時に自分の中にも忍んで、何処かでいつも求めている。そんな自己矛盾と自己嫌悪が、言いようもない暗闇として、ずっと心に居座っていた。

    獰猛な獣同士の淫行でもみているかのような、肉親の行為。そこには相手への労りや思いやりもない、ただ自分の欲求を満たすだけの、奪い合い汚物でもかけ合うような、排泄や吐瀉でもみたような、互いを利用し合うだけの痛ましい下品で下劣な関係、それこそ利害一致しただけ、その場の勢いで抱きあってるような野蛮な大人の世界。汚い物でも見た様な感情。裏切りにも似ている。そこには相手への愛情も優しさもない。人間としての理性も知性も感じられない。ただエゴとエゴの…いや本能と本能のぶつかり合い、ただ快楽を求める自分が気持ちよくなるだけの、汚らしい行為だった。
    ・理想をぶつけ合うしかない二人。
    ・弱さを見せる場所、ゆっくり息を付ける場所ががそこしかない。

    「いや、確かに、君の言う打算かもしれんよ。君は私を一度でも地に付けた男だからな。軍隊の脅威となる人物、自分を殺せる男を甘い言葉で誘って、囲い込んでは懐柔し、もしくは暗黙に排除する。国家政略や陰謀の裏側には、よくある話ではないか。ニュータイプ最強の兵と呼ばれた君を傍らに置き、文字通りに抱き込んで、自分に酔わせて惚れさせる。そして懐に入(い)っては、心を手折ってしまうのだ。そのまま殺してやってもいい。君に愛を囁き、世の中にある理想、哲学(美学)を語りながら、君の首をゆっくりと絞めつける。指が喉笛に食い込むぐらいに、着実に、じわじわと嬲り殺すように。するとどうだ、君の膣(菊門?)は私のものを離すまいと、次第に締まっていくのだ。君は私の愛や善性とやらを信じたまま、感嘆を吐露しつつ幸福な顔で死ぬのだよ。或いは裏切りを知って悲嘆し、絶望に顔を歪ませながら、恐怖と共に息の根を止めるのだ。一番安全で確かな陥穽(かんせい)とは思わんか」
    「しかし、そんなことをできる人とは思わない、あなたは」
    「自信過剰か。実に愉快だアムロ君。まるで人を知っているように」
    「そうやって揶揄って。僕を試すようなことは、やめてください。そんな気は、端(はな)からないだろうに」
    「殺したいはずの相手を側に置き、夜毎抱いて愛を説くとは、実に奇妙なものだな。君と私の関係は」
    「これはきっと、少なくとも世間で言う恋愛や馴れ初めではないんでしょうね。だって、人目を気にして隠れて二人で会うなんて、まるで悪い事でもしてるみたいだ。まして僕は…(男で)」
    「それを普通、密会や逢瀬と呼ぶのではないのか。君はこれを恋慕や情事と、呼んではくれないのかな」
    「こんなものは、貴方の憂さ晴らしに過ぎないのでは。あなたにとっては僕はただの敵兵の男で、言ってしまえば男娼だ。僕は貴方の世継ぎさえ生むこともないのに。ただ抱きあって、快楽に溺れて、添い寝するだけ。それこそ何の意味があるのだろう、この行為に。何も孕まず生みやしないのに」
    「だから、それが愛なのだろう」(※後の展開のシャアの発言と矛盾しないか?考える)
    「愛…?これが」
    「私を恋人と呼んではくれないか」

    「名を呼んで欲しい。キャスバルと。彼の人と。恋人の名でも呼ぶように。二人きりで会う時だけでいい。今時だけでいいのだ。今はシャアではなく、キャスバルと呼んでくれ、アムロ」

    「君が死を思う時どんな顔をするのか、見てみたいものだな」(※軍人だから常に死が身近にある。自分或いはアムロが死ぬまで添い遂げて欲しい)

