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    PoPoPoPontatta

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    ちょっとずつ更新できたらな〜
    とか思いながら書いたり消したり眺めてみたりしています お蔵入りにしないよう頑張りたいです

    #ヴァイ墓

    .ウロボロスとクワイヤは犬猿の仲だ。
    それは彼らが所属する組織の中では周知の事実であった。
    錬金術を究めるべく日夜研究に没頭するウロボロスと、それを多方面からサポートする代わりに利潤を受け取るクワイヤ。
    関係性の上では互いに協力を結んでいるにも関わらず、ひとたび顔を合わせれば途端に飛び交う嫌味や皮肉。果ては口論にまで発展し、第三者の介入によってでなければ終わることのない言い争い。
    ある時は教団の建物内にある通路で。またある時はウロボロスの使う地下の実験場で。更にまたある時は会議室の入口で。

    「ありゃもう名物みたいなもんだな。なに、見慣れりゃ猫の喧嘩みたいなものさ」

    そんなことを言ったのは、彼らと並んで科学技術派のリーダーである電解と名乗る男だったか。
    互いに手を結んでいる筈の集団、そのトップを担う人物が不仲であると言うことは本来ならば大変に由々しき事態なのだが、電解と同じく利害で結ばれている彼らは自身の抱える目的のために相手と関係を切るわけにはいかない。そんな事をすれば、大きな損失を被るだけだと2人とも分かっている。
    とはいえどちらも相手の態度が気に入らないため、目が合っただけで両者の間には火花が散る。ああ言えばこう言う、売り言葉に買い言葉。まるで水と油だ。
    そのため電解の言う通り、時も場所も関係なく2人が揃えば勃発するその光景はもはや見慣れたものとして各組織の間で浸透していた。
    「なんだか騒がしいな」と誰かが言えば、「ああ、いつものだろう」と誰かが答える。するとまた誰かが「またあのお二人か」と漏らす。
    最初こそ2人の口論をハラハラと見守るしかなかった側付きの者達も、今では仲裁に入るタイミングを見極めるのだってもう慣れたものだ。
    そうして今日も、またどこかで偶然顔を突き合わせたらしい2人が口喧嘩を繰り広げる声がどこかから聞こえてくる。
    もはや聞き慣れたその様子に、組織の構成員達は苦笑混じりの溜息を吐いたのだった。





    「フ…。クク、ハハハ!完成だ…!私にすればまあこの程度の薬など、完成させるのは朝飯前だが…」

    「何をブツブツと呟いているんだ。散らかした後始末くらいさっさとしてくれ」

    液体の入ったフラスコを見つめながら妖しげな笑みを湛えるウロボロスに、鋭い鉤爪と大きな尾を生やした異形の男が呆れた声を投げかける。
    "異変"と呼ばれるその男の言葉にウロボロスは「ム…」と不服そうな様子で言葉を切るが、しかし改めて周りに目をやれば調合机の上、もといその周辺は確かに散々な有様だ。
    卓上に置かれた様々な書物と謎の液体、あちこちに散乱した何かの素材、更に幾つも足元へと散らばる殴り書きのメモ。
    よくもまあ、今の今までこんな乱雑を体現したような場所で薬品の調合、精製という繊細な作業が出来たものである。

    「その本、確か今は滅んだ某国の秘呪法の書かれた古書だろう?その下のは××の密教に関する禁書だったと記憶しているが。私の尾がうっかりそこの瓶にぶつかって、貴重な史料の上に中身がぶちまけられても良いのなら構わんがね」

    そう言って包帯に包まれた大きな尾を手狭そうに揺らめかせる異変に、ウロボロスは小さく舌打ちをしながらも閉口する。
    不服そうな表情を浮かべつつも散らかった材料を棚にしまっていると、その後ろでは異変が「ところで」と声をかけてきた。

