Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    おさとう

    @sora_tobu_sato

    ジャンル自由雑食アカウント20↑
    官能小説が好物😋✨

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 15

    おさとう

    ☆quiet follow

    Δ半サギョの続きです。
    サギョウ君16歳、半田君19歳の初々しいコンビの冒険物語。不定期更新。

    #半サギョ

    Nothing seek, nothing find 2霧の多い静かな夜、その少年は、霧の化身のような真っ白い服を纏って音もなく現れた。
    頭に被った布から覗く大きな黒い瞳。表情は乏しい。

    シンヨコの吸血鬼ハンターズギルドの時間はまったりと過ぎていた。
    人々が思い思いに過ごす中、俺も一人で眠気覚ましの珈琲を飲んでいた。
    俺、半田桃はハンターライセンスを持つダンピールだ。高校入学後、16歳から始めた下積みも含めてこの仕事はやっと三年になる。
    どうしてそんな早くからこの世界に飛び込んだのかと言うと、ダンピールの俺には人間中心の昼の世界よりも、多様性に富み、ダンピールの特殊能力を生かせる夜の世界の方が暮らしやすかったからだ。小さい頃からの願いだった。
    飛び込んでみてからというもの、熟練のハンターの間で自分の仕事を取ってくるのに精一杯で後悔する余裕もなく、経験値と腕を上げるのに必死な日々だ。
    といってもこの街はなぜか吸血鬼の仕事は絶え間なくて、慢性的にハンター不足で困っていた。

    そんな街へやってきた小さな彼は眩しそうに琥珀色に輝くギルドを見回してカウンターへ向かう。
    酒屋と間違えた訳ではなさそうなのは、彼が背中に猟銃を担いでいるので分かる。俺だけではなく、皆が興味津々だ。
    カウンターに収まった少年はまもなくギルドマスターのカズサさんと話し始めた。そしてなんとマスターから俺に呼び声が掛かった。
    「半田君。この子、アメリカから来たスナイパーなんだってさ。とりあえず実力試しもかねて、君が今夜現場に連れていってあげてくれないか」
    俺は当惑した。ギルドに来る新人はベテランのハンターが指導につくことの方が多く、俺自身カズサさんに世話になっている。まだ新人になって間もない俺で本当にいいんだろうか。ただ、カズサさんの申し出は俺には願ってもなかった。俺はずっとスナイパーの相棒を探していたのだ。
    「本当に俺でいいんですか?」
    「ああ、君はもう立派な先輩だよ」
    実感のわかない言葉だが、顔に出すと新人を不安にさせるだろうと、俺はぎこちなく笑顔を作って、俺より一回り小さな少年の顔を見下ろす。
    見上げてくる彼は、帽子でつつましく髪の毛を隠した白装束がまるで修行中の僧のようだ。
    対する俺は、彼のような宗教的つつましさなどかけらもない素性の、営業用のカソックもどきの恰好である。少し気おくれしながら、手を差し出した。
    「よろしく、俺はこの街のハンターの半田桃だ」
    「よろしくお願いします。僕はサギョウ。アメリカの片田舎から来ました」
    淡々とした物腰が常人離れをして静かで、俺は一層戸惑った。

    けれど、彼を退治に連れて行くと、すぐに彼の静かさの理由がわかった。
    彼がスナイパーとして自分の気配を出さないだけだった。彼は吸血鬼の位置を把握すると、方角だけ俺に告げて無線すら持たず、すぐに敵の死角を取りに姿を消した。戦っていると次々に援護射撃が命中し、俺はまだ幼い彼の実力を思い知らされる。一体どんな経験をしてきたらこんなに肝っ玉の座った、抜群の腕前の吸血鬼退治ができるのだろうか。独り立ちしたてで苦労していた俺は久しぶりに良い退治ができた。サギョウと俺を組ませてくれたカズサさんの目はやはり狂いがなかったのだ。けれど俺は、仕事を終えた後、彼を見つけるのに本当に苦労したのだが。

    サギョウは日本は初めて来たのだと言った。
    彼は本当に日本語以外何も日本の事を知らず、泊まるところさえ用意していなかったので、しばらく俺は彼をアパートが決まるまで俺の自宅に住まわせていたほどだ。アパートが見つかっても、家具も何もない、薄っぺらい部屋に驚く始末だから、俺は仕方なく彼の自宅に足しげく通って、買い物に炊事から洗濯まで教える羽目になった。彼はとても丁寧とは言えないやり方で必要最低限だけ覚えた。彼の部屋は鉄パイプのベッドと木製テーブルが一人分で、後はテレビも本棚も何もない。ただ彼はいつもテーブルの上にクロスを敷いて花を一輪飾るのを忘れなかった。そんな何も暮らしには執着のない男だが、代わりに凄まじい射撃の腕前と吸血鬼退治の執念を持っていた。
    俺に勝るかもしれない。ここの所、ダンピールの中でも抜群に吸血鬼感知能力の高い俺は、いずれ辣腕ハンターにさえ腕前は引けを取らなくなるかもしれないとたかをくくっていたのだが、まだあどけない彼を目の前にして、彼の得たいの知れない強靭さに武者震いを覚えた。
    本当に人間なのか、どこでそんな腕前を身に付けたのかと訊ねるとただ、アメリカの何もない平原にある貧しい片田舎で、吸血鬼を撃っていただけなのだと言う。
    彼の年は16だった。
    俺がようやく仕事を始めた歳にすでに彼は一人前の男の顔をしていたのだ。