    ※如何にも高級軍人が好みそうな寝室と寝台がロケーション シャアはガラスコップを手に持ってる
    ・「君は口でそう言いつつ、私にこうして求められるとき、甘美や悦びをかんじるのだろう。だから最後まで拒絶できないのだな」
    正に、自分の後ろ暗い気持ちを言い当てられて、卑屈で悲壮感のある顔をしてみやるアムロ。
    「私に行為の責任を押し付けながら、嫌がりつつも、犯される。本当なら君は、いつもこうして私に抱かれていたいのにな。理由がなければ君は、こうして私に甘えることさえできない。実に哀れだな。卑怯者で卑屈な子供だ。そうやって悲劇を気取っていれば、自身は汚れずに済むと思ったのか。ならば、そうして綺麗と清楚を演じていればいい。望みどおりに、純真無垢な子供に仕立ててやろう。私に抱かれ慰め献身する事で、君が満ちるなら、私との関係を続けてくれるのであれば」
    「僕はただ(誰かに)愛されたかった」
    「(怯える様も)かわいいな、アムロ…」
    ・「攻略?面白い事を言う。君にしてはなかなか軍人らしい発想だ、アムロ君」
    「軍人として、君が気にくわなかった。そうだ…、思えば、ただ君を(敵兵として)落としたかっただけなのかもしれんな」(※1番の素直な気持ち、本心)
    支配欲?幼い頃、妹の前に虚勢を張り、理想的な貴族の男を演じ期待に応えるばかりで思い通りにならなかったから。それはアムロも同じ。ずっと分別のある物わかりの良い優等生、"両親不在の家庭でも懸命に生きる、模範的で良い子な子供"を演じていた?
    「やっぱり、貴方も僕を好きだった訳じゃないんだ…」
    「なぜ、そう思うかね」
    「…だって、いや…」
    「やっぱり、わからない。うまく言えません。でも、こんな低俗な行為が、人の言う、恋愛なんてものなんだろうか」
    「君にとって、これは自由恋愛とは呼ばないか」
    「ただの肉体関係です、こんなの。醜い。大人の、いやらしい、薄汚いだけの関係に過ぎないんだ。エゴとエゴをぶつけて…いや、そんな傷の舐め合いなど、可愛げのあるぐらいだ。慰め合う行為すら、遠い。本能を晒しあって醜く混ざりあっているだけだ。労りや気遣いなんてない。こんなのが、人の愛であるものか。こんなもの、愛なんかじゃない、愛であってはいけないんだ。こんなものが、人の愛である筈がないんだ。これでは…、こんなものではダメなんだ。ただ互いを性の道具にして欲望を発散してるだけだ。こんなものを、愛や恋なんて呼んではいけない。絶対にいけないんだ」
    「名を呼び、互いを求め合うだけでは、君には不十分かな」
    「だめだ、そんなもの」
    「見た目に反して、随分と手厳しい男だな、君も」
    「貴方に汚れてほしくないんだ。貴方はもっと純粋で、きれいな人なのに。MSを着たあなたに出会った時から僕は、ずっと憧れていたのに。あの時も(※宿命回)、見ず知らずの僕にさえ、優しくしてくれた。だから、あなたがこんな事するなんて。無縁とすら思っていたのに。こんなこと知りたくなかった…」
    「君こそ、あまり押し付けないでくれたまえ。重ねて言うが、私は君程純朴な男でもなければ、君の思う様な人間でもない。私は君の言う理想の男か。そうでありたいと願う以上に、君にだけはそう思ってほしくはないのだがな」
    「それは…」
    「そもそも、君と私の因縁は戦場(いくさば)が始まりだったではないか。その頃の私を忘れたとは言わせまいよ。私は君の機体の腑(はらわた)を蹴って、コックピットごと君を潰そうとしたのにな」
    「はらわた、ですか」
    「私は機体の急所を狙った。わかるかね。仮に君の機体の装甲が、ジオンの超硬スチールやチタニウム程度の合金ならば、コアブロックは見事、押し潰れていた。私の経験で言えば、ザクの一蹴りで装甲は抉れて、追撃もあれば中の(伝達)回路が間接ごとへし折れて、機体の(鉄の)皮が爛れる。君の肉はサンドイッチだ。一歩間違えば君は死んでいたのだ。笑うだろう。私は君を追い詰めて、いつか殺してやろうと思った。憎きガンダムを打ち倒し、撃墜する日をどれ程に待ち焦がれていたか。君は知らんだろうからな。自分を殺そうとした男に対して、そんな事を評するのは、君の様な数奇者ぐらいだ」(※プレス機で潰したように潰れる)

