護るもの 入港の挨拶をしに顔を見せたすずつきと出入口で出会し、祝いの言葉を掛けるとともに皆が揃うあたりへと足を進める。近況を尋ねたり雑談を交わす中でそういえば、と軽く問いを投げ掛けた。
「大船に乗ったつもりで、とはもう言ってくれないの?」
いつかの造船所の一角で交わした会話は流れこそ忘れてしまったけれど、淡々と紡がれた言葉は喧しいくらいの蝉の鳴き声に混ざってもなおしっかりと耳に残っている。そういう風に造られた、とわかってはいても自分のために向けられた気持ちは嬉しいものだ。少し年甲斐もなく照れてしまうくらいには。
「よりによってそこ覚えてるんですか……。慣用句だといっても自分より大型の艦相手に〝大船〟なんて言ったの、直後に後悔したんで早く忘れてくださいよ」
言った本人は若気の至りを掘り起こされて穴があったら入りたいと全身で訴えているが、そこへゆったりと返す。
「それは無理かなぁ。頼りにしているんだけれど」
「それはもちろん……! 背中はお任せください!」
バッと上げた顔には決意が満ちている。にこりと笑ってこれからよろしくと改めて握手を交わした。気付けばもう談話室の目の前だ。扉を開けば早速、既知の在泊艦艇たちから受けるやや手荒い歓迎に快活な笑い声が響く。もみくちゃな様子にドッグランみたいだなと思いつつも、そこへ混ざるべくゆっくりと歩み寄っていった。