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    Rahen_0323

    @Rahen_0323

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    Rahen_0323

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    カキツバタが居なくなる話四話目です。例の如くシリアス全開。
    シリーズ的なものなので「アレは死んだ(一話)」「SOS?(二話)」「堪えた悲鳴(三話)」から読むことをオススメします。気付けば追うのに色々不親切な仕様になっていた。申し訳ない。
    次回はハルトくん視点で進みます。

    円盤校長室を去り、カキツバタの部屋の鍵を返却した後。
    シアノ校長から借りたDVDは、誰の部屋にもビデオデッキは無かったし先生に借りようにも事情を説明するのはマズいので、私が所有していたパソコンから再生するのを決めた。
    ハルトさん達の連絡がまだ無いことを確認してから先輩達と自室に入り、パソコンを起動する。
    「それにしても、タロ」
    「?」
    「アンタ、カキツバタのポーチそのまま持ち歩くつもりなの?」
    高くも安くもないノートパソコンが起動するのを待つ間、ふとそうゼイユさんに指摘された。
    私は腰に提げていたポーチを一瞥して、迷った末に頷く。
    「快く思われないのは分かってますけど……これを受け取ったのは私です。……掴んでしまった以上、置いておく気になれなくて」
    使い込まれ、ずっと彼と共に居た。そんな物を私が放り出して目を逸らしてしまったら、本当に二度と会えない気がして。
    いや、違う。それもあるけどそれだけじゃない。一番大きいのは。

    「私、私や皆が、カキツバタのことを忘れてしまうのが、怖いんです」

    いい加減だし怠けてばかりだし授業もサボるし、いつもヘラヘラして人をおちょくって……
    でも、そんな彼だって彼なりに私達を守ってくれていた。助けてくれていた。本人は『自分はなにもしてない』みたいな顔して振る舞ってたけど、気付かないわけもない。
    自分が嫌われるのも厭わず、いつも皆の為を考えてくれていた私達の大切な仲間。確かに慕われ、様々な強さを示し続けていた友達。
    そんな彼の存在を、いつか私が、皆が記憶の片隅に追いやってしまうかもしれないのが、嫌で嫌で怖くて辛くて。
    「残酷なのは百も承知ですけど……忘れて楽になるくらいなら、私は、憶えていたまま苦しみたい。彼との思い出まで捨てられたくないんです」

    だって、家族に「死んだ」と言われてしまった彼を私達まで忘れたら、一体誰が彼を想ってあげられるの?

    「ネリネはタロに同意します。カキツバタに限らず、ゼイユでもスグリでもアカマツでも、他の誰が同じようになっても………ネリネは決して忘れたくない。忘れ去られて欲しくない」
    「……そうね。だってあたし達、リーグ部の仲間だものね!うん、そういうことならあたし、もうなにも言わないわ。…………皆にはちょっと悪いけど」
    「ありがとうございます」
    本当に、酷とは分かってたけど。楽になりたい人にも申し訳ないけれど。
    それでも同調してくれるのが嬉しくて、口角を緩めた。……笑うのが少し下手な自覚はあった。
    「あっ、パソコン動きましたね。ちょっとお待ちください」
    話が区切られたところで丁度起動が終わったようなので、私は手早くパスワードを入力して立ち上げた。
    そして直ぐに、ネリネ先輩の手の中にあった円盤を受け取る。
    「では……早速再生しますよ」
    「ええ、いつでも大丈夫」
    「お願いします」
    ケースを開き、パソコンのDVDプレイヤーに中身を載せた。キュルキュル軽く回転し、読み込まれる音が。
    三人で見るにはちょっと画面が小さいけど、くっつくように覗き込む。
    短いものなのか、読み込みは僅かな時間で終わった為、私は深呼吸を一つしてから再生ボタンをクリックした。

    校長室の映像が流れ出す。シアノ校長が書類仕事をしている姿があり。
    次には軽いノックの音が響いた。

    『どうぞー』
    『……失礼します』

    入室したのは、当たり前のようにカキツバタ。
    見たことも無いほど思い詰めた顔をしていた彼は、ズンズン先生の目の前へと立った。

    『やっほーツバっちゃん。キミっていつも急に来るよねえ』
    『アンタの言えたことじゃないでしょう。……まあ無駄話はいい。とっとと本題に入らせてもらうが』
    『いつになく逸ってるねえ。僕に用事でも?』
    『アンタ以外への用件ならここには来ない』

    彼は私達には向けない乱暴な言葉と動作で、一枚の紙を叩きつけた。
    それは私達も見た退学届けだ。

    『学園、辞めるわ』
    『……誰が?』
    『オイラ以外の誰だと思う?』
    『うーん、これはまた突然だね。理由を訊いても?』
    『そいつにも書いたが、家の事情さ。帰らなきゃいけなくなった。学園に留まることを許されなくなった。……それだけ』