    「銃撃、というのは確かに射程距離こそ長いが、銃弾の軌道は直線を描き、銃弾と言うごく僅かな点がその直線上を移動している過ぎないのだ。つまりその弾の当たる範囲は非常に狭く、空間を自由に動いている兵士に対して当たる確率は、皆(みな)が思う程高くはないのだ。構え、狙い、撃ち、銃弾が銃口から飛び出すまでにかかる工程を考えれば、射撃訓練での命中の精度がいくら高くとも、実戦において、塹壕に隠れながら迫ってくる兵士相手には、直線と点の制約の為に、銃撃は意外に頼りにならんものでね。であるから、戦地ではバルカンやマシンガンなど銃弾が高速で連射されるタイプ、散弾銃など弾が放射状に広がるタイプのものが好まれる。もしくはライフル銃による狙撃、熟練したスナイパーの緻密な計算と綿密な計画によって組まれた限定的なロケーション(シチュエーション?)の条件下でのみに、直線と点の銃弾による攻撃は活きるのだ。拳銃というのは、普段銃を持たない民間人や強盗などの現行犯に対する威嚇の効果の方が、大きいのではないかな。銃は、確かに射程距離こそ長いが、その一発(の銃弾)が空間上で動く兵士に、当たる確率というのは、銃兵の思う以上に低い。だから、間合いを詰めつつ、いざ懐に入ってしまえば、その直線的な攻撃射程と三つの動作が足枷となり、銃を構えた兵士が見せる隙は大きいのだ。そこで、間合いの狭い近接戦闘においては、少ない動作で急所を狙えるナイフによる攻撃が有効となる。いざとなれば面(範囲)で攻撃ができる格闘術というのも、MSによる戦闘が本格化した宇宙世紀においては、馬鹿にはできんのだ。いくら科学文明が発達して、強力な兵器が登場しようと、いざという時、敵兵に当たらなければ意味がないのでね。だからこそニュータイプと呼ばれる存在が、戦地で注目を浴びるようになった。敵兵の動きを先読みする直観、テレパシーとも呼べるような人の思考を読む力(予知能力)は、戦地では重要な戦力となる。私が一軍人として、…いや、MSパイロットとして君に拘る理由が、わかるかな。アムロ・レイ軍長。何故最強の兵になるべく過酷な訓練を積んできた私が、ただの民間人の幼い子供に過ぎなかった君に劣るのか。これは、私にとって、存亡に関わる問題なのだよ。シャア・アズナブルと呼ばれた男の、そして(ニュータイプ理論を唱えた)ジオン・ダイクンの嫡男としての、存在(意義)とプライドのかかった、死闘なのだ。なぁ、アムロ君」
    「人体や機体の急所に向かって、垂直に力と圧を与え、腕や足が伸び切る前に止める。掌底とも言うのだ。喩えばMS、ザクタイプの足裏は平だ。あれを相手の装甲と並行になるように、そのまま真っ過ぐ、素早く蹴りを入れる。そして装甲がクッションとならぬように蹴りの勢いは、破壊したい位置で止めるのだ。すると、力と衝撃だけがダイレクトに攻撃箇所に留まる。そこにダメージが居残り、装甲の中身ごと破壊されるのだ。プレス機とは仕組みが違うがね。それが人体なら衝撃が内臓にまで伝わって、中身が破壊される。軍隊武術の基本だ。それはMSでも戦闘機でも変わらん。知っての通り、機体も人体も繊細で、薄皮一枚で覆われているに過ぎないのだ。たかが拳や蹴り、しかしそう言った肉弾での微妙な負担が相手の中でじわじわと蓄積していく、まるで毒でも盛るように。そこを120mm口径のバルカンを放射し、敵の動きを牽制しつつ、度重なる弾道で相手が手も足もでなくなったところを、粒子砲とサーベルで隙もなく、致命傷を負わせるのだ。すると相手はもう動かない。しかしそこに更に追撃を叩き込む。二度と起き上がる事もなく、抵抗する気力すら失う程念入りに破壊する。それを敵軍勢の前にだして、後方の部隊に投げつけるのだよ。その一人は見せしめだ。そして敵勢が怖気ついて、足を留めて躊躇したところを、私の率いる部隊が一斉に前に駆けでて、圧巻するようにして戦地を占領する。拮抗して睨み合いを続けていた筈の敵部隊の戦力はすでに分散されて、足並みを揃えてた兵の統率が乱れ、最早立て直すことすら叶わん。兵は詭道だ。圧倒的実力差でもって心を圧し折り、まずは戦意を削ぐのだよ。佐官の基礎戦術であり、それが敵兵を殺す、と言う行為なのだ、アムロ君」)

