【ふっさこ】別れは直ぐ側に 思った以上に戦況が悪い。
黒く不気味にそびえる古志城を見上げながら、左近は無意識に顔を歪め舌打ちしていた。
「どうしたんじゃ? お主らしくもなく苛立っておるのう」
左近の隣で、伏犠がいつものように余裕のある口調で言う。だが、その表情はいつになく硬かった。
左近と伏犠の二人は、呉軍を主とする一軍を率いて古志城東側の攻略に当たっていた。
広大な戦場は見通しも悪く、西、南、北門にそれぞれ布陣している友軍の状況は目視できない。しかし、時折やってくる伝令の報を総合すれば、どこも似たりよったりの苦戦ぶりのようだった。
特に東側には敵の戦力が一際厚く配置されていたようで、最初に斥候を放ってから、左近は攻めあぐねていた。力技で押し切るには予想される犠牲が大きすぎる。かといって、いつまでも手をこまねいているわけにもいかない。策を巡らせて散発的に仕掛けてみるものの、あまり大きな戦果は得られなかった。それもそうだろう。軍略を巡らせ戦術を駆使しても、大きすぎる戦力差はそれだけでは埋まらない。
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