"逢魔が時"☾·゙゙´.。.゚´*。,。,、 `¨☾゜`´*‥·'、、*
森の中に、僕のお気に入りの場所がある。
月夜が美しい、夜の吐息。
静まる空気に、光り輝く星の数々。
朝露が零れ落ち、動物達が起き出す頃。
清々しい朝の、囁くような風の音。
木漏れ日が輝き、水面がぽちゃり、ぽちゃりと煌めく昼日中。
ゆったりと流れる時間に、ゆらゆらと葉が揺れる音。
ーーーそして、夕暮れが暗闇を呼ぶ時間。
逢魔が時と呼ばれる時間帯。
キラキラと輝く橙色が全てを包み込み、藍色から暗闇へと変化していく瞬間を見るのが好きだった。
そんな中、小さな影がふたつ。
「あれは…」
ビクリ、と肩を揺らす様子に怯えてる事を感じ取る。
(…子ども?)
ゆっくりと近付いてストン、とかがんで目線を合わせていく。
「…君たち、どうしたの?」
「…」
「…」
じっとこちらを伺うようにしている。
(まぁ、仕方ないよね…)
実際こちらから子どもの顔が見えないし、とりあえず自分に対しての険悪な様子なのは分かる。
「ちょっと待っててね」
「…?」
近くを見回して木苺を見つけると、ぷち、ぷち、と小気味良い音を立てながら掌へと乗せていく。
片手いっぱいになったところで、2人の目の前へと持っていく。
「はい、木苺だよ。食べた事ある?」
「…ない」
「…美味しいの?」
聞いた事のある声、でも何故だか思い出せない。
「そっか、じゃあ僕食べてみるから見てて」
「え」
ぱくり、と一粒食べると甘酸っぱい果汁が広がり、いつもの味だと安心する。
昔はよく食べていたな、と懐かしく思い口元を緩めてしまう。
「ん、おいしい」
「…にいさま、」
「あぁ…」
兄弟なのだろうか、男の子の声だ。
”にいさま”と呼ばれた男の子が手をおそるおそる伸ばして一粒食べる。
ピク、と肩が揺れたが甘酸っぱさに驚いたのだろうか。
「…大丈夫だ、ほら」
「あーん…、ん!あまい!」
ぱぁぁっ、と聴こえてくるような喜びように、ほっと一息つく。
2人とも、お腹が空いていたのだろうか。
パクパクと食べていき、あっという間になくなってしまった。
「あ…」
「すまない、全部食べてしまった…。」
「ふふ、大丈夫だよ。美味しかった?」
「うん!ちょっとすっぱくて、でも甘くておいしかった!」
「…美味かった」
「じゃあ、あそこにまだあるから一緒に採りに行こうか」
「いいのか?」
「もちろんだよ、ほら」
2人に手を差し出すと、小さな男の子はすぐに嬉しそうに繋いでいた。
”にいさま”は躊躇っているようだったが、指先をちょこん、と掴んできた。
恥ずかしさと、少しの信用かな、と微笑ましく思いながら、2人の手を、きゅ、と優しく握って歩き出した。
「僕、マッシュ・バーンデッド。2人の名前は?」
「…レイン・エイムズ」
「フィン・エイムズだよ!」
「かっこいい名前だね、レインくんとフィンくんって呼んでもいい?」
「うん!お兄ちゃんは…」
「マッシュで良いよ」
「マッシュ…さん?」
「マッシュでも、マッシュくんでもいいし、好きに呼んでいいよ」
「じゃあ、マッシュくんって呼ぶね!」
「…マッシュ」
2人の呼び方にしっくりとくる。
”フィン”にマッシュさん、と呼ばれた時にズキ、と胸が痛んだ。
初対面のはずなのに、こう呼んでほしいと思っていた。
…何故だろうか。
難しい事を考えるのは得意じゃないから、まぁいっか。
名前を聞いたら、表情が見えるようになった。
…やっぱり、どこかで見た事があるのかな…。
3人で木苺を取り、食べたりレインくんが魔法で籠を作って持って帰るように採ったりして穏やかな時間を過ごしていると、もう月が見え始めようとしていた。
「もう、暗くなってきたね。2人とも、家は…」
そこまで言って、固まってしまった。
2人とも、苦痛に歪んだ表情をしていたからだ。
家、と聞いただけでこの表情。
あまり考えられない僕でもわかる。
