掌 ある夜、八木はいつもの場所に居なかった。
思ったより落ち込んでいる自分に気づいて、持て余してしまった期待を払うように頭を横に振る。居ないのが普通、居たら幸運だと割り切っていたはずなのに、初めの頃と全く変わってしまった頻度に、すっかり調子を狂わされている。
明日は会えるといいな、と煙草を燻らせる彼の背中を思い浮かべながら、目的を失った志津摩はそそくさとその場を離れた。
――でも、もしかしたらどこかに居るかもしれない。と、つい思い当たるいくつかの場所に足を運ぶ。今日はなぜだか諦めがつかない。
食堂に着くと、人はそこそこに居たがいつもと比べると閑散としていた。見渡せば酒につぶれた者たちが机に突っ伏して寝ている。
1911