つきあかり まだまだ暑い内、とはいえ日中であっても日差しは和らいで来ていて秋らしくなっている。日没後の甲板にひとり佇むなか、肌を撫でていく風は涼しくて心地がいい。ぼんやりできるのもしばらくお預けかと思えば、早々に艦内へ戻るのも名残惜しく夜空に浮かぶ満月をしばらく眺めることにした。ふと、さわさわとした風の音に乗って自分の名を呼ぶ声が聞こえることに気付く。
「なにやってるんですか」
声のする岸壁の側へ、視線を向けるとありあけがちょいちょいと手招きをしている。外出帰りなのかやけに荷物が多い。
「あー。つき見、ってとこか? 覗いてたら顔が見えたからさ、時間あるならこっち来いよ」
団子もあるぞーと提げた袋のひとつをごそごそと探りパッケージを掲げてくる。苦笑ひとつを返事代わりに舷門へ足を向けた。
降りると早々に、〝我らがつきへのお供え〟と称して両腕いっぱいの菓子を渡されることになるとは思わなかったが。荷物に入らなかったら置いてっていいからなと付け加えられた言葉に本来の目的を知る。長い付き合いなだけあって好みはしっかりと把握されているしそれに、幸いまだ買い出し前だった。
「ありがとうございます。……いってきます」
ん、気を付けてなと柔らかな笑みとともにぽんぽんと背を叩かれる。立ちっぱなしもなんだしちょっと場所変えるか、と呟き据え付けられたベンチへ向かう背を追う。歩きながらまだ少し早い見送りに少しだけ寂しさが滲む。そんな感傷を知ってか知らずか、腰掛けるなりベリベリと団子のパッケージを開けその内の一本を自分で咥え、残りを差し出している。隣に腰掛けいただきますと受け取れば満足そうに頷く。
「買いすぎたから遠慮なく食え。まだ若いんだからいけるだろ」
夕飯後の胃にはいささか多い量をふたりで平らげ揃って引き上げるまで、月明かりが見守るようにそっと照らし続けていた。