    昼間は生気も乏しい彼だったが、夜に降り立つ真っ白い姿の彼の名前は仲間内で驚くほど広くとどろいた。何せ彼が背中に立ってくれると、時には夜空を流れ星のようにして、時には闇を縫うようにして、彼の銀の弾丸が敵性吸血鬼を地に落としていくのだ。彼の一寸たがわない弾道に皆見ほれた。
    すぐに彼はハントで引っ張りだこの人気者になった。

    けれど彼は気前良く誰の助けにも加わりはするけれど、誰と馴れ合うと言う事もしなかった。そのうち彼はギルドで一人が好きな一人前のハンターとして覚えられた。
    でも俺は彼の事をそう思えなかった。
    今の彼と同い年の頃の俺は母と父に愛されて何不自由なく育った、ただの無邪気な高校生だったのだ。
    当時の俺はまだ自分は子供だと思っていて、やっと学校生活だけでない暮らしに目を奪われ夜の世界に飛び出したばかりで、未来に胸を膨らませる時期だった。
    だが今では知っている。友達と過ごしたかけがえのない昼の暮らしの豊かさと、平凡さの素晴らしさを。
    彼は幼くして遠い地へ旅に出た一人前の男のとして振る舞うから。故郷を片田舎の何もなかった街だったと言うような奴だから。幼いころから吸血鬼を撃ってばかりだったというから。だからこそ彼が年頃の子供らしいことは何もしてこなかったのだと俺はなんとなく知ってしまったのだ。
    余計なお世話だが、俺は足しげく彼の元へ通ったし、彼がギルドに姿を見せれば隣の席に誘った。彼は素直に俺の作った飯を食って、俺の正面にちょこんと座って俺と仕事の依頼を待った。
    テーブルに座る彼はいつもどこを見ているのかわからない瞳をしていた。きっとずっとずっと遠くを見ていた。誰よりも現実的で頑な癖に誰よりも自由で大胆で詩的な少年だった。
    俺にとってそれは、生まれて初めて出来た「夜の世界の友達」だった。無論そんな事は決して口には出さなかったが、二人で退治に出掛ける時、俺は必ず彼に付き添いを頼むようになった。

    依頼を受けると、俺たちは夜の街を連れだって歩いていく。
    俺たちが話をするとき、俺の方が少しだけ背が高いから、いつも彼は俺の事を見上げる。強さなど嘘のようにとてもあどけない顔だなと飽きずに思う。
    「あの。半田センパイは、神父様なんですか?」
    「いやこれはあくまで職業用のコスチュームだ。仕立屋がこれを拵えてくれた。聖書と十字架を持ちたいならこれだと言ってな。本物だと思っていたか?」
    「なぁんだ」
    「なんだとはなんだ」
    「だって本当に神父様だったらセンパイは一体、どんな修行を積んできたのかと思ってました。この街はほんとに自由気ままですね」
    「サギョウは聖職者に詳しいのか」
    「プロテスタントの家系なんです。父さんは町の牧師です」
    とても真面目な人です、と付け足すと、サギョウは少しだけ微笑んだ。
    「ここはキリストもマリアもいない町なのかなぁ」
    「故郷が恋しくなったのか」
    「いいえ、逆です。僕は辺境が好きです。だって僕は辺境で生まれた男ですから。世界の端で生まれて、反対側の端まで歩いて行くつもりなんですよ」
    その言葉に俺は驚く。
    「…サギョウ、お前、いつかシンヨコを離れる日が来るのか?」
    「この町の強い吸血鬼を倒したら、また次を探しに行きます。そうやって世界を一周したら僕はやっと家に帰れる。お父さんに僕も貴方のように強くなりましたって言えます」
    まるで子供がこれからお気に入りの場所で遊び行くんだと話すように彼の笑顔は輝いていた。サギョウは本当に無邪気に銃を撃つことと吸血鬼退治の事しか考えていないのだろうか。わくわくする気持ちはとても分かるけれど、いつか来るかもしれない別れが胸をよぎるのは嫌だ。
    「吸血鬼退治の話ばかりだな。他に好きなこととかやりたい事はないのか」
    彼は少し考えて言った。
    「僕は小さくて銃しか使えないから、それだけは悔しいかなぁ。センパイみたいに、聖書や剣が使えたら恰好いいなぁ」
    俺は彼の頑固さに呆れて心に決めた。彼の肩に腕を回すと、抱き寄せて言い聞かせる。
    「よし、仕事が終わったらお前を誘惑して堕落させてやる。スーパーに寄ってお前の家に行って良いな?」
    その言葉にサギョウははっと顔を上げる。
    「えっ…またおいしいごはんを作ってくれるんですか?良いんですか?僕、これまで何一つお礼も出来てないのに…」
    サギョウは本当に世話の焼きがいのある奴だった。俺は一人っ子だ。こんな可愛い弟がいたらな、と思った。
    「シンヨコにお前が来てくれただけで十分だ」
    するとサギョウが初めて頬を赤くした。
    「僕って本当に吸血鬼退治以外、何も知らないんだ…」

    サギョウと歩くと、深い霧の立ち込める大きな森の中を勇敢な気持ちで歩くような、清らかで静かな懐かしい気持ちになった。
    俺はサギョウが大好きだった。

    こんな感じで、俺とサギョウの退治の遍歴が幕を明けた。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    👏👏👏🍑💖🌱🍑💖🌱☺🙏☺
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works