    「君は私に追いつき、それを超えようとした。喩え落ちた彗星と蔑まれようと、君は確かに私に気がつき、拾い上げて殺し、或いは手を取って私を守ろう(救おう)とした。そこに嘘も偽りもない。」
    「赤い彗星と呼ばれた私に、君はその幼き手を伸ばした。そして今こうして私の手元に届いた。白き流星のアムロ。しかしそれは、私の思う力とは違う、君の力は明らかに弱い。しかし単純な暴力や肉的な強さとも違った、得体の知れぬ不思議な輝きがある。心の力、それが父ジオンの言うニュータイプとしての才覚であるなら、どれ程に遠く離れ、待ち焦がれた光であったか」
    「私の全身と全霊をぶつけても死なず生き残り、避ける(逃げる)どころか真正面から私に噛みついて(食らいついて)、追いかけてくる。殺し合いを愛と謳うのは滑稽だ。しかし、私がいくら身勝手に先を歩いても、後から懸命に(背中を)ついてくるような、そんな健気で古風な男など、君ぐらいしかいなかった。私は地に落ちた。復讐に身を投じて半生を失った私に、たった一人、残されていたのが、宿敵である君だ。私にとって、唯一と呼べる人間が君だけだったのだ、アムロ君」
    (※流星と呼ばれたお前も私と同じところに落としたかった)
    「(君を選んだ理由が)それだけではいかんか」
    「…」
    「君に隠し事はしたくない。目交う時ぐらい、私の素面(素顔)を見てはくれないかのかな」
    「愛とはそれほどに高尚なものかね。肉的行為など、脳の錯覚に過ぎんのではないか。ホルモンと神経物質さえなければ、人が求め合う事などありえん。会話なしに生殖行為すらまともにできん人間が、何をもって性愛を語るのか。私にはわからんよ。それとも君にはわかるかね、男の癖、女の言う人の恋路がわかるのか」
    「違うよ、そんなもの…。だって人を好きになる時は、決まって心が温かくなって、周りの景色がキラキラして、その辺の花がなんだか彩り豊かに見えるんだ。貴方がつまらない、くだらないと吐き捨てた人の世が、明るくなって、なんだか優しく恭しく思える。その人を見かけるだけで、その人が傍にいて笑ってるだけで、嬉しくなるんだ。なんだろう、そうだ。生きてる事が楽しくなるんだよ。その人に気が付いただけで、その人がいるだけで、なんだか、本当に涙が出そうになって。心が、本当に、救われて、僕の中にあった歪(いが)みと澱みが消えて、まるで汚いものから綺麗なものに(生まれ)変わっていくような、そんな気がする。人に恋した時人を想う時は、そんな感じなんだ。そう、愛はもっと静かで穏やかで、柔らかくて優しい。相手を心から思いやる様な、そんな、温かくて、眩しくて、心で相手の身体ごと包み込むような…。例えば、相手が生き残り、身代わりに僕が死んだっていいんだ。心と心が行き交って、尖った気持ちが丸くなる。暗がりにいる僕が光に照らされる。それこそ神様を見た時の様な、祈る気持ちを知った時の様な、そんな、神聖な気持ちなんだ」
    「ならば、君がそれを教えてくれないか。迷い人には導きをくれるのだろう」
    「教える、だって?」
    「私には、その人間が憎らしい。私は知らんのだ。そんな事は、誰からされた覚えもない。君がそんな事をする相手は誰かな。真似事でも構わん。君がしたければ、そうしたまえ。だから君は愛してくれ、私を。できるなら、ずっと、私だけを見てはくれないかな。互いを求め与え合う。それでは足らんのか。私では、君と私ではいけないのか。アムロ、教えてくれ(、友よ)。知りたいのだ。私は、そんな人並みの事(心)を何も知らないのだ、アムロ…」
    「これが間違いというなら、君の言う愛を、真実の愛を教えてくれ、アムロ」
    「私に、君の言う光を見せてはくれないか。(わからないのだ)、私を導いてくれ、アムロ…」(地の文:私にとって暗雲に満ちた余生の道を照らす光とは君だった)
    「キャスバル、さん…」