「…とりあえず、僕の家に行こうか」
「…!…いいの?」
「…それは、」
「うん、大丈夫だよ。もう暗くなってきて危ないからね」
「マッシュくんのお家、行きたい!…にいさま…」
じっと見つめられると、うぐっ…、と声を漏らしながらも、分かった、と小さく頷いた。
「じゃあ、手を繋いでいきたい所だけど…」
「え、手繋がないの…?」
「マッシュ…」
不安そうに見上げる2人を安心させるよう、手を伸ばしながら笑いかけた。
「はぐれたら危ないから、こうしようね」
「え…っ」
「うわ…っ、マッシュ…!」
「うわぁ!たか~い!」
「おろせ…っ!」
「こら、レインくん。暗い森は危ないんだよ?」
「にいさま、すごいね!」
「…」
「ほら、見てみて…夕日が、綺麗だよ」
「わ…本当だ」
「…宵の口、だな」
「レインくんは賢いね、すごいなぁ」
「にいさまは凄いんだよ!何でも知ってるんだ!」
「そっかぁ」
きゃいきゃいと会話を弾ませる2人に、ふっ、と笑いながら諦め、マッシュに身体を預けように寄りかかる。
3人はマッシュの家へ着くと一緒にご飯を食べて、お風呂に入り。
川の字になって布団へと入った。
「レインくん、フィンくん」
「なぁに、マッシュくん」
「明日は湖に行って、魚を捕りに行こう」
「魚…捕れるのか?」
「捕れるよ、釣り竿で釣ってもいいし、手で捕まえる事もできるよ」
「うわぁ…楽しそう!僕もやってみたいな」
「うん、いいよ、行こうね」
「…ん、」
話しているとレインとフィンは、うとうとしてきたようだった。
先に寝るまい、と目を開けようとしているがそんな様子に思わず笑ってしまう。
「…大丈夫だよ」
「ん…」
「マッシュくん…」
「一緒に居るから大丈夫…、良い子だね」
ゆっくりと2人の頭を撫でていくと、瞼が徐々に閉じていき、スー…スー…と可愛らしい寝息が聞こえる。
「いいこ、いいこ…。おやすみなさい、2人とも」
ちゅ、ちゅ、と髪に口付けを贈る。
いい夢を見られますように、と。
ふわりと香る2人の匂いは少し違う。
フィンくんは、小さい子特有の少し甘い香り。
レインくんは、甘い香りを含ませているけれど、新緑に包まれているかのような、ハーブのような…爽やかな香りを纏っていた。
僕は、どこかで…。
難しい事を考えていたからだろうか。
瞼がゆっくりと閉じられていくのが分かる。
明日は魚捕りと何をしようか。
楽しみだな…と期待を膨らませながら、揺蕩うような微睡みに身を任せていったーーーー。
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「シュ…、マッシュ!」
「…っは…、れい、んく…?」
「マッシュくん!よかったぁ…」
「フィン、保険医を呼んできてくれ」
「うん、わかった…!」
3人で見た時のような、夕焼け色に部屋が染まっていく。
ぱたぱたと走っていくフィンを見送ると、レインが頭を撫でてくる。
「…?ちいさい、男の子は…」
「ん…どうした?夢を見ていたのか?」
「…夢…」
2人はレインとフィンと名乗っていたが、自分は今のままだった。
森も変わりなかったが、家に誰もおらず、料理もしっかりできていたことに今更気付く。
「…そっか、夢、だったんだ」
「…マッシュ?」
レインは心配そうに頬に手を添えてくる。
その香りに、ハッとする。
「…匂い」
「…?」
「あれは、やっぱりレインくんだったんですね」
「俺がいたのか?」
「…小さいレインくんとフィンくんがいました。」
「そうか…」
「…聞いてくれますか?」
「ああ、教えてくれ…」
「ねぇ、レインくん」
「何だ?」
「…夕日が綺麗ですね」
「あぁ…きっと、月も綺麗だろうな」
くすくすと笑い合いながら、2人で優しい口付けを交わした。
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