結び目 細長い布を首に掛け、輪っかを作っては潜らせて形作っていく。締めにしゅっと絞って整えたら完成だ。初めて教わった時は一応結べたという程度だったけれど、幾度か繰り返す内に見映えも良くなってきたと思う。シャツ自体も着なれてないからぎこちなさこそあるけれど、鏡に映る姿は昨年の春に見掛けた新卒の人達のようだ。一年が経つのは早い。就役はまだ少し先だけれど春に向けて身仕度の準備も着々と進んでいる。最後に受け取ったばかりの制服に袖を通す。これなら今すぐ艦に乗り込んでも違和感を抱かれないだろう。
「あ、兄ちゃん制服着てる! ネクタイ上手く結べないから教えてもらおうと思って」
のしろがガチャリと開けたドアから顔を覗かせ、ちょうど良かったーと笑いながら隣に陣取る。姿見に入るよう半身ずらしてからふと思い出した。それ(パーカー)じゃやり辛いからと予備のシャツをロッカーから出して渡した。
「なんで新しいやつ? 別に洗う前ので大丈夫だよ。皺付けちゃうし」
掛けてあるハンガーを横目にして遠慮がちな声に、アイロン当てる練習しないといけないからね。そう苦笑しつつ答えた。それを聞いて先々の出来るようになることの多さに思い至ったのか、少しげんなりした顔をしたのしろを見て笑う。先日までの冷え込みが和らいだ穏やかな午後のある日。
急流のごとく、慌ただしくも幸せな艤装期間は過ぎていく。大海原はもうすぐそこに。