まぶしい世界 大雪の降った翌朝、甲板に上がると手のひらサイズの雪うさぎが鎮座していた。自分の艦ではなく、隣に。夜のうちにでも誰かしら若いのが作ったのだろう。関東南部でこの量の積雪は珍しくちょっとしたイベント騒ぎになるのも無理はない。自分自身も長崎を経ったあとはずっと横須賀だからさほど慣れているわけではないのだが、童心よりも寒さが勝る。目的の様子見は済んだとさっさと艦内に戻ろうと踵を返したところで呼び声が聴こえた。
「おはようございます! こいつね、俺が作ったんですよ。なかなか可愛く出来てるでしょう?」
得意気に指差す仕草に思わず若いな、と呟く。耳ざとく拾った後輩は笑顔から一変し、やや不満そうなむくれ顔になる。
「そうやってすぐ子供扱いする……」
じっとりとした視線を受けて漏れそうになるため息をぐっと堪えた。若いのは事実だろう、と思うのだがよくわからない。僚艦が通り掛かったのを良いことに助けを求める。
「せっかくですから一緒に作ったらどうですか。けっこう楽しいので」
ほら、と今降りてきた自艦を指差す。よく見るとそこには門松と並んで雪だるまの頭が覗いている。それじゃあ今日は休暇なので、と上陸していく後輩の背を揃って見送った。
「きりしまさん」
「昼なら」
向き合うなり期待の眼差しを向けられる。この際早く空調の効いた艦内に帰りたい。そんな思いもあってこちらから提案した。内心、その頃には溶けるのではないかと期待する本音も持ちつつ。それを知ってか知らずか素直に喜ぶ後輩の姿を見てまぁ良いか、とも思う。
残念ながらささやかな願望はあえなく破れ去り、あまり気温の上がらない中での雪遊びに付き合う羽目となった。たまには悪くない。あくまでもたまには、だが。