言い訳の粒 アジーム家の客間ではいま、小さな昼食会が催されていた。来客は陽光の国の菓子メーカー社長の男であり、ホストは当主代行のカリムである。
この昼食会は、表向きは熱砂の国の食文化の視察という名目であったから、会場は熱砂の宴スタイルとして、絨毯の上に直接料理を置き、床に座して大皿を囲むかたちをとっていた。この会の開催理由が「表向き」である理由は、アジームの予定が詰まっていて商談としての時間枠が確保できなかったからで、とどのつまりは昼食の時間に商談をねじ込んだだけである。
「本日はお時間を頂戴し本当にありがとうございました。大変参考になりました」
まだ年若い社長は食事のあと、同席の副社長とともにたどたどしく熱砂の礼の姿勢をとった。カリムはおそらく同世代であろう二人の正面に座し、食後の茶のグラスを構えて鷹揚に頷いた。ジャミルはその隣に秘書として控えている。
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