    「ごめん、ごめんよ…」
    「好きだアムロ」
    「僕も…、僕もあなたが好きです。本当は貴方が…貴方にずっとこうして、抱かれていたかった」
    「アムロ、私を呼んでくれ、アムロ…」
    「キャスバル、キャスバル…」
    ・愚痴を言う弱さを見せる甘える事しかできない。抱く時間を共にする、与える、願いを叶えてやる、しか愛情を示せない男。

    「アムロ君、君は剣を交えた時の事を覚えているか。私はその時、不思議な体感をした。殺し、生かすことの間に違いはないのではないか。そう錯覚する程に、君は正面から私を討とうとした。まるで神霊でも宿ったかのような的確な裁き。その時見た光景は今でも瞼に残っている。目を閉じれば、音もなく鮮やかに浮かび上がる。生々しい命のやり取りとその感触。君は実に美しい顔をしていた。君は私を心配でもするような、まるで心底私を想っているかのような。何かの拍子に泣いてしまう、それ程に脆く、傷つき、優しい顔をしていた。これが人殺しの顔なのかと、一瞬正気を失う程に、宇宙の暗がりの上、混沌の中を、白く鮮やかに浮かび上がっていた。次の瞬間には君の顔はすぐ側にあった。諭し叱るような厳しく真面目な顔をして、私の脳天を突いていた。脳裏にあったのは死という言葉、だのに、私はまだ生きていた。命を、与えられた。私は君から奪おうとしたのに。鋭い痛みと衝撃と共に、火花でも散ったように、目の前に閃光が走る。しかし、君はまるで聖人君子のような顔をして人を殺すのだな。まだ分別もしらぬような、幼くあどけない顔の少年が私に刃を向けていた。ガラス玉をはめたような眼差しがそこにある。同じ殺しをしてるとは思えぬほどに、綺麗で浄らな顔をして、まるで神や天使でも見つけたようだった。白き悪魔と誰が言ったか。違う、あの子はきっと天の遣いか何かで、ああ、私にも遂に迎えが来たのだ。私は手を伸ばし、そのまま、己の内に手に入れようと、あと少しのところで…」
    「それは、ほんの一瞬の出来事に過ぎん。僅か数秒間の幻。死線を超えた時、私は確かにそこに天使を見た。天の羽も光の輪もなかったが、確かに優しい顔をして私に剣を向けていた。純白の衣(きぬ)を着た穢れない美しい少年。まるで優しい光が、そのまま人の姿を模(かたど)ったかのように、眩い、神聖な光だった。あれをニュータイプ的共感と呼ぶのなら、それはきっと光(と共振/同化?する)を意味するのだろうと」
    「確かに私、シャア・アズナブルはその時一度、死んだのだよ。殺したのは君だ、そして同時に私はそこで生まれた。生まれ変わったのだ。そんな気さえする。あの時の情緒を、心をどう君に伝えればいいのか、詩詠みに疎く浅学な私にはわからん。しかし確かに、私は死の向こうに、光を、君の光を見た。死の向こうに君がいた」

    「何としても手に入れたい、あの光を、星を、この手に、この地に、落としてやろうと」

    ・「(これが)人の愛情とわかる日が、あの少年にも、いつか来るのであろうか」の地の文で締め。

    会い合い逢い哀い=愛
    合い=愛い


    「あなたの なまえを にゅうりょく してください ▼」
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works