    「君が完成させたと言っていた、その液体は何だ?何処ぞの輩から暗殺用の毒薬でも頼まれたか」

    「まさか。今更そんなちゃちな依頼で私が動くか。そんなものは下の連中にでもやらせておけばいい」

    「だろうな。では何を作ってそんなに楽しそうにしていたんだ?」

    顎をに手をやりながらそう尋ねる異変へ、ウロボロスはニィと口の端を吊り上げて鋭く尖った歯列を露わにする。

    「媚薬だ。俗に言う、惚れ薬というヤツだな」

    愉快そうにクク、と喉を鳴らしながら告げられたウロボロスの答えに、異変は思わず目を丸くした。
    それもそうだろう。身も心も人としての道理から外れ、時には禁忌に触れるような手法を用いて錬金術の真髄に近付かんと日夜研究に勤しんでいる彼が自信満々に作り上げたモノがまさかの惚れ薬とは。
    一体どう言った風の吹き回しなのだ、と異変が怪訝そうな表情を浮かべるのも無理のない話である。

    「惚れ薬?それはまた、一体何故。パトロンとして懇意にしたい女性でもいるのか?」

    「いいや。確かに金は幾らあってもいいが、そのために色恋の真似事をするなぞ勘弁だ。面倒な事この上ない」

    「それはまあ、そうだな。出資ならクワイヤが出している分で現状事足りているし…」

    そこまで言ったところで、背を向けていたウロボロスが勢いよく振り向く。
    驚いて目を見開く異変に向かって「そう!そのクワイヤだ!!」と大きな声を張り上げた。

    「あの小僧め、多少金と場所を工面しているからといっていつもいつも生意気な物言いばかりを!ものを知らぬ下っ端共には神の御使だの何だのと持て囃されているようだが、ハッ!あれは只のアルビノだろう!単なるヒトの白化個体に過ぎん!あのように煩く吠える様子の一体どこが神聖なものか!」

    ひと息にそう捲し立てるその声音は、先程の愉悦を滲ませたものとは一転して苛立ちを滲ませている。
    確かにクワイヤと呼ばれる青年は、ウロボロスや異変とはまた違った意味で普通の人間とはかけ離れた見た目をしていた。
    金髪よりも尚淡い白金の髪色に、白磁の如く白い肌。そして血の色がうっすらと透けるような赤味を帯びた瞳。人によっては畏敬をも感じさせるその風貌の原因は、先程ウロボロスが言った通りアルビノと呼ばれる先天性の遺伝子疾患だ。
    その事を教えてやったのは他ならぬウロボロスだったのだが、しかし彼の抱える部下達はクワイヤがアルビノとして生を授かった事自体が神の御印だと言って憚らないのである。

    「フン。奇異な見目を逆手に取って人を集めるしか能の無い小童風情が、この私に毎回毎回減らず愚痴を。ああ、気に入らん!」

    長い右足が苛立ちを表すようにダン!石畳を叩くと同時、髪の毛と一体化した青黒い蛇達がシャァ!と威嚇音を上げる。
    ウロボロスは何人にも尊大な態度で接する男だ。
    そんな彼に対し、良くも悪くも研究以外のことは二の次な電解と違って律儀に真正面から相対するクワイヤは初めから反りが合わなかった。

    「成程。で、君はその惚れ薬を使ってクワイヤに恥のひとつでもかかせてやろうというわけだな」

    「その通り。なに、少々の間私の犬になってもらうだけだ。常より敵愾心を抱いている筈の私に尻尾を振って媚び諂う様を、小煩い取り巻き共に見せてやろう。薬の効果が切れた後に奴がどんな顔をするかと思うと、あァ、今から笑いが止まらんな!」

    ハハハハ!と声高らかに笑うその様に反し、異変ははあ…と何とも気のない声を返す。
    だがそんな白けた反応も気にする事なく、ウロボロスは愉快そうに口元を歪めながらフラスコの中で揺らめく液体を見つめている。

    「一応訊いておくが、同性でも効果はあるのかね?」

    「愚問だな。私を誰だと思っている?既に効果は検証済み、異性だろうが同性だろうがひとたび薬が身体に入れば、ものの数分で骨抜きも同然だ」

    「はあ。まあ、お遊びは良いが程々にしておけよ」

    錬金術の研究に関して屈指の知識と技術を持つ彼が、ただの私怨でそんな物へ注力していたという事実に呆れて肩を竦める異変。
    とはいえ自分が与する派閥の長にわざわざ物申すほどの義理がクワイヤにあるわけでもない。
    恨みはないがお気の毒さま、と異変は僅かな憐憫を感じつつも実験室を後にする。
    そうして室内にはウロボロスだけが取り残されたが、しかしそれでいて尚、室内には愉快そうなクツクツという笑いが溢れ続けていた。
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