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    crossxarms

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    #シャアム
    shaam

    地獄絵図/宇宙へ「いつかの頃、楽園や理想郷とは何か。議題として流行った時代があった。桃源、パライソ、まほろば、マヨヒガ、君達の国の言葉でさえ天国にさまざまな言い方があるが。私たち軍人は少なくとも、良き時代、良き国を作る為に戦っている。そう自分に言い聞かせて、また、パイロットの誇りにかけて戦ってきた。一国の軍人である前に、一人の戦士として母国の為に戦ってきた。非戦闘員の民間人だった君でさえ、きっとそこに何かの生き甲斐や意味を感じた為に、戦い続けたのではないかね、アムロ君」

    「天国とは、地獄とは何か」

    敵兵が物陰に潜み飛び出してくる。私は撃った。
    一面が焼け野原で、炎を吐く家屋の上に煙が立ち昇っていた。風が吹くたびに真っ赤な火が靡き、広がる。崩れた瓦礫はまるで針の筵だ。
    そこには、ただ一人、私以外に誰も立ってはいなかった。
    海のように血肉を焼き尽くす炎が広がる。地上は火柱に覆われて、朽ちた炭と垂れた鉄骨、全てが赤と橙色に照らされる。そこには恐るべき魔王がいた。
    地獄の主は私だった。

    「男は理想郷を求めて、一人、一人、私の前に立ちはだかる兵士を撃ち殺し、勝利を収めてきた。軍神として褒めそやされ、赤い彗星の名を頂き、私は遂に、宇宙だけでなく、地上さえも手にかけることのできる存在になった。そして君をそばに置くことも叶った。求めたものは今私の手の内にある」
    「しかし、それでも、私は、私であるが故、永遠に叶わぬ、届かぬものがある」
    「果たして地獄とは何かな、アムロ君」
    パイロットの死亡報告を淡々と受けるシャア
    ・美術の授業
    理想郷の絵を黒い絵の具で塗りつぶす
    その時の方がよほど、身の回りの物事に心は打ち震えて、灯火の中に影を見て、鳥の声すら歌声に感じられた。

    天国に憧れた男は、天国に向かう為、戦い続けたが、そんな男の足元には、無数の遺体と遺骨が埋まっている。
    男は自身の故郷が為に戦い、父の理想を仰ぎ、ニュータイプのまほろばを求め、つくりだしたのは、まさに地獄のごときであった。
    私は天国に憧れる。しかし男にあったのは腐敗臭と死臭のみ。男の中にあるのは死体に死体が積み重なり、肉の上には蛆が這い、骨の上には羽虫が集る。そんな地獄の光景だけであった。
    私は地獄を作った。光のあるところ。天国に憧れた故に。
    「アムロ君、君は冥府を、天国を信じるか」

    なんて不器用な人、アムロは苦く悲しげな顔でただ私を包むだけであった。
    アムロ
    私には人の心はわからない。あるのはわかる。しかし感ぜることはできない。まるで壁一枚隔てたようにして私の心の外側に、人の言う痛み悲しみがある。それこそ装甲を纏うMSの中にあって、弾道やアーム操作で敵を貫いた時のような、手の上に死の感触は何一つ残らない。しかし確かに目の前で人が死んでいる。私自身が殺した。しかし敵兵の怒号も悲鳴すらこの機体の中には届かない。敵兵の血潮が自身を汚すこともない。死を前にして彼らは何を思い死んでいったのか。
     側にあるのはわかる。しかしそれはどういったものであったか。いつしか私にはわからなくなった。人の心は殻に閉じられ、自分より遥か遠くに置かれて、最早自力では感じる事も叶わぬ。あれ程焦がれた光とはなんであったか、戦うしかできん私には見えなくなってしまった。
    しかし私を包み込む温もりは、私に光を教えてくれる。アムロが
    境界がなくなりアムロの心が

    アムロがいる限り、私は人間に還れるのだ。

    ---
    ニュータイプ能力者として目覚ましい開花を果たしたアムロは、ジオン軍大佐、ア・バオア・クーの宇宙要塞の戦いで、シャアのジオングとの交戦中にNTの感応波を利用した妨害を受け、動揺したタイミングで目と脚を負傷し、傷が神経と脊髄まで達していたため、片足を切断し、視力を永遠に失うことになった

    ガンダムパイロットとしての道を閉ざされたアムロは戦前から遠ざけられ、WBから降ろされることになるが、そのニュータイプ能力が脅威とされたこと、また戦果を上げたとはいえ、英雄と謳われる前にガンダムから降りた民間出身の一般兵のアムロ少尉はNTの軍事転用の研究に最適であった為、ジオン軍と停戦条約を結んだのを契機にアムロは、連邦軍所属の軍事研究所に身柄を拘束され、アメリカのシャイアンの地下監禁され、長期間にわたるNTの実験を受けることになった。

    被験者アムロは、アースノイドを人為的にNTへ覚醒できないか、NTの持つ強力な感応波を人為的(人工的に)に再現できないか、という目的の為に日々を監視されつつ、研究者や科学者から実験を受けていた。
    そんな監禁生活を送っていると、エゥーゴと呼ばれるスペースノイドで構成された連邦軍直下の組織よりクワトロ・バジーナ大尉が派遣される
    彼もまた曲がりなりにもNT能力者であり、アムロ・レイに強い関心を抱いており、ニュータイプ能力者の人工的な再現の延長としてジオン軍の強化人間の研究に携わっていると言うとの噂もあった。
    そんなクワトロ大尉が、被験者アムロの監禁されている病室(?)に白衣の人間と共に訪問する
    彼らは二、三言葉を交わしたあと、クワトロ大尉を残して部屋を出て行った。