    十分でしょう、と目を合わせようとしない彼に校長は不服そうにする。

    『いやいや、十分ってねえ。もうちょっと詳しく教えてくれてもいいんじゃないの?』
    『アンタは興味無いだろ。一生徒の家事情なんて』
    『興味とかじゃなくて。僕校長だよ?生徒が去るって言うならちゃんと聞くべき話は聞いて、内外問わず納得させてしっかり手続きとか踏まないといけないの。学校って意外と単純じゃないし、ましてやここはイッシュの本土から離れてるバトル強豪校。つまりは、特別な場所。そういうのは案外ちょーっと厳しいんだよ?キミが特に問題行動起こしたわけでもないし、退学とするなら、』
    『三回も進級出来なかった留年生が、保護者に辞めろと言われたから辞める。それでいいだろぃ?』
    『うーーーん……そう言われると確かにそうかも?』

    校長!!そこは退かずにもっと引き留めるとかですね!!
    激怒しそうになりながら、落ち着いて続きに集中する。

    『でもさ、リーグ部はどうするの?キミ部長と四天王業務の引き継ぎしてくれた?』
    『うっ……いや、オイラそういうのはですね』
    『あーやってないんだ。じゃあこれは受け取れないかな。僕も普通に困るもん』
    『まっ、でも待ってくださいよ。リーグ部の仕事なんざ、オイラが居なくても回るだろぃ。タロ達は真面目だ。スグリも元に戻った。部内の状態や他の部との関係性も良好で、ハルトや特別講師も居る。それこそどうとでも』
    『ツバっちゃん』
    『……!!』
    『キミ、なにを死に急いでるの?……それはまるで、最初から自分が居なくなってもいいよう仕込んだみたいだ。もしかしてこの日の為だったりした?』
    『…………そうじゃない』

    カキツバタは、遠慮の無い質問に項垂れる。

    『仕込むわけねえだろ。止めてくれや、そういうの。オイラは、ただ……楽しく、楽に、生きたかっただけで。面倒押し付けた自覚は確かにあるよ。でもそんなつもりじゃなくて』
    『…………誰の為でもなんの企みがあったわけでもなく、純粋に楽しみたかったって?キミらしいけど、キミらしくないね』
    『…………………………』
    『とにかく、これは受理出来ないよ。どうしても家に戻らなきゃいけないなら、休学も一つの手じゃない?タロちゃん達とは一緒に卒業出来ずともそのうち……』

    ゆっくり、ゆっくりと白い頭が持ち上がる。
    カキツバタの目には、一縷の希望すら宿っていなかった。

    『もう戻れねえんだ。二度と。ここには。だから、せめて割り切りたいのに』

    校長は今一度『どうして退学を?』と尋ねる。
    カキツバタは。

    『宝もプライドも、守ったまま、捨てる為に』

    答えとも言い難い答えを絞り出した。

    『……もう行くわ。どうしたってオイラは二度とアンタの前に現れない。……無駄に席を埋めておきたいなら、ご自由にどうぞ』

    引き留める人でも彼とそういう関係でもない校長は、早足で逃げ去るカキツバタを黙って見送ってしまった。
    それから独り言を零す。

    『どうせ捨てるのに守り切ろうなんて、非合理的だねえ』

    学者らしい一言だった。

    そして、映像は終わる。

    「うーん、大した話は無かったわね」
    ゼイユさんはそう肩を落としていた。私はDVDを取り出しながら頷く。
    「家でなにかが起きたとか、本人も戻れないと知っていたとか……既に確信を得ていた情報ばかり。空振りですかね」
    校長は私達が何処まで知ってるか知らなかった筈だ。だからまあ仕方ないけれど。
    また振り出しだろうかと円盤を見つめれば、そこでネリネ先輩が口を開いた。
    「しかし、『宝とプライドを守ったまま捨てる』とはどういった意味でしょうか……?」
    「そこが引っ掛かるのは分かるわ。守りたいのは当たり前として、なんで捨てようと思うのよ。大事ならそのまま生きて守り続けろっての!あ、いや死んでないけど!」
    宝。宝か。
    プライドはまあドラゴン使いとしてとか、想像がつきやすい。でも『宝』とは?
    自惚れではなく大事にされていた自覚はあるものの……私達のこと、ではなさそうだ。
    じゃあもっと近い距離の、家族とか?
    「……思えば、彼の家は大きなものです。もしかして、彼以外にも"なにか"に巻き込まれた人や巻き込まれそうになっていた人が居た、とか……?」
    「ああ、その可能性は考えてなかったわね」
    「となると、次はスグリ達からの連絡待ちでしょうか」
    一つ一つ情報を手繰り寄せる私達は、早速ハルトさんにメッセージを送ってみる。報告と今言ったことを探ってみれないか、という内容だ。
    直ぐに既読と共に『了解』という短い返事が来る。今頃ってやつだが、迷子になってないかとか三人で大丈夫かなとか、ちょっと心配になった。
    「そろそろ三人がソウリュウシティに着いてる頃でしょうか……」
    不安になりつつ、あの子達を信じてあげようと首を振った。

    それに、そう。もしもがあれば、カキツバタのポケモンだって居るから。

    そうだよね、と語り掛ければ、ブリジュラスのボールが揺れた。















    イッシュ地方本土、ソウリュウシティ。
    そこに聳え立つ立派な屋敷の前で、僕ハルトとスグリとアカマツくんは頷き合い、インターホンを鳴らした。

    もう一度、あの大好きな仲間と笑いたい。その為なら、何年掛かろうと戦い続けてやる。

    そんな決意を胸に。
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