    クワトロはサングラスをかけて顔を隠してはいたが、ニュータイプのアムロは無機質な部屋に土足で入室して顔を上げた男が、一年戦争で戦ったシャア・アズナブルその人であると一眼で『超理解』した。
    視覚情報のないアムロはたとえクワトロがサングラスをしていなかったとしても、もうその表情や瞳の奥底を伺うこともできないが、確かにシャアの気配がぼやけた靄のように心の上に情念として浮かび上がり、その男が瞳の奥から自分を射抜くように見つめていると、何故かわかってしまった

    何故男が今更自分に会いにきたのか、そしてどうやってここまで辿り着くことができたのか。自分は今シャイアンの研究所に監禁されていること、連邦軍の実験体になっていること、ニュータイプ能力者としてジオン公国側だけでなく連邦軍からも危険視され、パイロット能力を失いWBを降りた後も連邦軍の監視から解放されることはなく、そのままここに移動されたこと。その全てがシャアが知る由はない筈だった
    だからこそ、アムロは男に何を訊ねるわけでもなく、ただ神経を逆立て、身を固めて緊張しつつ、寝台の縁に小さく座ったまま男を見上げるしかなかった。

    (中略)

    もう翼も脚も失い、視力すら失い、目を開けても目の前に広がるのは墨で塗り潰したように真っ黒で光など何一つ届かない、永延と続く水で注ぎようもない奈落、真の暗闇しかない。
    しかし目を閉じれば、僕は夢を見ることができる。肉体的感覚を閉ざし、自分の内面に浮かぶ心の世界を、瞼の裏に映し出す。
    瞳を潰され、光の届かない闇にただ一人残された僕には、もはや、心しか見えない。心が放つ感応が作り出した世界しか僕の居場所はない。
    視界が消えて、目に見えるものが頼りにならなくなった今。だからこそ見えてくるものがある。
    あなたの心を、あの時より強く感じられる。

    「ガンダムパイロットでなくなった僕にも、もう一度宇宙に戻る方法がある」
    「宇宙。まさか、いくら医療技術が発達したとして、今の君には、もう正規軍として戦うことはありえん」
    「いえ、そうじゃないんです。シャア大佐。僕は、もうパイロットとして宇宙を飛ぶことはありません。でも、翼も脚も失った僕でも宇宙には還ることはできます」
    「何が言いたい、アムロ」
    「ララァ…」
    「ララァ・スン?」
    「ララァの元に還るんです」
    「何」
    「この肉体から、魂が解放されれば、僕は宇宙に還れる。僕の魂が封じられたこの肉体さえ取り除くことができれば、僕はあなたのいる宇宙に…」

    「馬鹿なことを言うな、アムロ」
    「しかし、肉塊でしかない僕に、それ以外に何ができると言うんです。僕はもう死を待つしかないのに」
    「そのうち僕はこの生命さえ失い、いつかあの無数の星々のところ、魂の在り方まで行く。機体を失っても、死ねば宇宙に還ることができる。この生活さえ耐えていれば、いつか必ず、天に召される時が来るんだよ」
    みんなのいる宇宙まで。

    「ごめんな。シャア、僕はもう、あなたの本当の顔さえ見ることも叶わない。僕は、一年戦争の間ずっと戦ってきた宿敵の素顔さえ、一度も見ることができなかった」
    「本当は、どんな顔をしているのですか」
    顔を触るアムロ
    「知りたいか、アムロ君。今の君の目の前には、ひどい火傷を負って顔の爛れた醜い男がいる。復讐が為に生きて、出生を騙り、名前を偽り、自軍を謀り、複数の顔を使い分けるうち、本当の自分が誰なのかさえ忘れてしまった。君が幼い手つきで頬を撫でている男は、そんな欺瞞に満ちたつまらぬ独りよがりで、君の人生の全てを奪った。君の優しさを受ける資格などない。私は多くの人々の肉をこの手で切り刻み、殴り潰し、悪漢のごとく貫いてきた。故に手には敵兵の生き血が滲んでいる。幾ら洗っても掌にある血の跡が取れんのだ。死霊に呪われ奪い生きるしかない。そんな穢れた男がいるのだよ」
    「嘘だよ。あなたは綺麗です。うまく言えないですけど、心は何色に染まるでもなく優しく、透き通っている。でも奥底は火でも燃やしたようにあったかい。今はその熱は弱いかもしれない。でもあなたはとても純粋で。綺麗な人です。僕にとってはあなたは美しい人です」

    涙など、もう枯れたと思っていたのに。

    この人が宇宙を行くならば、僕は二度と宇宙に行けずとも、心はきっと天まで届くだろうか。
    「あなたに心をあげます。よければ僕を、宇宙まで連れて行ってください」
    心音が弱々しく響く。全身を巡る血流は既に淀みに遮られ、皮膚の上に浮かび上がり、白い肌を枝状に広がっている。脈がまるで機能を失っていくかのように、少しずつ少しずつ、熱を失って、喉笛の息と共に細くなだらかに鎮まっていく、きっと僕はもう長くは持たない。
    ならばせめて今はあなたの為に。
    あなたが僕の霊に取り憑かれぬよう、物言わずただ優しく、笑顔で送り出そうと
    そう思ったのに何故だかあなたは僕の体躯を両腕で抱えて、胸を押し潰すようにして、全身を抱え込むように組み付いてきた。髪の毛だろうか柔らかな毛質の房が頬に何度もこびりついて、シャアは硬い頬を擦り付ける。なんて顔をしているの。何もわからない癖に、何故かそんな気がして、僕は安心して欲しくて、笑うつもりが、目尻からずっと無数の雫が溢れて僕の頬は冷たく濡れていた。
    きっともう僕の役目はおわったんだ。だからあなたがそんな悲しむ必要もないのに。
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